生贄から花婿に
「これより結婚披露宴を開始する。皆のもの、祝杯をあげよ!」
神父の合図を皮切りに国中のドラゴンの雄叫びが轟く。
「静まれぃ!......よろしい。では神父殿頼む。」
「かしこまりました。"ドラゴン王国憲法第623条、結婚披露宴のしきたり6,234項"に基づき誓いのキスをせよ!」
−数刻前−
過労死したはずの俺は縄に縛られていた。中から分かるほど豪華な棺桶の中にいるようだ。俺の知り合いにこんなことをしてくれる人なんていないのにな。
眩しい。蓋が開いた。
荘厳な天井が見える。ここはどこだ?俺は天国に来たのだろうか。ん?何か聞こえるぞ。
「......誓いのキスをせよ!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!なんなんだこの状況は!ドラゴン!?」
「な!生贄が喋り出したぞ!」
「どどどうればいいのじゃ!何が起きとるんじゃ!」
「賢者タイムを脱したのか!?」
「お母さん怖いよぉ。」
「祟りじゃ!これは祟りじゃ!伝承は本物だったのじゃぁ!」
「ええぃ!鎮まれ!!」
この場で一番偉そうなドラゴンがその一言でその場を黙らせる。
「神父殿!このような場合はどうすれば良いのじゃ。」
「は、はいぃ国王様。ええと......ええと......ありました!"結婚披露宴のしきたり8,905項によれば、生贄の命蘇った場合は結婚の意思決定の主体がドラゴンから生贄に移るとのことです。」
「うむ。やはりそうであるか。ここで我らの野望は潰えてしまうのか......無念......。」
野望?結婚?さらにこの状況......。俺は転生したのか?それになんだ生贄って。ちょっと聞いてみよう。
「おい、さっきから何を言っているんだ?」
「貴様は黙っておれ!本来ならば生き返ってはならぬ分際なのだ!」
「へー。でも生き返る可能性があるから憲法に書いてあるんだろ?」
「な......。そ、それはそうなのだが......」
「でさ、ちょっと話を聞いていれば俺に結婚するかしないか決める権利があるらしいじゃないか。じゃあ俺、結婚するよ。」
「はぁぁ、やはりそうだよな......。人間がドラゴンと結婚するなんてありえな......。は?今なんと言った?結婚すると言ったのか!」
「あ?聞こえなかったのか?そう言ったはずだ。」
「ななななんと!おい皆のもの!諦めるのはまだ早いぞ!天は我らに味方した!」
ドラゴンたちが唸り出す。隣にいる花嫁姿のドラゴンも喜んでいる様子だ。俺は縄に縛られているのでその様子を眺めることしかできない。
「して生贄よ。人間のそなたがなぜドラゴンと結婚したがる?しかもそなたは人間の中でも最底辺。それどころか世界のどの生き物の中でも最底辺の"生贄"なのだぞ?結婚なんて、普通はありえないのだが......。」
「ん?だって、ドラゴンが飼えるんだろ?こんな機会滅多にないじゃないか!」
しーん。
「な、な、娘を"飼う"だと!?」
「お父様イヤですわ!」
「なんて卑猥なことばなの!?」
「一体どんなプレイをするというんだ!」
「お、俺も呼んでくれぇ!」
あれ、なんか思ってたのと違う......。ドラゴンを飼うって男の子なら一度は考えることだろ。
そもそも"飼う"って、この世界では卑猥言葉なのか?あと結婚式に変態が紛れ込んでるな。
「ゴホン!......そ、そのぉ。これは我らにとって国の命運が左右される話なのでな、娘と結婚してくれるのはありがたい。しかしな......。メイラーゼよ、そなたはどう考える?」
「父上様。最初こそイヤでした。けれど、人間如きが人間が私を犯すなんてありえませんわ!私はこの結婚を受け入れます!」
「むぅ。言われてみればそうだな。では神父殿、儀式を再開してくれ。」
結婚式は淡々と進められた。
−儀式が終わり、教会の外−
国王とその娘(王女であり俺の婚約者)が話している。
「さて、儀式は終わった。メイラーゼよ、此度の件、わしは誇りに思っておる。」
「ありがたきお言葉ですわ。では生贄の地へと行ってまいります!」
「あと、そこの生贄は生贄の地に捨ててきてしまえ。」
「はい、当たり前ですわ。」
な!捨てる?親子水入らずの会話に割って入るつもりはなかったが!おい、どういうことだ!
声を出す間もなく俺はメイラーゼに掴まれて連れて行かれた。
ドラゴンとのプレイってどうやるんだろうと思う今日です。