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第7話 冒険者

 お化けキノコの討伐が終わって村に寄る。同行していた村長はお薦めの野菜を取りに家に入っていった。そして村長を待つ俺は気付けば村の子供達に囲まれていた。


「ねえねえ武器持ってないの?」

「冒険者ってどうやってなんだ」

「おじさん強いのー」

「モンスター何匹いたー?」


 先程来た時には子供の姿は見えなかったが、恐らく親が止めていたのだろう。これはもう村でめでたく無害判定されたってことかな。止める者がいなくなると子供達は一瞬で群がって来る。こんな村では娯楽なんて大してないし、冒険者は男の子にとって一番身近な憧れである。


「おうおう質問は1人ずつにしろよ。まず武器は色々あるが、今回使ったのはこのショートソードだ」


 ショートソードを見せると子供達が「わああ」と歓声を上げた。もちろん危ないので触らせたりはしない。


「すげえ」

「長さは鉈とあんまかわんないんだあ」

「えっ、おっさんアイテムボックス持ちかよ」

「色々あるって剣以外も使えるってこと?」

「俺は長く冒険者やってるから、大抵の武器は試したぞ。弓以外はそこそこ使える。


 俺の場合投げナイフは狙ったところへ飛ぶんだが、弓は精度がどうしても低かった。俺が質問に答えてやると、子供達は我先にと次の質問を投げて来る。


「どうやったら冒険者になれるんだ」

「冒険者ギルドで銅貨3枚払えば登録出来るぞ」

「へーそんだけ?」

「簡単じゃん」


 登録自体は簡単だし安い。冒険者ギルドなんて来る者拒まずだからな。


「登録すればまず見習い扱いで木の認識票が貰える。その後、簡単な依頼を3回から5回くらい問題無く達成すれば認識票を鉄製の物と交換して貰える。これで正式な冒険者だ」

「へえー」

「おじさんのにんしきひょーは何なの?」

「俺は銀だな。冒険者の等級は上から金、銀、白銅、青銅、鉄、木だ」

「とうきゅー?」

「強さや偉さだと思えば良いぞ」

「おぉ」


 平民の子供の冒険者に対する関心は強い。なにせ平民が成り上がろうと思えば冒険者になって上位の等級になるくらいしか手段がない。冒険者になって成功するというのは、ほぼ全ての平民が1度は夢見ることだ。


「じゃあオレは金になるぞ。ドラゴンや巨人を倒して英雄になるんだ」


 特にわんぱくそうな男の子が息巻く。そうすると周りの子供達も「オレも」「オレも」と競うように言う。可愛らしい子供の夢だ。しかし、あんまり煽り過ぎて無鉄砲に村を飛び出されても目覚めが悪い。少し釘を刺しておくか。


「お前ら、言うのは簡単だが金等級は簡単にはなれねえぞ」

「おっさんには無理でもオレならなれるっ。オレこの中で1番力があるし、どんな相手にもビビらねえ。将来勇者だぜ」


 微笑ましいなあ。子供特有の根拠もないのに自分は特別だ、絶対成功するとか思っている、アレだな。可愛らしいもんだが、コイツの憧れている冒険者という職業は危険な職業だ。それは教えて置かないと、こういう奴はすぐ死ぬ。


「ビビらないのは大事だな。敵を前にして怯えて冷静さを失ったり、上手く動けなくなるようじゃあ話にならない」

「そーだろ、へへ」

「でもな、相手の怖さを知らないだけと、怖さを知っていて怯えないのは別だぞ」

「怖いのに怯えないってどういうこと? 怖いんだろ」

「ちょっと俺の手を押してみろ」


 俺はそう言って掌を広げた状態で腕を突き出す。子供には言葉だけでは伝わらないだろう。男の子は全力で押してくるが、当然俺はびくともしない。


「他の奴も手伝って良いぞ」


 俺の言葉に他の子供達も一緒に俺を押し始めるが、やはり俺は微動だにしない。男の子を含め4人で押しても、5人で押しても結果は同じだ。男の子を含めその場にいた10人くらいの子供達が驚いている。パフォーマンスとしては充分かな。これで今から俺が言うことに説得力も出るだろう。


「ドラゴンは俺より力が強いぞ。お前はドラゴンを怖がってなかったが、単にドラゴンの強さや怖さを知らないだけだ。それは他のモンスターにも言える。ドラゴン以外にも強いモンスターはいくらでもいる。それに大体のモンスターは今のお前より強い。でもそれを知らないお前は【俺は怖くないぞ】と言って戦いを挑む。結果は目に見えている。確実に死ぬ」


 子供の夢を壊すようだが、必要なことだ。夢見たまま実行に移さないならそれでも良い。もし夢ではなく実際に目指す目標とするなら、夢見たままでは駄目だ。


「……でも、おれ、絶対冒険者になって強くなるんだ」

「あのな、冒険者になっただけで強くなったと勘違いする奴がいるが、なりたての奴はその辺の村人と大して変わらんからな」

「じゃあアンタと村人の違いは何なんだ?」


 今まで話していた男の子とは違う子が聞いてきた。こっちの少年はここの子供達の中では落ち着いていて、理知的な眼差しをしている。


「良い質問だ。モンスターを倒すと、その体から魔力が抜けていく。その抜け出た魔力は近くにいる冒険者に少量だが取り込まれる。そうやって少しずつ冒険者は強くなっていくんだ」

「それは自分自身がモンスターに近付いていくってことじゃないのか?」

「それはないな。もしそうなら魔王を倒した英雄が真っ先に化物になっちまう」


 少年の方は結構頭が良さそうだ。こんな小さな村にいる子供とは思えないくらいちゃんと考えている。俺の反論に少し黙り込んで、再度聞いてくる。


「……モンスターを倒しても強くなるだけで、悪い影響とかはない? 本当に?」

「んー、強くなることで気が大きくなる奴は多い印象かな。普通に鍛えただけでは得られない強さが手に入って、稼ぎも増える。そうなれば調子に乗って横柄になる奴や生活が乱れる奴は珍しくないな」


 少年は俺の説明に納得したのかしきりに頷いている。思い当たる人間が身近にいるのかもしれない。そうこうしているうちに、先にへこました男の子がおずおずと尋ねてくる。


「オレもモンスターを倒し続ければ強くなれるんだよな」

「俺が保証する。数を熟せばその分強くなる。なあ、相手がどんなモンスターかも知らずに安物の剣を片手に突っ込んでくたばるのは勇気か?」


 男の子が首を横に振る。


「どんなに慎重に準備していても長く冒険者を続けていれば、絶対に危険な場面には遭遇する。そんな時最後まで諦めず冷静に最善の手を尽くすって方が格好良いし、勇気があるって自慢出来るだろ」


 男の子は今度は首を縦に振った。これでもし冒険者になっても多少は頭を使うだろう。


「盛り上がっているところ申し訳ないですが、お求めの野菜を持って来ましたぞ」


 村長が木箱を抱えてやって来た。


「いーや丁度良いところだ」

「そうですか、子供達の相手有難うございます」

「大したことじゃない」

「ではこちらです」


 村長が木箱を下ろし、ふたを開けるとそこには──。


「ジャガイモじゃん」

「はい」

「しかも、何か萎びてる」


 木箱の中身は萎びたジャガイモ。俺は悲しいよ、村長。こんなに引っ張ってしょぼくれたジャガイモってそりゃないぜ。

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