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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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男嫌いな転校生と王子(?)なクラスメイト

作者: おおかわと愉快なガチファンたち
掲載日:2026/01/07

できたよのかしこまっ(血涙)

カロリーナ視点なので容姿描写がありませんが、オレンジ色の髪に向日葵のような虹彩の瞳を持った可愛い子です。

「その冷たい眼差し、口調、最高だ……!」


 帰路の途中、突如として草陰から飛び出してきた赤髪赤目の男が放った言葉は、カロリーナの思考を一瞬にして奪い去った。


 その男の名は、ダージリン・ジョルジュ。国家の支柱たる公爵家の子息にして、カロリーナのクラスメイトだった。


 ダージリンは眉目秀麗かつ、成績優秀な優等生。学園の王子の座に居座る、女子生徒全員の憧れの存在である。……否、


「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 この物語の主人公。カロリーナ・マルシュという例外を除いて。



 ◇◇◇



 今にして思えば、不可解な点を挙げればキリがない。


 そもマルシュ家は、隣国との小競り合いにて手にした武功により伯爵位を与えられたばかりの、成り上がり貴族である。平民として育ったカロリーナは、何の教養もないまま、貴族の子供たちが通う学園への転校を強いられたのだ。


『僕はダージリン・ジョルジュ。このクラスの学級委員なんだ。分からないことだらけだろうから、助けが必要な時はいつでも頼ってほしい』

『……どうも』


 転校初日。奴は人好きのする笑みを浮かべてそう言ってきた。これだけならよかったのだが。


『化学室はそっちじゃないよ、マルシュ嬢。よければ今日の放課後、学園を案内しようか』

『っ……結構です』


『カロリーナ嬢、驚かせてすまない。君のために僕がこの歓迎会を企画したんだ。皆んなと早く打ち解けてほしくてね』

『……あの、すみません野暮用が。あっ、急な野暮用があって。皆さんで楽しんでください』


『待って、カロリーナ嬢。今日はいつもの道は補修工事がされているはずだから、回り道して帰るといいよ』

『えっ。あ、はい……』


『あ、カロリーナ嬢。肩にゴミがついてるよ』

『ひっ! あっ……自分で取れますから!!』


『ねぇ、妹君の風邪の具合はどう?』

『……え?』


 こんな具合に隙あらば話しかけられ、カロリーナの奴への不信感は、今日この日に至るまでに警戒レベルに達していたのだった。


「――リーナ、カロリーナ。大丈夫かい?」


「う、うーん……」


 重い瞼をゆっくりと持ち上げたカロリーナは、視界を埋め尽くすダージリンの顔に息を呑んだ。


「ひぃっ!!」

「急に起き上がると危ないよ。僕が受け止めたから怪我はしていないはずだけど、気を失っていたんだから。気分はどう?」


 素早くダージリンの顔の下から逃げ出したカロリーナは、震える体を立ち上がらせた。


「あ、あ、あなたがそれを言うんですか! っこのド変態!!」


 カロリーナは、奇襲と膝枕という大罪を犯した奴を指差し、ほとんど悲鳴を上げるように叫んだ。


「うっ……」


 すると、途端にダージリンが腹に一撃食らったかのような呻き声を上げた。


「――?」


 何事かとカロリーナが目を剥いていると、うずくまる姿勢のダージリンの体がぷるぷる震え出した。


「くくく……ははははははっ」


 抑えきれないといった様子で笑い声を上げるダージリンは、ぎょろりと恍惚とした視線をカロリーナに向けた。カロリーナの体が恐怖で跳ね上がる。


「やっぱり僕には君しかいない……。結婚しよう、カロリーナ!」

「けっ結婚って、はあ?! ……ちょっと!! 近づいて来ないでくださいっ!!」


 立ち尽くす自分の元へゆらりと歩き出してきた変態に、カロリーナは血の気の引いた顔で精一杯両手を突き出した。しかしその手は、ものすごい勢いでダージリンに握られてしまう。


「その害虫を見るような容赦ない視線! 幾度話しかけても変わらない冷たい声色! 耳をつん裂くような心地いい悲鳴! そして何より、この僕を変態と呼ぶ特異性……全てが僕の理想。いや、それすらも凌駕している!」


