【第1話 1億ゴールドの壁】
朝の陽射しが、ギルドの掲示板を金色に染める。
俺──レイン・クロウは、F級冒険者のくせに、毎朝一番乗りでここに立つ。
理由は単純だ。
掲示板の最上段、**「神の自動販売機」**の広告が貼ってあるから。
──**「チートスキル 1億ゴールド」**──
文字通り、1億。
俺の全財産はたったの300ゴールド。
昨日稼いだ薬草採取の報酬が、150ゴールド。
今日の朝食代に30ゴールド使って、残り120ゴールド。
1億まで、あと9999万9880ゴールド。
ため息が漏れる。
「レイン、また見てるの? あれ、S級でも300年かかるって話だよ」
後ろから声。
同期のF級、ミリアだ。
彼女は俺と違って、**「炎の矢」**というちゃんとした攻撃スキル持ち。
「300年か……」
俺は苦笑いしながら、掲示板の広告を指差す。
「でも、買った奴はいるんだろ? SSS級の『無限魔力』とか」
「あれは……魂を売ったって噂だよ」
ミリアは小声で囁いた。
魂?
そんなオカルト、信じるかよ。
俺は広告の隅に書かれた小さな文字を読み上げる。
『分割払い不可 抽選制 返金不可 使用者の魂に影響を及ぼす可能性あり』
……影響ってなんだよ。
「まあ、俺たちには関係ない話だ」
俺は肩をすくめた。
関係ない。
だって、1億稼ぐ方法なんて、思いつかない。
──そのときだった。
ギルドの扉が、ドカンと開いた。
「おい! 緊急依頼だ! A級パーティ『雷鳴の槍』がダンジョンで全滅寸前!」
受付の姉さんが叫ぶ。
掲示板がざわめく。
「A級が……全滅?」
「第17層の『雷竜』か……」
俺は反射的に、依頼書を見た。
【緊急】雷鳴の槍 救出依頼
報酬:500万ゴールド(成功時)
失敗:0ゴールド
500万。
俺の4万年分の収入。
だが、A級パーティを助けられるF級なんていない。
誰も動かない。
──俺も、動けない。
だって、スキルが【鑑定】しかないんだ。
転生時に貰ったゴミスキル。
モンスターの弱点とか見えるけど、戦闘には一切役立たない。
俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。
──そのとき。
「レイン、一緒に来ない?」
声をかけてきたのは、C級冒険者のリーダー格、ガルドだった。
「お前、【鑑定】持ちだろ? 雷竜の弱点、見抜けるかもしれない」
俺は目を丸くした。
「でも、俺……戦えないよ」
「戦わなくていい。後ろで鑑定だけしてくれればいい」
ガルドは、俺の肩を叩いた。
「報酬は5人で山分け。お前にも100万ゴールドやる」
100万。
俺の全財産の3333倍。
喉が鳴った。
──行くしかない。
俺は、震える手で依頼書にサインした。
──これが、運命の分岐点だった。
ダンジョン第17層。
雷が鳴り響く暗闇の中、瀕死のA級パーティがいた。
「くそっ……魔力が……尽きる……」
リーダーの女剣士、エレナが、血まみれで倒れている。
彼女のスキルは、【雷神の槍】。
A級最強クラスの攻撃スキル。
だが、今は魔力切れで、ただの棒切れ。
俺たちは、雷竜に追われていた。
「レイン! 弱点は!?」
ガルドが叫ぶ。
俺は、**【鑑定】**を発動させた。
──**【雷竜】 弱点:心臓部 耐性:雷属性100% 雷属性以外で攻撃推奨**──
「心臓! 雷以外で!」
だが、誰も雷以外を使えない。
絶体絶命。
──そのとき。
エレナが、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「レイン……お前、**【鑑定】**持ちだな……?」
彼女は、血塗れの笑みを浮かべた。
「なら……これを、24時間だけ……貸してやる」
彼女の手に、光が宿る。
──**【スキル転写】**。
A級パーティだけが持つ、緊急時の秘技。
彼女の**【雷神の槍】**が、俺の体に流れ込んだ。
──**【スキルコピー】が発動しました**──
俺のステータスに、新しいスキルが追加された。
【雷神の槍】 残り時間:23時間59分
俺は、呆然と自分の手を見た。
雷が、俺の指先に宿っている。
「レイン! 今だ!」
ガルドが叫ぶ。
俺は、生まれて初めての攻撃スキルを放った。
──ズドン!
雷竜の心臓を、雷神の槍が貫いた。
巨体が崩れ落ちる。
俺たちは、勝利した。
報酬の100万ゴールドが、俺の懐に。
だが、それ以上に。
俺は、あることに気づいた。
【雷神の槍】は、24時間で消える。
でも、24時間あれば。
俺は、誰でも倒せる。
俺は、掲示板の1億ゴールドを思い出した。
──買う必要なんて、ない。
俺は、チートを“奪う”。
これが、俺の物語の始まりだった。
【続く】




