第3話 最弱魔王の外交作戦
「ふう……今日も畑は絶好調」
宮殿の庭で小麦の成長を確認しながら、私はため息交じりに呟く。
戦えない魔王の私にとって、農業こそが最強の武器だ。黄金色に輝く小麦を見ているだけで、世界を少しだけ安心させられる気がする。
そのとき、玉座の間に使者が入ってきた。
「魔王さま、隣国より使者が――」
ああ、やっぱり来るか。戦わずに支配していると、必ず外交問題も発生する。
けれど、私は笑顔で答えた。
「歓迎します! 食事は用意してありますから、ぜひお召し上がりください」
魔王が食卓で外交――異世界でも珍しい光景だろう。
しかし、私にとっては当たり前のこと。戦わなくても、心と胃袋を満たせば、世界は味方になるのだ。
数時間後、隣国の使者たちは宮殿の食卓でパンとスープに舌鼓を打っていた。
「これは……! 魔王さま、どうしてこんなに美味しいのですか?」
「うーん、まあ、特技ってやつかな」
照れ笑いをしながら答える。
彼らは驚きと感動で目を輝かせ、すぐに私の提案に耳を傾ける。
「では、今後はこの小麦とパンを互いの国で分け合うことにしましょう。戦争ではなく、食糧で絆を作るのです」
使者たちはうなずき、私の言葉に同意する。
「魔王さま……まさか、戦わずに外交をまとめるとは」
「ええ、戦うよりも、食べて笑ってもらったほうが早いですから」
その言葉に、魔族たちも笑顔になる。
「魔王さま……さすがです……!」
そして夜、宮殿の庭で一人考える。
戦わずして世界を動かせる力。
これこそ、私が手にした“最弱魔王の最強戦術”だ。
でも、どこかで小さな不安も芽生える。
「本当に、これで全てがうまくいくのかな……」
ふと、庭の木陰で赤い瞳が光る。
誰か――いや、何かが私をじっと見つめている気がした。
私はそっと微笑む。
「まあ、いいか。食卓で世界を変える――それが私のやり方だから」
異世界での魔王生活も三日目。
戦わず、畑と料理で築く絆は、少しずつ世界を包み込みつつあった。
けれど、平和の影には、まだ見えない挑戦が待ち受けている――そんな予感もしていた。