「……っ!」


 呪いのようにおぞましい台詞より、カロリーナの身体中を這い回るような怖気が、我慢の限界に達する方が早かった。


 カロリーナは火事場の馬鹿力でダージリンの手を振り解き、全速力で帰路を駆け出したのだった。



 ◇◇◇



「何なのあの変態!? あんなのが学園の王子とか、絶対皆んなおかしいよ……。貴族だから?」


 自宅に生還したカロリーナは、自室のベッドに倒れ込み、布団の中で震える体を抱きしめる。目を閉じ、ストーカーと断定せざる得ない奴の記憶を忘れようと試みるも、顔を思い出すだけで全身にさぶいぼがたった。


 ただでさえ、カロリーナにとって男は天敵同然だというのに。


「はあ」


 吐息したカロリーナの脳裏に、一番思い出したくなかった別の男の顔が浮かぶ。


 ――これは、カロリーナが十回目の誕生日を迎えた年の記憶。所謂トラウマである。


『待ってったら、キンニク・スキー!』


 カロリーナは小さな体で、幼馴染の逞しい背中を追いかけていた。全力で手足を動かすも、二人の距離は縮まるどころかどんどん開いていく。


『ハッハッハッ。そんな走りじゃあ、上腕二頭筋がいつまで経っても発達しないぞぉカロル!!』


 月日が経った今では、こんな台詞を吐く男に何故惹かれていたのか自分でも分からない。幼心というのは全く理解し難いものだ。


 ……そう、キンニク・スキーは、カロリーナの初恋の相手だった。


『わたし、キンニク・スキーが好き。お母さんと一生懸命作ったこのぷろていん、わたしの気持ちと一緒に受け取って!』


 キンニク・スキーは、毎日の鬼ごっこ(必ずカロリーナが鬼)の後に欠かさず、ぷろていんという液体を飲んでいた。それも、飲まないと命が危険に晒されるかのような勢いで。


 プロテインが何か、カロリーナは知らなかった。知らないなりにキンニク・スキーの体を思って、栄養たっぷりのミックスジュースを作ったのだった。


 そして。


 ――ドボドボドボ。


 手作りのぷろていんが、家の庭の芝生を濡らしていく光景を、カロリーナは呆然と見つめることしかできなかった。


『キ、キンニク・スキー?』


 やっと絞り出したその声は、自分のものとは思えないほど掠れていたのを、今でも鮮明に覚えている。


『プロテイン? こんな色も匂いも気持ち悪い液体が? 笑えねぇんだよ。カロルはオレと、オレの血液同然のプロテインをバカにしてんのか?』


 ゴトン、と音を立てて、空になったぷろていんの容器が二人の間に転がった。


『わ、わたしそんなつもりじゃ……。ただ、キンニク・スキーに喜んでほしくて』


『黙れよ。プロテインとオレの絆も分からないような奴、もう顔も見たくねえ。それに、オレがチビでヒョロヒョロなカロルなんか好きになるかよ。オレが好きなのは――マッチョと筋肉だけだ』


 怒り心頭のキンニク・スキーは、最後に上腕二頭筋を見せつけた後、異常な速度の早歩きで去っていった。


 ――そして言葉通り、二度とカロリーナの前にその姿を表すことはなくなった。


 たった一人の幼馴染。そして想い人を失ったカロリーナは、ショックで数日寝込んだ後、異性をとことん受け付けない体質――男性恐怖症となってしまったのだった。


「……やっぱり男なんて、人の気持ちの分からない悪人なのよ。やっと思い出さなくなってきたのに。あの男……ダージリンとか言ったっけ。あんな変態どうしろっていうの? もう嫌!!」


 カロリーナは、布団の中で涙を流しながらいつの間にか眠りにつき、腫れた瞼で翌朝を迎えたのだった。


 ……人生が激動する、最悪にして最高の朝を。


「――おはよう、カロリーナ」


 重い足取りでカロリーナが屋敷を出ると、少し歩いたところで男の呼び声が耳に入った。昨日の変態かとカロリーナが咄嗟に手で顔を覆うと、


「痛っ!」


 いきなり信じられない力で手首を掴まれ、カロリーナはあまりの痛みに目を瞑った。掴まれた手首ごと、腕が強引に下げられていく。涙が頬を伝うのが分かるが、恐怖で目が開けられない。


