第2話 パンで世界がつながる
「ふう……これで一日分の小麦粉は確保できたかな」
私は宮殿の庭で小麦畑を見つめながら、今日の作業を振り返る。
黄金色に輝く小麦は、昨日の私の“収穫加護”で一晩にして実ったものだ。
まさか、戦えない魔王の私が、畑だけで支配力を示せるとは……。
そのとき、扉が大きく開いた。
「魔王さま! 新たな来客です!」
振り向くと、緊張した顔の使者たちが並ぶ。
人間の王国からの代表団――いや、王子まで来ていた。
「魔王さま、我が国は深刻な食糧不足に直面しております。どうか、御力をお貸しください」
私は少し戸惑いながらも、すぐに答えた。
「……わ、わかりました。小麦とパンならお届けできます」
――魔王として、戦わずして外交を始めることになった瞬間だ。
心の中で小さくガッツポーズ。戦わなくても世界を変えられる。これが私の魔王スタイルだ。
調理部屋に戻り、特技「調理無双」を発動する。
あっという間に、パン、スープ、シチュー……宮殿の台所からは湯気と香りが溢れ、魔族たちも思わず顔をほころばせる。
「美味しい……魔王さま、どうしてこんなに美味しいのですか?」
小さな魔族の少女が目を輝かせて尋ねる。
「うーん、特技だからかな。手抜きはできないんだけど」
笑いながらも、心の中で少し誇らしい。戦わずに人々を喜ばせること――それが私の“支配力”なのだ。
パンを抱えた使者たちは、魔王宮から王国へと急いで戻っていった。
数日後、驚くべき報告が届く。
「魔王さま、王国の人々が元気を取り戻しました! 戦争も減り、町に笑顔が戻っています!」
「え、ちょ、ちょっと……パン一つで?」
驚きつつも、私はにんまり。戦わずして世界が平和になるなんて、最高じゃないか。
その夜、私は宮殿の庭で星を見上げながらつぶやいた。
「これからは、畑と鍋で世界を変えていくんだ……」
――最弱魔王、桐原美奈。
今日も戦わず、食卓から世界を支配する。
けれど、少しだけ不安もあった。
「でも……本当に、これで大丈夫なのかな……?」
ふと、暗闇の向こうに、紅い瞳がひそかに光る。
誰か――いや、何かが私の“支配の味方”を見つめている気がした。
異世界の魔王生活――二日目も、平和と驚きに満ちている。




