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「あ、姉さん」
緊張で震えそうな声を何とか抑えて、たまたま世間話をしていた所に姉さんがあらわれた風を装う。
少し顔がひきつっているのを自分でも感る。
「今、ねーちゃんって言葉が聞こえた気がするけど。もしかしてそれは私の事?」
「え、ええ?」
う、やっぱ色々聞こえてたのか。
でもここで負けてはダメだ。
惚け続けないと。じゃないと家に帰った後何をするかわからない。
姉さんは激怒すると、本当に怖いのだ。
「聞こえない?貴方は陰で私のことそんな風に呼んでるの?って聞いてるんだけど」
少しイラついた表情をする姉さん。
スタイルがよく背が高いので、かなり高圧的だった。
「違くて!その・・」
「何が違うの?怒らないから言ってみなさい?」
言葉とは裏腹に、声色や表情には圧を感じる。
「・・・え!あ!そういえば!」
何とか話題を変えないと。
苦し紛れに脳みそから話題を引きずりだす。
「ど、どうしてここに?ここ2年生のフロアだけど!」
「あら」
イラついた表情の姉さんがにこやかに微笑む。
腕を組んで、腕の上に大きな胸がのっかっている。
シンプルに決まずいので目をそらしそうになる。
ただ、話題を逸らせそうな今は変に姉さんの気を害すべきではないと思い、
必死に姉さんの胸を見ないようにする。
「いつ私があなたに質問を許したのかしら」
「え」
にこやかなまま姉さんが言う。
そ、逸らせてない・・・
どうしよう。
数か月前に、帰りが遅くなったのに連絡をすっぽかして、
姉さんを激怒させた時は腹を思いっきり殴られたのを思い出す。
流石にそんなことは殆どないが、
怒りようは、その時の姉さんと同じくらい。
「聖歌先輩!おはようございます!今日は凄い良い天気ですね」
困っている僕を見かねたのか、横から奈緒が姉さんに話しかける。
・・・・助かった。
この場を切り抜けるには僕だけでは不可能だ。
奈緒の顔を見ると、
こちらに目線をチラッとやって、『任せて』と僕に言いたげだった。
はは、僕はなんて良い彼女をもったんだろう。
仲間がいる自信をもって姉さんの方を見ると、姉さんとばっちり目があい続ける。
あれ?奈緒が話しかけてるんだけど。
「・・・・」
奈緒から話しかけられているにもかかわらず、
僕から顔を一切そらさない。
外を横目でちらりとみると、言うほど晴れてはいなかった。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
三人が沈黙になる。
ここだけ重力が2倍にでもなったかのようなくらい身体が重たい。
「あの、おはようございます・・・」
奈緒がもう一度挨拶をする。
「・・・ええ、おはよう」
ここでようやく姉さんが奈緒を一瞥し、挨拶し返した。