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第33話 実は敏腕受付嬢

 夕方の冒険者ギルド内はどこか空気が緩んでいる。依頼を終えた冒険者達が報酬の取り分や飲みに行くかどうかについて話している。行き帰りをかなりの速度で走ったとはいえ依頼の村が遠方だったので、俺は他の冒険者より帰りが遅くなったようだ。その分、受付が空いているのが救いではある。いつもの受付嬢マナに声を掛け達成報告を始めた。


 俺は冒険者ギルドで達成報告手続きの合間、相手が顔馴染みのマナなのもあり、軽く雑談をしていた。話の内容は村で獲物と栗を物々交換したことだ。


「村長がとんでもない量の栗を渡して来て、まいったよ。食べきるのに何年かかるんだって量だぞ」

「仕方がないですね。冒険者のサポートも受付嬢の職務のうちです。その栗の処理、不肖このマナがお手伝いいたしましょう」

「受付嬢の職務に冒険者の食べ残しの削減は入ってないだろ」


 冒険者ギルドの受付嬢がフードロス対策までしてるなんて聞いたことが無い。いつから冒険者ギルドは環境に優しくなったんだ。俺にはあまり優しくないのに。


「話を振って来たのはジンさんですよ。私に栗を食べきれないと話すってことは……そういうことですよね?」


 どういうことだってばよ。食べきれない量の食べ物の話をしたら、即おすそ分けか食事の誘いという発想は普通ではないだろ。でもマナ相手ならそうなるのか。


「はあ~分かりました。指名依頼を出しましょう。これで問題はありませんね。手続きはしておくので安心してください」

「止めろ、俺の輝かしい実績に訳の分からん依頼を加えるな」

「ペナルティ複数回受けてる輝かしい実績っ」


 マナは吹き出すのを堪えようとしたが駄目だったようだ。なんでボケていないのに勝手にウケているんだ。


「ったく、失礼な奴だ。これでも依頼そのものや依頼主に問題が無い限り、依頼を失敗したことないんだぞ」

「すごいのを通り越して化物ですね」


 俺が冒険者ギルドから受けたペナルティの中に俺のミスが原因のものはない。つまりミスターパーフェクトなのだ。


「ペナルティはパーティーの素行問題がほとんどだ。メンバーの誰かが酒場で喧嘩とか、むかつく依頼主を殴ったとかな」

「化物ですね」


 マナはドン引きである。


「ホント治安悪いよな、この界隈」

「なんで冒険者全体が悪いみたいに言いながら、自分は関係無いって顔しているんですかね」


 などと呆れながらマナは何かを高速で書いている。良く見るとそれは指名依頼書だった。もちろん指名先は俺の名前、依頼内容は栗を使った甘味の納品だ。


「おい」

「もう少しで終わるので待ってください」

「そんなしょーもない指名依頼は止めろ。あと達成報告の手続きはどうなってるんだよ」

「達成報告については終わっています。えー、あとは指名依頼で納品数は、10人分と」


 仕事が早い。雑談をしながらこの手際の良さ、並の受付嬢とは違うな。良い意味でも悪い意味でも。


「料理は作ってやるから指名依頼はマジで止めろ。上に怒られるやつだぞ。俺を巻き込むな」


 そういう危険なラインの見極めには自信がある。伊達に冒険者ギルドから怒られまくってないからな。あと依頼内容の量がおかしいんだよ。


「10人分ってなんだよ。どんだけ食うんだ」

「違います。家族の分ですよ。前にクレープやかき氷の話をしたら凄く羨ましがられて、事あるごとに言われるんですよ~」


 事あるごとにいわれるって、クレープやかき氷のことをどういう風に話せばそうなるんだよ。大袈裟に言い過ぎたんだろ。まあ、作った方からすれば悪い気はしないが。


「はあ、それなら納得だ。でも、えらい大家族なんだな」

「4人家族ですけど」

「おいおい残りの6人分はどこに行くんだよ」


 一応つっこんだがマナの答えは聞かなくても分かる。俺の視線は自然とマナの顔からお腹へ下がって行く。マナには色んなカロリー満載な物を食わしたはずだが未だにスリムなスタイルを維持している。


「なんですか?。私はジンさんと違って太ったりしてませんよ」

「俺も別に太ってないし、現状維持だから」

「それって太った状態で維持してません?」

「おうおう言ってくれるじゃねえか、小娘が。ちょっと(あお)れば人の事を笑っていられないよう太らせる為に、美味い物をたくさん出してくると思っているようだな。小賢しいが良いぜ。乗ってやるよ」

「えぇ……そんな回りくどい事しませんよ」


 ふっ、誤魔化しても無駄だ。簡単に掌の上で転がせるほど俺はちょろくないぞ。まあ今回はあえてその誘いに乗ってやる。そして、その小細工を正面から打ち崩して見せよう。


「まあ何でも良いんで、甘いのをお願いしますね」


 俺の決意を知ってか知らずか、マナは注文をつける。ホント「甘い」物が好きだよな。そんなに甘い物が好きなら砂糖でも舐めてろよ。そうだ。砂糖だ。いっそのことマナですら驚くほどの量の砂糖を使った栗料理を食べさせてやろう。


「良いぞ。とびっきりあまーいヤツを作ってやる」

「じゃあ何時にします。今日この後ですか」

「無茶言うなって。栗を使うんだぞ。皮を剥くだけでどんだけ手間か」


 マナは不満顔だがこればっかりはどうにもならない。美味い物を食べるには時に時間と労力が必要なのだ。


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