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第10話 キノコパーティー

 やったぜ。お化けキノコ討伐依頼から帰って一夜明け、今日は朝一で教会に行かなくてよい。これも日頃の節制のおかげだな。しかし昨日は野菜を多めに食べたが、ジャガイモは結構カロリー高かったはずだ。今日こそカロリー控えめな食材であるキノコをメインにしてさらに健康になろう。志の高い俺は決意を新たにするのであった。


 今回俺が食べようとしているお化けキノコは、毒があり本来食用ではない。しかし、ある界隈では度胸試しとして食されていた。それはもちろん冒険者界隈である。こんなバカなことをしようなんて人種は冒険者くらいのものだ。ただ今では冒険者達の中でも一部の人間には熱狂的なファンもいる。その理由は単純に美味いのだ。


 何故かは分からないがお化けキノコは普通のキノコより美味い。普通のキノコより大きくて市場価値が無いのに美味いのだ。そら当然食べるよね。しかも個体差による味の違いが大きくて、シイタケみたいな物から松茸やトリュフのような高級品みたいな味のものまである。このクジのようなランダム要素がまたファンには堪らない。


 そんな毒のあるお化けキノコを食べる為には、まず用意すべき物がある。俺は冒険者御用達の薬屋にやって来た。ここで買うのはズバリ毒消しだ。毒があるなら解毒すれば良いじゃない、というストレートな解決法だ。


「あら、いらっしゃい。今日は何の入用で」

「毒消しをあるだけくれ」

「買占めは勘弁してくださいよ、旦那」


 店員のお姉さんは困った顔だ。流石に冒険者御用達の店でメイン商品の1つが売り切れではマズイか。毒消しの売り上げは圧倒的1位のポーションに次ぐ2位だろう。


「しゃーない、5本で」

「はいよっと。お代は大銀貨1枚です」


 えーなんとお化けキノコ討伐報酬が吹っ飛びました。ちなみに大銀貨がこちらではどのくらいの価値かというと、1万円くらいである。俺が代金を渡していると、新たな客が店に入って来た。


「うっす」

「ちわっ」

「何やってんだ、ジン」


 パーティー【黒い稲妻】の3人だった。まあ冒険者御用達の店だから顔見知りがいる可能性は高い。だがその相手がこいつらだったのは幸運だ。俺はドルトスに声を掛ける。


「お化けキノコが27匹分あるんだが、お前ら時間あるか?」

「おっ大漁だな」

「それ言うんだったら大漁じゃなくて豊作だろ?」


 適当なことを言うドルトスにマシューが指摘する。マシューは【黒い稲妻】の斥候であり、パーティーの頭脳でもある。細身で軽快な身のこなしと罠の設置や解除が得意な奴だ。


「食えるならどっちでも良いぞ」


 この頭の悪そうな発言はオルト。大柄で体重も100キロを大幅に上回っているアタッカーだ。デカい斧を使っていて、攻撃力だけで言えば金等級の下限くらいはある。


「お前らは毒消し持ってるか?」

「あるよな?」

「3つは」

「微妙だな」


 毒消しの数に少々不安がある。もう少し買い足したいのだが、店員との再交渉は芳しくない。


「そう言うなら材料採って来てくださいよ」


 店員の提案に俺とドルトスは顔を見合わせる。


「毒消しの材料の納品なんて初心者用じゃねえか」

「そろそろ新人が増えて来てる時期だから、俺達なんかに頼まなくてもしこたま入るぜ」


 俺達は全員銀等級だ。近場の採集依頼なんて実力と報酬が合わないし、ただでさえ金に困っている者の多い初心者帯の依頼を荒らすのはマナーが悪い。毒消しの数は少々不安だが、とりあえず最低限は確保した。


 次の問題はどこで食べるかということだ。俺の家でも良いがオルトがなー。こいつがいると手狭に感じるから広い所でやりたいんだよな。折角4人もいるんだし派手にやりたい。


「何処で食べる? どっか騒いでも良い場所無いかー?」

「ジンの家じゃ駄目なのか」

「ご近所迷惑だろ」

「お前そんな事気にする玉じゃないだろ」


 ドルトスの失礼な発言はスルーで。マシューが少し考えた後「冒険者ギルドでどうだ」と有力候補を挙げる。流石は【黒い稲妻】の頭脳。ドルトスお前リーダー降りろ。


「ギルドの酒場に持ち込みなんて無茶すんのジンくらいだろ」

「俺の場合は何かする時はちゃんと根回ししてんの。だから問題にならない」


 ドルトスくん、君さっきからちょっと失礼じゃない。キノコ分けてあげないよ。


「いや酒場じゃなくて訓練所の方だ。どうせあっちは誰も使ってないからな」

「良い考えだ。やっぱドルトスと違って頭良いな」

「おい」


 わいわい言いながら冒険者ギルドに向かう。訓練所は盲点だったな。昇級テストの模擬戦や新人講習くらいにしか使わないから今日も空いているだろう。一部が吹き抜けになっているので火も使える。完璧だな。


