【第5話 販売機爆破作戦】
作戦開始からちょうど九日目。
俺たちはすでに全国42箇所のダンジョン最深部を制圧し、
そのすべてに偽チート販売機を設置した。
そして本物の神の自動販売機は、
42台すべてを粉々に爆破。
方法は簡単だった。
俺がA級・S級のスキルを24時間だけコピー → 爆破班に転写 → 一撃で破壊。
爆発の瞬間、販売機の画面には毎回同じ赤い文字が浮かぶ。
【魂収奪失敗】
魔王の飢餓値:98.7% → 99.9%
数字がどんどん上がる。
魔王が飢えている証拠だ。
残りはあと8台。
最後の8台は、すべてSS級以上のダンジョンに設置されている。
普通の冒険者では到達すらできない領域。
だが、俺たちには24時間スキルがある。
王都・中央ギルド。
俺は、全国のトップ冒険者100人を集めた。
S級30人、SS級5人、そして──
伝説のSSS級冒険者、**「無限魔力のアルテミシア」**まで来てくれた。
アルテミシアは、本物の販売機でチートを買った過去を持つ。
彼女は静かに言った。
「……私も、魂を半分削られた」
「だから、残りの半分を賭けてでも、魔王を止めたい」
全員の目が、燃えている。
俺は地図を広げた。
「残り8台。
同時に一気に破壊する。
各パーティに24時間SSRスキルを10個ずつ転写する」
俺は、自分の全財産52億ゴールドを机に叩きつけた。
「失敗したら全額没収。
成功したら、全員に10億ずつ配る」
会場が沸いた。
──これが俺のやり方だ。
金で人を動かし、
24時間スキルで世界を変える。
作戦決行当日。
8つの最深部に、8つの爆破班が突入。
俺は、最後の1台がある**「深淵の塔・第999層」**に単独で向かった。
なぜ単独か?
──魔王が、ここに来るとわかったからだ。
第999層。
そこには、もう神の自動販売機はなかった。
代わりに、黒い玉座に座る人影。
──魔王。
人間の姿をした、蒼白な美青年。
「ようやく会えたな、スキル泥棒」
魔王は、静かに立ち上がった。
「俺の収入源を52台も潰してくれたな」
俺は、肩をすくめた。
「悪いな。商売敵だったんで」
魔王は、指を鳴らした。
瞬間、俺のステータスに無数のデバフが付与される。
【魂封印】【スキル無効化】【魔力枯渇】【身体固定】……
全部、チート級の妨害スキル。
普通なら即死。
だが、俺は笑った。
「24時間で消えるスキルに、
永続デバフなんて効くわけないだろ」
──デバフ全解除。
なぜなら、俺が今持っているスキルは、
全部24時間限定だから。
魔王の顔が、初めて歪んだ。
「な……!?」
俺は、一歩踏み出した。
「俺は買ったチートなんて一つも持ってない」
次の一歩。
「全部、誰かから奪ったものだ」
さらに一歩。
「お前のルールで、
お前を倒す」
俺は、魔王の目の前まで歩み寄った。
そして、**【スキルコピー】**を発動。
魔王の全スキルが、俺のステータスに流れ込む。
【魔王の全権限】 残り時間:23時間59分59秒
魔王が、絶叫した。
「やめろ! それは俺のスキルだ!」
俺は、魔王自身のスキルで、
魔王自身を貫いた。
──黒い血が飛び散る。
魔王が、膝をつく。
「なぜだ……俺は……最強のはず……」
俺は、静かに告げた。
「金で買える強さは、誰かの魂の欠片だ」
「24時間で消えるスキルを、
24時間全力で使いこなす覚悟」
「それが、本物の強さだ」
魔王の体が、光の粒子に変わり始める。
最後に、魔王は呟いた。
「……お前は、俺より欲深い」
俺は、笑った。
「当たり前だ。
俺は人間だからな」
魔王が、完全に消滅した。
同時に、世界中の神の自動販売機が、一斉に崩壊した。
──終わりだ。
王都に戻ると、大歓声が上がった。
爆破班全員が生還。
52億ゴールドを山分けし、
俺は手元に10億を残した。
エレナが、駆け寄ってきた。
「レイン……終わったね」
俺は、空を見上げた。
青い空に、チート販売機の残骸がキラキラと舞っている。
「これで、誰も魂を売らなくて済む」
そのとき、子供が駆け寄ってきた。
「おじさん! チート買えば強くなれるんでしょ!?」
俺は、しゃがんで、子供の目線に合わせた。
「違う」
「強くなりたいなら、24時間全力で生きろ」
「それが、一番のチートだ」
子供は、キラキラした目で頷いた。
俺は立ち上がって、エレナと並んで歩き出す。
──新たな冒険が始まる。
チートなんて、もういらない。
俺は、24時間だけの天才から、
永遠の本物になった。
【完結】




