もう1人の勇者
親友の腹に魔物の切断された腕が突き刺さっている。足元には鮮血が滴っている。
「お前...。」
「しくじっちゃいました。」
そう言って俺に笑いかける。しかしその笑みは痛みに耐えてようやくでたものだった。
「どうして...俺の後ろにいたんじゃ...。」
「はい...。4波までは大丈夫でした。でもさっきのは...流石に無理だったようです...。」
必死で言葉を紡いで伝えようとしている。そんな親友の姿に歯を食いしばって涙を堪えることしかできなかった。
「ぼく...短い間だったけど楽しかったです。」
「そんな...死んじゃうみたいじゃないか!」
親友は目を細めて笑った後後ろに倒れた。
「おい!」
すぐに駆け寄って頭を起こす。
「さっきみたいによ、死なないですって言ってくれよ...なぁ!」
「...」
「なんか言ってくれよ!...そうだ、完全ポーションを使おう。少しだけ耐えてくれ!いまこの腕を抜くからーー」
その言葉を聞いた瞬間、親友は腕を抜こうとする俺の手を掴んだ。
「お...おい...。何やってるんだ。死んでしまうぞ。」
親友の震える声が聞こえる。
「きみの...ともだちのために...つかって...」
何を言っているが分からなかった。しかし、火山が噴火したような音が聞こえてその意味が分かった。
メイラーゼが負けた。
親友がポーションをメイラーゼのために使えと言っている。
「いや、俺は...お前がいなくなったらーー」
「いいんだ。おねがい...せかいを...。」
「こんな...こんなことって...。」
耐えていた涙が溢れる。笑顔だった親友の顔が苦しみに変わった。
「タノシ...カッタ...。アリガトウ...シンユ...。」
「おい!死ぬな!」
息が小さくなっていく。完全ポーションに伸ばした手が動かない。
俺が...あのとき言うことを聞いていれば...。あのとき水魔法を下に打っていれば...こんなことには...。
親友が小さく首を横に振る。俺のせいじゃないよと言っているようだった。
俺は親友が俺に名前を付けてもらえると喜んでいたことを思い出した。
「お前の名前はケンタだ!俺と同じケンタだ!お前の勇士は俺が語り継ぐ!だから...だから...」
親友は俺の言葉を最後まで聞かず、穏やかな笑顔を見せて空に旅立った。
動かない親友は俺の手をずっと握っている。
空に叫ぶ。肉が見えるまで拳を地面にぶつけた。
こんな世界、もう嫌だ...。
世界のために犠牲になったゴブリンの名はケンタ。その名は未来永劫語り継がれることになるだろう。