「カロル、オレだよオレ」


 変態に加えて暴力も振るう下衆だったのかと絶望していたカロリーナは、懐かしい呼び名に恐る恐る目を開いた。すると、


「キンニクだよ。キンニク・スキー。まさか忘れたとか言わせねえぞ?」


 目の前には、記憶とは主に筋肉の体積とヘアスタイルが恐ろしいほどに見違えた、元幼馴染の姿があった。


 筋肉の発達は納得できる。だが、鶏のトサカのような頭は一体何があったのだろう。頭頂部だけ毛が生えていないのを周りの毛で隠しているように見えるが、そんなことはどうでもいい。


「キンニク・スキーが、なんでここに……?」

「なんでって、カロルが急に引っ越したりするからだろ?」


 失恋の日以来、関わりのなくなったキンニク・スキーには、当然父が爵位を賜ったことも伝えていないのに。ひょっとして、自分に会うために調べて来てくれたのだろうか。


 カロリーナの瞳が明るい想像で輝き、


「お前、村で噂になってんぞ。貴族になったんだって? オレに何も言わずに行くからよお、びっくりしたゼ」


 予想の斜め上のキンニク・スキーの発言で、失望一色に染まった。


「……関係ないでしょ。それより手、離してよ」


 本当に自分は、なんでこんな男が好きだったのだろう。カロリーナは、涙と一緒に心が冷えていくのを感じた。


 一瞬、あの日のことを謝りに来てくれたんじゃないかと思った自分が馬鹿だった。やっぱり男に期待などするだけ無駄なのだ。


「ハ? なんだよその態度。お前、オレが好きなんだろ? わざわざ来てやったんだから喜べよ」

「何言ってるの? 顔も見たくないって言ったのはそっちでしょ。今更、なんなの!」


 最後は怒鳴るようにしてカロリーナが言うのと、掴まれた手首に、ちぎれるのではないかと思うほどの力がかけられたのは同時だった。


「だから!! オレが愛するのはマッチョと筋肉だけだけど、チビでヒョロでも貴族のカロルとなら付き合ってやってもいいって言ってんだよ!!」


 手首か、心なのかは分からないが、何かが張り裂けそうになるのを感じたカロリーナが固く目を瞑った、その時だった。


「――そこまでだよ」


 声が、聞こえた。

 転校初日からカロリーナを怯えさせ続けてきた、あの声が。


 瞬間、カロリーナの手首の痛みが消え去り、涙で濡れた目を開くと、同じ制服を纏った奴……ダージリンの背中が目の前にあった。


「何この異常な硬さ。君、本当に人間? あぁ、クズは確定だから人間じゃないね」

「アアン? なんだお前。誰だよ、カロルの知り合いか?」


「……カロル?」


 恐ろしく低い声でダージリンが呟くと、場の空気が瞬く間に凍りついたのがカロリーナにも分かった。


「な、なんだよ。ヤんのかお前!」


 ダージリンの背中で見えないが、キンニク・スキーの声が心なしか震えている気がする。そして間違いないのが、周囲を漂うプレッシャーのような空気は、ダージリンから放たれているということだ。