 ギルドに入るとまず受付のマナに声を掛ける。いくらなんでもギルドの訓練所で勝手にレッツパーリィするのはマズイ。


「ジンさん、こんにちは。どんな依頼にします?」

「今日は依頼じゃなくて訓練所使いたいんだよ。空いてるよな」

「ええ、今日は何の予定も入ってません。でも今更ジンさんが訓練所に何の用ですか?」

「そりゃ訓練だろ?」


 やるのはバーベキューみたいなものだから、野営の訓練だな。嘘は言ってない。訓練所は弓の練習用の的が端の方に放置されているくらいで、ガランとしている。


 俺はアイテムボックスから必要な物を全て出していく。七輪2つ、炭、お化けキノコ、その他の野菜、肉。七輪は特注で大人が両手でなんとか抱えられる大きさだ。アイテムボックスが無ければ絶対持ち歩こうなんて考えないだろう。


 七輪に炭を入れ魔法で火をつける。火魔法がまともに使えれば炭をおこすのも簡単、これから冒険者になる人は覚えておこうね。お化けキノコを食べやすい大きさにスライスして焼く。


「やべえ匂いだけで腹減って来た」

「待て待て流石にまだ早いぞ」


 焼き始めたばかりのキノコを今にも食べそうなオルトをドルトスが止める。まだ焼くどころか表面が炙れてすらいないぞ。だが気持ち分かる。熱されたことで既にキノコから芳醇な香りが出始めている。何とも言えない香りは、菌類なのにどこか動物性由来のものと思わせる力強さを感じさせる。


「我慢出来ねえ」

「あっおい」


 俺が止めるも間に合わず、オルトがキノコを手で掴んで食べてしまった。まだ早いって。


「あちいぃいぃ」

「アホだろ、こいつ」

「アホだぞ、知らなかったのか?」


 呆れる俺にドルトスが溜息を吐いた。それにしても中まで火が通っていなくても、表面はもう熱かったらしい。これならもう少しで食べ頃だな。


「なんだ、もう食ってるのか? コイツが無いと始まらないだろ」


 マシューが酒がなみなみと注がれたジョッキを人数分抱えてやって来た。いつの間にかギルド内の酒場に調達しに行っていたらしい。頼れる斥候だよ、お前。マシューが持って来た酒はエールである。ビールの一種だが俺がいた頃の日本でよく飲まれていたラガー系のビールより、香りや味が強い。ラガーの爽快感も良いけど、こっちも美味しい。


「そろそろイケるんじゃねえか」

「そうだな、じゃあいただきまーす」

「おい、それ俺が目付けてた奴だぞ」


 ドルトスが何か文句を言っている気がするが、口に入ってしまえばこっちのもん。つーか数はいくらでもあるんだから、文句言ってる間に他の食べろよ。


「これ、当たりだぞ」

「マジか」

「おっホントだ」


 何の味付けもしていないのに単体で成立する濃厚な風味、これは毒さえ無ければ超絶高級食材として扱われたはずだ。俺の言葉を聞いてドルトスとマシューもすぐに食べて感動している。オルトはもう無言でガッついている。


「オルトっそろそろ毒消し飲んどけ」


 俺はオルトに毒消しを渡す。そう、毒キノコを食いながら毒消しを飲み、飲んだらまたキノコを食う。これがお化けキノコを食す際のスタイルだ。何故こんな面倒臭い食べ方をするのかというと、毒消しを先にキノコに掛けたりすると何故か味が落ちてしまうのだ。なんだったらお化けキノコの毒が美味しい説まである。


「おぉ舌にビリビリ来るぜ~」

「バカっそれ毒が効いんてんじゃねえか」


 ドルトスがオルトの頭をド突いて、追加の毒消しを飲ませている。


「焼きも良いが鍋もやるか」

「「良いねえ」」


 俺の提案に【黒い稲妻】が抜群の連携を見せ賛意を示す。俺は早速鍋を用意する。


「材料はテキトーに切って全部ぶち込む」

「「ブッ込めブッ込め!!」」


 【黒い稲妻】のテンションが高い。お化けキノコを食っていると何かテンション上がるんだよな。実害はない。


 鍋が出来上がるまでは焼いたキノコを醤油モドキや柑橘系の果実汁で味変化させながら待つ。


「こんなに美味いのに何で冒険者以外に流行らないんだろうな」

「毒の効き方に個人差があるし、素人さんには危ないって」

「それもそうか、がっはっはっは」


 ドルトスの疑問に俺が答えると、ドルトスは大きな笑い声を上げた。これキノコの影響なのか、ただの笑い上戸なのか分からんな。とりあえず毒消し飲ますか。ちょっと毒消しの消費ペースが速い気がするが、まあ大丈夫だろう。

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