殺戮軍師の戦記
補佐官のミルは遠慮がちに口を開く。
「あの、ウラガ軍師……」
「何でしょう?」
「これは果たして、戦争と呼んでいいのですか」
彼らの眼前には虐殺が繰り広げられていた。
軍師ウラガの手から光球が放たれ、それが遥か前方の敵軍に炸裂する。
光球が爆ぜるたびに数百の敵兵が木っ端微塵に吹き飛んだ。
涼しい顔で手をかざすウラガは皮肉交じりに説明する。
「我らが王国軍と憎き帝国軍が顔を突き合わせて殺し合っている……これを戦争を呼ばずに何と表現すべきか、私の貧困な発想力では思い浮かびませんがね」
「殺し合ってるって、一方的な蹂躙じゃないですか」
「帝国軍が軟弱な策を過信した結果ですね。戦争において愚かさは罪ですから」
そう語るウラガの背後には、無数の死体が折り重なっていた。
此度の戦争のために連れてこられた捕虜と犯罪奴隷である。
死体の後ろにはまだ生きている者が、恐怖に染まった表情で拘束されていた。
ウラガの魔術は単純明快だった。
事前に契約を結んだ相手の魂を代償に、己の魔術を一度だけ超強化する。
つまり彼は、光球を放つたびに捕虜と犯罪奴隷を犠牲にしているのであった。
次々と倒れる死体を横目に、ミルは怯え切っている。
振り返って"残弾数"を確認しつつ、ウラガはミルに尋ねた。
「ところで私の二つ名をご存じですか?」
「えっ、ああ……その……」
「遠慮なく仰ってください。別に怒りませんので」
促されたミルは渋い顔で悩む。
やがて言いづらそうに小声で答えた。
「さ、殺戮軍師……ですよね」
「はい、そうです。殺戮軍師です。敵も味方も殺しまくるのが由来らしいですよ」
「な……なるほど。酷い話ですね」
「いやいや、とんでもない。私にぴったりの呼び名だと思っています。むしろ誇らしいくらいです」
「は、はぁ……」
微笑むウラガを見て、ミルは曖昧な反応をするしかなかった。
その時、敵軍にて異変が生じた。
ウラガの光球を真っ二つに切断し、一直線に突進してくる者がいたのだ。
それは筋骨隆々な大柄の女戦士だった。
ウラガは感心した様子で笑う。
「おや。面白い方がいますね」
五つの光球が女戦士に殺到する。
女戦士は雄叫びと共に大剣を振り回した。
「おおおおおおおおおぉぉぉッ!」
豪快な一撃が光球をまとめて消し飛ばす。
異常な加速で迫る女戦士は、既にウラガの目前まで接近していた。
「全力を出さないと死にますね」
残る捕虜と奴隷の命をすべて消費し、ウラガは己の肉体を強化した。
持参していた杖を掲げ、叩き込まれた大剣を遮る。
両者の武器が衝突し、周囲に砂嵐を引き起こした。
ウラガは軽く後ずさっただけで無傷だった。
攻撃に失敗した女戦士は感激する。
「お前、強いな! 斬撃を止められたのは生まれて初めてだっ!」
「そちらこそ素晴らしい膂力ですね。人型の魔獣かと思いましたよ」
「ハハハハッ! 褒めても何も――いや、結婚してくれ!」
「……はい?」
唐突なプロポーズにウラガが怪訝な表情になる。
彼は探るように尋ねた。
「今、何とおっしゃいました?」
「私はフゥア! お前と結婚したい! 強い男が好きなんだ!」
「我々は敵同士ですが」
「じゃあ王国に寝返る! それなら問題ないだろう!
女戦士フゥアは目を輝かせて主張する。
人生最大の困惑を味わうウラガだったが、面白そうなので婚約を承諾した。
世界最強の夫婦が生まれた瞬間だった。