「僕の妻を愛称で呼ぶとか、生かす理由が見つからないって思ったけど。君、あれだね。殺す価値もない感じがすごいなぁ」


 それはなんか分かる、とカロリーナは心の中でダージリンに同意した。


「っはあ!? テメェほんとなんなんだよ、おいカロル!! お前、貴族になってこんな奴とつるんで」


「――分からないかな。見逃してあげるって言ったんだよ。権力って分かる? 暴力なんかより全然強いんだけど……。君って見た目通り、痛い目見ないと分からないタイプ?」


 公爵家の人間が言うとシャレにならない台詞の後、ズサッと地面が擦れるような音がした。どうやら、キンニク・スキーが後ずさったらしい。


「……っお、お前、今筋肉を馬鹿にしただろ。筋肉を馬鹿にする奴は、いつか筋肉にななな泣くんだからな!」


 最後に「覚えてろよぉお」といかにもな捨て台詞を残して、キンニク・スキーが馬車並みの速度で彼方へと消えていく砂煙が、カロリーナにも見えた。


「……あの。ジ、ジョルジュさん」

「ダージリン、がいいな」


 救世主の背中に向かってカロリーナが恐る恐る呼びかけると、先ほどまでの剣幕が幻かのような優しい声が返ってきた。


 目を丸くするカロリーナの瞳に、こちらを振り返ったダージリンの微笑みが映る。


「そのっ。なんで、助けてくださったんですか。私は昨日、あなたを変態呼ばわりして」

「クラスメイトなんだから、敬語もいらない」


 涙で歪んでいるけれど、その笑みが酷く優しいということは分かる。


「わっ私は、ダージリン……っさんのこと、ずっと、怖いって思ってて」

「結婚するんだから、呼び捨てがいいな」


 子供のようにしゃくりあげる体が、あたたかな腕の中に、壊れ物のようにそっと包まれた。


「知ってるよ全部。僕はずっとカロリーナだけを見てたから。男が苦手なんだろう? 可愛いカロリーナに他の虫がつかないのは好都合だったけど……。まだ、僕が怖い?」


 怖くない、嫌じゃない。涙で言葉にならないけれど、むしろ――


「……そっか、ありがとう。()()()()で、幸せになろう」


 恐る恐る抱きしめ返したカロリーナの想いを、ダージリンは汲み取ってくれた。


 そしてカロリーナ自身も、伝う涙で、相槌で、湧き上がるような知らない熱で。ダージリンの全てを受け止めたのだった。



◇◇◇



「ただいま、カロリーナ」

「! おかえりなさい、ダージリン!」


 弾むようなカロリーナの声と共に、シャラリと鎖の音が鳴る。


「僕の可愛いカロリーナ。僕がいない間、何もなかった?」


 ダージリンが鍵のついたネックレスを首元から取り出し、カロリーナの足首に嵌められた枷の鍵を回すと、もう待てないといった様子でカロリーナがダージリンにしがみつく。


「うん! 今日も言われた通りずっとこの部屋に居たし、誰ともお話ししなかったよ。ねえ、褒めて?」

「いい子だね、カロリーナ」


 ダージリンは、甘えるカロリーナの額に口づけした。カロリーナは幸せを堪能するように瞳を閉じていたが、不意にダージリンの腕の中でピクリと体を振るわせた。


「ねえ、ダージリン」

「ん?」

「女物の香水の匂いがする。……どうして?」


 唇を強く噛みすぎたカロリーナの口の中に、鉄の味が広がっていく。


「ああ、生徒会にしつこい女がいてね。倒れるふりをして抱きついてきたから困ったよ」

「それ、本当の話……?」

「もちろん。カロリーナを欺くくらいなら、僕は死を選ぶよ。その女も来週には退学させるから、安心して」


 迷いも淀みも感じられないダージリンの答えに、カロリーナはほぅ、と熱い吐息を漏らした。


「私だけのダージリン、愛してる」

「僕も同じ気持ちだよ、愛してる」


 カロリーナは、ダージリンの肩に顎を乗せ、その背中に絡める腕に力を込めた。


 ――その瞳は、未だ電気もついていない部屋の中で、黒曜石のように仄暗い輝きをたたえているのだった。

感想お話ししに来てね〜

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キンニク・スキーが走って上腕二頭筋を鍛えさせようとしてるの笑いました
2026/01/08 00:21 肉球ダイヤモンド
おおかわちゃん執筆おつかれさま!!まさかのあのセリフから始まってびっくり&嬉しかった(*´꒳`*)文章がスッと入ってきて読みやすかったのと場面や展開が変わるたびに笑ったりハラハラしてとっても楽しかった…
最初こそコミカルな変態ストーカーの話だと思って笑っていましたが二人の歪な関係性に背筋が凍るような思いをいたしましたね笑 カロリーナが過去のトラウマを乗り越えてダージリンに救われたかと思いきや足首に枷を…
2026/01/07 13:50 退会済み
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