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似た者同士


 エドゥアルドに当たって砕けたその夜、フランシーナは抜け殻になった。

 

 静か過ぎる自分の部屋、刻々と過ぎていく時間。外からはフクロウの鳴き声が聴こえて、夜はとっぷりと更けていく……虚無だ。うまく頭が働かない。

 

 明日は新年祭であり、フランシーナはというと、いよいよ事務官任用試験である。 

 学園へ入学してから三年間、フランシーナはこの日のために勉強してきた。今夜は試験に向けて集中すべきで、コンディションを整えるため今は早く寝るべきで……

 エドゥアルドのことで抜け殻になっている場合ではないのに、頭の中を彼の言葉がぐるぐると渦巻いては、フランシーナの思考を停止させた。

 

(こら、落ち着くのよ……ええと、まずは……)


 まず……何を考えようとしてたんだっけ……。

 この繰り返しなのである。

 

 だめだ。落ち着けるわけがない。 

 これまでの学生生活、フランシーナは勉強することによって恋愛事から隔離されてきた。

 勉強して、ヴィヴィアナと一緒に生活して、自分に関係のないことからは目を逸らして――そうやって平和な日々を過ごしてきたのだ。

 なのに、生まれて初めての恋愛があの『学園の貴公子』エドゥアルド相手だなんて、無謀にもほどがある。


(……エドゥアルド様が私のことを、す、好きだった……?)


 フランシーナは、ベッドの中で身悶える。

 改めて昼間のことを思い出すと、とてもじゃないけど冷静ではいられなかった。『憧れ』と言われてからギリギリのところで保たれていた平常心は、今日で見事に吹き飛んだ。

 必死になって邪念を振り払おうとするけれど、頭の中のエドゥアルドは強過ぎて――恋愛初心者のフランシーナでは太刀打ちが出来ない。

 

『駄目なんだ。君をどんどん好きになる』

 

 脳裏で、エドゥアルドが呟くのだ。

 面と向かって何度も何度も、フランシーナのことを『好き』なのだと。まったく刺激が強すぎる。

 これまで、少しもそんな素振り見せなかったじゃないか。少なくとも、フランシーナはまったく気付かなかった。仮の恋人として利用されているくらいなのだから、こちらとしては都合のいい存在なのだろうなあと思っていたくらいなのに。

 

 それもあって、フランシーナは何をするにも勉強を優先した。一緒にいる時間だって当たり前のように勉強していたため、実際のところはエドゥアルドのことなど放っておいたまま、『恋人役』らしいことなど何一つしていない気がする。せいぜい、噂の相手をしたくらいだろうか……

 

(一体、こんな私のどこを好きになれるというの……?)


 自分自身のことは嫌いではないが、あのエドゥアルドから『好き』と言われるほどの人間だとは思えない。

 彼は人望があって、何をしても優秀で、それに奢らず努力家で――フランシーナと釣り合うとは思えないのだ。


(あ、でも)

 彼も、同じようなことを言っていたな……と思い出す。

 

『一緒にいるとどうしても比べてしまう』のは、フランシーナも同じだった。

 試験結果が出るたびに、自分とエドゥアルドを比べてしまっていた。勉強しかしてこなかった自分を卑下して、彼からの「すごいね」という褒め言葉を素直に受け取れなかったり。彼の立派すぎる姿を見ては、住む世界が違うと言い訳をしたり。

 

 相手と比べて、『敵わない』と気兼ねをして……二人は、お互いに似ているところがあるのかもしれない。

 彼はフランシーナよりさらに強く、自身を否定していたけれど。

 

『君の努力は本物で、僕の努力は偽物だ』

 

 彼はそんなふうに言っていたが、フランシーナは陰で働くエドゥアルドの姿を知っている。参考書そっちのけで、挨拶文を考える不器用な彼を知っている。厳寒の中、朝から夕方まで学園のために動いていることも知っている。

 どれも、他の誰でもないエドゥアルド自身が身を削っていることだ。まがい物であった時など、いつ存在したのだろう。期待を寄せられることに疲れながらもその期待を裏切ることはない、そんな彼の努力が偽物であるはずがない。


(エドゥアルド様は、なぜあんなことを……)

 

 皆の前で爽やかに佇む彼も、二人きりのときに素顔を見せる正直者な彼も、そして『自分のことが嫌になる』と目を伏せた彼も――どれも本当の姿に違いなくて。

 

 どんなに明日の試験のことを考えても、今日の記憶に抗っても、いつの間にかエドゥアルドのことを考えてしまう。

 瞼に浮かぶ彼に振り回されながら、フランシーナは夜の闇に落ちていった。

 


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