意外と頑固で、厄介な
フランシーナの隣には、すやすやと寝息を立てるエドゥアルド。
しかし終業時間まで、刻一刻と時間は迫りつつあった。
鐘が鳴れば、見回りの教師がやってくる。それまでにはなんとか起こさなければ――フランシーナは、意を決して寝ているエドゥアルドに声をかけることにした。
「エ、エドゥアルド様……起きて下さい、エドゥアルド様……」
何度か遠慮がちに名前を呼んでみたものの、彼の瞼はピクリとも動かない。静かな寝息をたてて、深い眠りについているようである。
「エドゥアルド様、もう帰る時間ですよ……!」
今度は、軽く彼の肩をたたいてみる。
こめかみがピクリと動き、眉間にかるくシワが入った。もう少しだ。
「エドゥアルド様!!」
とうとう肩を掴み、強めに彼の名前を呼んだ。
すると、やっとフランシーナの声が届いてくれたのか、エドゥアルドの瞼が突然パチリと開かれた。
「!?」
覚醒した彼はガタリと勢いよく席を立ち、信じられないとでも言うような目でフランシーナを見下ろしている。
もしかして驚いているのかもしれない。このような場所で寝てしまった自分自身に。
「フランシーナ……まさか、僕は……」
「よかった、起きてくださいましたね!」
「嘘でしょ……こんなところで、君の前で……寝てしまっていたなんて」
「ぐっすりとお眠りでしたよ。起きて下さってよかったです」
かわいそうに、彼はがっくりとうなだれている。
フランシーナは、再び彼のスペースに目をやった。
重ねられたままの書類に、構成途中の挨拶文。そして手つかずの参考書。
この旧図書室では寝てしまっただけで、何ひとつ終わらなかったようだ。大きなため息をつくエドゥアルドに、掛ける言葉が見つからない。
「ええと、あの……お急ぎの仕事だったのですか?」
「……僕の仕事が終わらなければ、皆に振り分ける仕事が進まないから。早くしなければと思っていたんだけれど、不覚だったな。寝てしまうなんて」
「でも、エドゥアルド様だってお疲れなのではありませんか。もっと周りに頼っても良いと思いますが」
「これは僕の仕事だから。周りに迷惑をかけるわけにはいかないんだよ」
「そういうものなのですか……」
寄せられた期待を裏切らないために、彼は強い責任感で仕事を全うしようとしているようだった。
けれど彼のこのような姿を知ってしまって、フランシーナはこのまま見過ごすことなどできない。
「私にお手伝いできることはありますか。できることがあればやりますけど」
「君が? しかし……」
エドゥアルドは一人でなんでも出来てしまうけれど、それにしたって何もかもを背負い過ぎているし、仕事を抱え過ぎている。おそらく、このほかにも仕事は山のようにあるのだろう。
自覚は無いようであるが、きっと疲れ果ててしまっているのだ。ふと気が抜けたところで、寝てしまっても仕方がない。
「では……私はこちら、記念品についての指示書を作成してまいります。メモどおり、数を出しておきますね。それを、エドゥアルド様が最終チェックなさってください。それでは明日、またここで」
フランシーナは重ねられた書類の中から記念品の納品資料を取り上げた。メモもあるし、あの書類の中では比較的なにをすれば良いのか簡単な仕事だ。これならフランシーナでも役に立てる気がする。
「えっ……ちょ、ちょっと。本当に?」
「ええ。これくらいの仕事、私に任せたとしても大丈夫でしょう? エドゥアルド様が皆の期待を裏切るようなことにはなりませんし、イメージが崩れることもありません。安心してください」
帰ってから寮の部屋でやるしかないが、少し寝る時間を遅らせれば明日までにはできるだろう。
場合によっては、ヴィヴィアナに頼っても良いかもしれない。彼女は口も固い。大丈夫だ。できる。そのためには早く帰らなくては。
フランシーナがサクサクと帰り支度を進める隣で、複雑な顔をしたエドゥアルドは気まずそうに頬を掻いた。
「……ありがとう。助かる」
「いえ。むしろこんなにお疲れなら、先にお帰りになっても良かったのに」
「僕は、『恋人』を置いて先に帰るような男になりたくない」
「なるほど、これもイメージ優先というわけですね……?」
厄介なものだな……とフランシーナは思ったが、エドゥアルドは首を振る。
「違うよ」
「えっ」
「君は隣で頑張っているのに、自分だけ帰るなんて……僕はそんなの許せない」
まあ、寝ちゃったんだけどね……と再び落ち込むエドゥアルドは、とんでもなく頑固なようだ。
なるほど、やはり厄介なものだな……とフランシーナは思った。




