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第5話 誠意ってなにさ

 俺は祝福によって体調が回復したので、冒険者ギルドの受付にやって来た。大抵朝早いと割の良さそうな依頼の奪い合いで混雑しているが、今日はまだ新規の依頼が張り出されていないのか受付は空いている。


 依頼書を整理しているマナを見つける。意外に手際良くやってる。微かにピンクがかったショートの金髪を後ろで括っている。そこの収まりが悪いのか時折弄っている。俺が手を挙げると、すぐこちらに気付く。


「あれ、ジンさん意外に元気そうですね。昨日ベロベロでしたけど」

「おはようさん。そらもう祝福バコーンで一発解決よ」

「そのうち出禁なるんじゃないですか」

「お布施はちゃんとしてるから大丈夫だって」


 俺が人差し指と親指で輪を作って見せると、マナがそれを指差す。


「そういう敬意を欠いた言動の方ですよ、問題なのは」

「知ってるか? 誠意って言動じゃなくて金額で示すものなんだぞ」

「私ジンさんに誠意見せてもらったことないってことですね」

「なかなか言うじゃないか」


 ふふん、と調子に乗っている姿も美少女なら様になるな。でも俺も大人の本気をちょっと見せようか。受付の机に金貨10枚を出す。


「冒険者ギルド(じるし)の割高ポーションを買わせてもらおう」

「えぇっ!!!」


 マナが驚くのも当然だ。冒険者ギルドの受付で売っているポーションは高いだけで効果は普通なのでまともな冒険者は買わない。コイツは田舎から出て来たばかりの冒険者になりたて坊やが、初めて見る都会のアイドル級に可愛い受付嬢に舞い上がり、しつこく口説いてきた際に売りつける商品なのだ。


 これを初心者に勧めるということは「身の程を知れ、ガキが」という受付嬢からの痛烈なメッセージである。しかし同時にバカみたいに値段を上乗せしたポーションは、売れさえすれば大きな利益が出る。そして、その利益の一部は売った受付嬢の特別ボーナスとなるシステムになっている。


「これが誠意ってもんだ」

「ら、ら、らい、来月買える、あ、れ、あれもあっちも」


 マナの青い目が泳いでいる。それはもう大海原を泳ぐ魚達より盛大に。昨日狩ったオーバース牛の代金で、懐があったかい俺ならこういうことも可能なのだ。金に余裕があると碌なことに使わねえな、おい。いや誰も不幸になっていないのだから善行かもしれない。


「きょう、今日はどの様な御用件でありますですか」

「今日は野菜関係の依頼を探しに来た」

「野菜でしたら市場でどうぞ、はい次の方いらっしゃいますかー」


 マナは動揺していたのが嘘みたいに冷静となり塩対応になった。


「違うんだって、今日教会で生気の巡りが悪いって言われちゃって、多分血がドロドロで流れが悪くなってるだよ。そこで食生活を肉中心から野菜中心にしようと思ってさ」

「血ってドロドロになるんですか? まあジンさんのはドロドロしてそうですけど」


 マナは悪態をつきながらも依頼書をささっと確認して1枚を選び出す。


「これなんかどうです。ダンジョンではなく近くの山にある村からの依頼です」

「あーお化けキノコの討伐ね。もう秋なんだなあ」


 お化けキノコは名前の通り。キノコのモンスターだ。人間の子供くらいのサイズで秋に大量発生するのが特徴だ。


「キノコって野菜か?」

「どうでしょう? 少なくとも肉ではないです。それにここの村なら新鮮な野菜や山菜を買えると思いますよ」

「確かに」

「それではこちらで良いですか?」

「良いぞ」

「ではこちらを受注手続きしますね。それとこちらをどうぞ」


 マナがポーションを5本机に置いた。ちなみに良心的な店なら金貨10枚でだいたい20本前後買える。最初に冒険者ギルドの受付で今の値段で売ろうと考えた奴は相当やばい奴だな。


「たっけえポーションだな」

「それ今更言います? はい、その分愛情込めて置きましたよ」

「ありがと、いやあマナちゃんの愛情入りポーションは天国まで一直線で行けるくらい効きそうだなー」

「もうそれ毒ですよね。しかもかなりの猛毒だし、あとなんでちゃっかり天国に行こうとしてるんですか。不信心なのに図々しいですよ」


 納得いかない顔のマナに俺は今一度悪い笑顔で人差し指と親指で輪を作って見せる。


「俺の故郷に良いことわざがある【地獄の沙汰も金次第】ってな。金さえ積めば行先も変えられる」

「うわぁ」


 マナの溜息を背に俺は依頼をこなすべくギルドを発つ。未来ある若者に現実を教えるのも先達の役目である。

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