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第3話 赤身肉


 無事に狩りを終えた俺は、1時間ほどでダンジョンの出入り口に到着した。ダラダラ過ごしていたとはいえ15年の冒険者生活でステータスも育っている。この程度では呼吸が乱れることもないので、そのまま冒険者ギルドに直行する。


 冒険者ギルドに到着した俺は裏口に回る。今回は依頼を受けたわけではないので、解体場に直接向かう。流石にここの職人も顔馴染みである。いかついおっちゃんが俺に気付く。


「おうジン、今日はなんだ?」

「いつもの牛だ。8頭分あるから解体して5頭分は買取りで、2頭分はギルドの酒場に卸してくれ。残りの1頭分は俺が持って帰る」

「いつもより少なくねえか。お前さんの肉は質が良いから、欲しがる奴が多いんだぞ」


 おっちゃんが太い両腕を組んで溜息を吐く。このおっちゃんは強面だが腕は確かなので今日は当たりだな。アイテムボックスからオーバース牛の死骸を出して解体用の広い台に置いていく。


「今日は野暮用があってな」

「次は頼むぜ、ほら木札っ」


 渡された木札を持って解体場を出る。後は冒険者ギルドの受付に木札を渡して報酬を受け取るシステムになっている。ギルドの表口に回りギルドへ入ると、正面に受付がある。受付窓口は3つあり、俺はその内の顔馴染みがやっている窓口の前に立つ。


「今日の受付はマナか」

「ご不満ですか?」

「いーや会いたかったよ~」


 誇張抜きでアイドル級の顔面偏差値の受付嬢に木札を見せる。マナは2年目いや3年目だったか? の受付嬢だ。ピンクがかった金髪が特徴の快活で親しみ易い少女である。


「あーはいはい」

「言われ慣れてるんだろうな。反応雑っ」

「いえ口説いて来る人はいても、こんなアホみたいなやり取りするのはジンさんくらいですよ」


 呆れた様子のマナ。俺の軽口にも慣れた感じで流してしまう。冒険者ギルドの受付嬢なんて庶民の女の子にとっては、憧れの職業でありアイドルみたいなものだ。口説く奴も多いようだが、俺の軽口は口説きにはカウントされてないみたいだ。まあ実際口説くつもりで言っている訳ではないからな。


「それで今回は何を狩って来たんですか?」

「牛だな」

「それは良いですね。要望が多いので助かります」


 需要が供給を大きく上回っている為か、マナは笑顔を浮かべ本心から言っているように見える。こういうので女と関わりの少ない冒険者はのぼせ上ってしまう。魔性の女だな。マナは計算でこういうことが出来るほど器用ではないが、意識的でないことがむしろ質が悪い。そのうち勘違いする新人冒険者を生みそうだ。俺には関係ないけどな。


「俺は飯食っているから査定終わったら呼んでくれ」

「はーい。今日は遅いんですね」

「教会寄っててな。もっとまともな生活しないと病気になるぞって脅されちまったよ」

「今更まともになれるんですか?」

「馬鹿にすんなよ、もう完璧だ」


 俺を見るマナの目は全く俺の言葉を信じていない様子で、胡散臭いと雄弁に語っている。だがマナもすぐに分かる。俺は有言実行の男だ。なにせ今日はもう走って来たんだからな。脂肪も燃焼しているはずだ。


 俺は受付窓口を背に酒場へ足を向ける。といっても向かうのは冒険者ギルド内にある酒場である。納品物の査定などには時間が掛かるので待ち時間に使う者が多い。俺が空いている席に着いていると料理人が声を掛けて来た。


「オーバースの肉、また卸してくれたんだな」

「おう、もう届いたのか。さっき渡したばっかなんだが」

「うちに持って来た分だけ先に捌いたってよ。こいつを料理すれば良いんだろ」

「頼む、あといつもの酒と黒パンも」


 話が早くて助かる。おじさん、お腹ぺこぺこだよ。しかし、こういう時に限って料理より先に酒が来てしまう。一瞬料理を待とうか考えたが我慢なんて出来ない。蒸留酒を天然の炭酸水で割って魔法でキンッキンに冷やした物にレモンっぽい果実を絞って飲む。


「くぅぅぅ」


 のどがキューとして脳みそから快楽物質がバンバン溢れ出ている感覚がする。ヤバい物が入っていてもおかしくないくらい効く。すぐにもう一度口から流し込む。


「これ飛ぶぅ~」

「それギルドが危険な物を出していると変な噂になるので止めてください」


 マナが呆れた顔で俺を見ていた。手には革袋を持っており、それをテーブルに置く。


「手数料等を差し引いて金貨53枚です。まともな生活はどこにいったんですか?」


 金貨53枚で大体165万円くらいだ。こうやってあっという間に稼げてしまうのも、自堕落な生活をしてしまう要因だろう。だが酒イコールまともではないというのは聞き逃せない。


「適度な飲酒は心の安定に良いんだぞ」

「はあ……酒毒にやられて手が震えるようになった人も同じことを言ってましたよ」

「マナも飲む?」

「この流れで飲むとでも? それに仕事中です」

「残念」


 そんな心温まるやり取りをしている間に料理がやって来た。ステーキと肉メインのスープと黒パンだ。ステーキをナイフで切り、一口食べるたびに酒を飲む。野性味溢れる風味と肉の旨味を存分に味わい、酒で一度リセットする。たまに酒の代わりにスープを飲むとまた違った後味を感じて食が進む。ガチガチに硬い黒パンはスープに浸して食べる。こうするとパンが柔らかくなるだけでなく強い麦の味はスープに負けず、えも言われぬ風味になるのだ。


 仕事に戻ったマナを尻目に俺は追加の注文をする。肉は十分ある。2頭分卸したので今日はいくら食べても無くなることはないだろう。


「いやぁ健康に良いをすると飯が美味い」



生活改善、健康な冒険者生活1日目

遅めの昼食

ステーキ2キログラム

牛肉と野菜の煮込みスープ3杯

黒パン3個

酒5杯(そこから先は覚えていない)










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