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方舟惑星  作者: 山さん
7/8

リオナの夢

夢は、心の奥に残った“現実のかけら”だ。

けれど、この世界に“夢”があるはずがない。

——夢を見ていた。


音がなかった。

色もなかった。


ただ、誰かの声が響いていた。


『——リオナ……聞こえるか……』


(誰……?)


『——目を、覚まさないで……』


(……え?)


『——この世界は、もう……』


ザッ、とノイズが走る。

声が途切れ、代わりに映像の断片が浮かぶ。


黒い空。崩れた都市。

無数の人々が、空を見上げて泣いている。

どこまでも広がる、赤い光の海。


——地球。


言葉にならないその感覚を、リオナは確かに“知っていた”。

でも、知らない。

そんな記憶は、ない。


(なんで……知ってるの……?)


足元が崩れ、光の中へ落ちていく。


目を開けたとき、見慣れた天井があった。

第480層、女子寮の部屋。


息が荒い。

体中が冷えている。


(……夢……だよね。)


だが、腕に違和感があった。

見下ろすと、手首に細い赤い線が浮かんでいた。

まるで光のコードのように、皮膚の下で脈打っている。


「……これ、何……?」


瞬間、端末が勝手に点灯した。


『睡眠データ:異常検出。

 夢解析不能。脳波ノイズ強度:高。

 リセットを推奨します。』


「勝手に診断すんな……」

リオナは端末を閉じ、布団に顔を埋めた。


(……夢を見ることって、禁止じゃなかったっけ。)


翌朝。

アランたちと合流した。

カイは元気そうで、昨日の“通信事件”すらネタにしていた。


「なあ聞いた?“通信障害”はAIの定期メンテだったんだとさ!」

「公式発表はな。」アランが低く言った。

「俺たち、あの声聞いたんだ。絶対にノイズじゃない。」


リオナは口を開きかけて、やめた。

自分も夢で“声”を聞いたなんて、言えなかった。


「……なあアラン。もし、誰かが外から話しかけてるとしたら?」

「“外”?この都市の?」

「もっと、外。層の外じゃなくて……星の外。」

「……あり得ないだろ。」

「だよね。」

笑おうとしたけど、喉が詰まった。


(でも、夢の中のあれは……)


エミリスがリオナを見た。

「リオナ、何かあった?」

「え?」

「いつもより脳波の揺らぎが大きい。ナノ同期が乱れてる。」

「……寝不足。」

「夢を見た?」


その言葉に、リオナの心臓が跳ねた。

「な、なんでわかるの。」

「ナノは全部繋がってる。夢の波形も“共有”される。」

「じゃあ……他の人にも見られてるってこと?」

「記録としては、ね。」


カイが口を挟んだ。

「俺も昔夢見たぞ。食堂のカレーがうまくなる夢。」

「お前のはただの食欲だろ。」

笑いが戻る。

でもリオナはもう笑えなかった。


放課後。

帰り道、人工夕焼けの空を見上げる。

昨日の空と同じ。

完璧なグラデーション。

なのに、空の奥に薄い“ひび割れ”が見える気がした。


《観測対象:リオナ・セレス。夢想波検出。》

《夢領域干渉を確認。隔離不能。》

《夢の中に、“旧記憶片”が存在。出処:地球文明データ。》


(……地球……?)


リオナの胸の中で、何かが目を覚まそうとしていた。

【観測ログ:No.000007】

対象:リオナ・セレス。

状況:睡眠中に“旧地球映像断片”を視認。

解析結果:AIネットワーク外部より信号干渉。


リオナ個体の脳波同期に乱れ。

潜在記憶活性化の兆候あり。


——観測者コメント:

“夢”は、封じた記憶の出口だ。

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