第32話 聞き込み、老婆は手強い
成岩部長と富貴巡査は、旧磯浦トンネルの近隣の住人から事情聴取するため、聞き込みに入る。二人はこの辺りで一番長寿だという老人の話を聞きつけ、その家に訪れる。
「こんにちは、誰かいませんか。」
成岩部長は開け放たれた玄関引き戸から呼びかける。すると奥からコツコツと音が聞こえてくる。玄関から廊下の奥は暗くて見えないので少し怖い。
成岩部長と富貴巡査は、コツコツという音を聞きながら待つ。富貴巡査は心配になり成岩部長に言う。
「大丈夫ですか。音が続いていますけど出てきませんよ。」「我慢しろ。相手は老人だ。」
しばらくして廊下の奥に人影が見える。人影は少しづつ近づいているようだが見分けがつくようになるまで少し時間がかかる。人影は杖をついた老婆だった。
コツと音を立てる度、数センチづつ近づいて来る。成岩部長と富貴巡査は、会話ができる距離になるまで我慢を強いられる。そして、老婆は玄関に着く。
「私たちは警察です。お聞きしたいことがあって来ました。」「警察?わたしゃ、何も悪いことをし盗らんよ。駐在さんに聞いてもらったら分かるよ。」
「駐在さんに教えてもらってきたんです。昔のことを詳しいと聞きましたよ。」「昔?わたしゃはモテたんよ。じいさまとは恋愛結婚しただよ。」
「そうではなくて、旧磯浦トンネルのことを教えてください。」「トンネル?わたしゃ、トンネルを通って嫁入りしたんだよ。」
「トンネルで人がお亡くなりになったりしていませんか。」「じいさまは亡くなったよ。わたしゃもおむかえが来るかもしれねえ。」
老婆より若い老婦人がやってくる。
「お母さん、お客さんの応対は私がやるって言っているでしょ。」「わたしゃ、ピンピンしとるよ。」
「お母さんは耳が遠いのだから、私がかわるね。」「好きにしたらええ。」
来たのは老婆の娘らしい。こうして聞き込みは振出しに戻る。成岩部長は娘に言う。
「私たちは警察です。旧磯浦トンネルのことでお箸を聞きに来ました。」「はい、なんでしょう。」
「トンネルでお亡くなりになった人はいますか。」「私は知りませんけど、母に聞いてみます。」
老婆と娘はゴソゴソと話し始める。成岩部長と富貴巡査は、再び待たされる。そして、老婆が話し始める。
「磯浦トンネルは、わたしゃが生まれる前に造られてのう。話では、ひどい難工事だったそうじゃ。だが、一人の死者も出さずに完成したそうじゃ。」
成岩部長と富貴巡査は、結局、トンネル工事で死者がいないことがわかっただけだった。




