3
「今日の朝は男が好きな玉子焼きを作ったの」
エプロンを脱いで椅子に座る姉さん。
エプロンを脱ぐ時に、豊満なバストが揺れる。
いくら大好きな姉さんでも、姉の胸が揺れる所は気まずいので目をそらしておく。
「ありがと」
「お礼なんていらない。可愛い拓哉のためだもん」
一々行為を伝えてくれる。
嬉しいけど、照れくさい。
姉さんは家の中だけじゃなく、外でもこんな感じなので、
あまり友達の前で姉さんと立ちたくない、というのが本音だったりする。
僕だってもう高校生だし恥ずかしい。
「拓哉?食べないの?」
スプーンを持ったまま僕を見る。
姉さんは基本僕が食べ始めないと、自分も食べないのを忘れていた。
「ああ、ごめんよ」
「食べさせて欲しいの?」
「た、食べるから!」
慌てて、食器の料理を口に入れる。
姉さんなら本当にやりかねないのだ。
□
「ティッシュとハンカチは持った?」
僕と姉さんは一緒の高校に通ってる訳で、一緒に登校している。
去年は『あの本田聖歌が彼氏を作った』とカップルと間違えられて大変だったのを覚えている。
姉さんは対して気にしていないみたいで、何故か誇らしげだった。
「言わなくても、そんなことわかってるよぉ」
「今日は一々反抗的ね」
姉さんが優しい顔で僕の頭に手をポンっとおく。
「昨日はハンカチ忘れて私のを貸してあげたじゃない」
「ああ、そいういえば」
そうだ。学校に着く直前で忘れた事に気が付いて姉さんに借りたんだ。
「私だって男がきちんとしてれば、うるさく言わない。でも現にだらしがないじゃない」
「それは」
「文句でもあるの?」
僕の頭に手をのせたまま姉さんの語気が強まる。
表情は温かいままだ。
「・・・」
「ふふ。ないなら待っていてあげるから用意してきなさい」
ここでやっと、頭から手が離れる。
♢
「本当に私がいないとダメダメね拓哉は」
「それに一昨日は確か・・・」
二人並んで歩く。
姉さんのほうが背が高いので、話す時は僕が見上げる形になってしまう。
そして今日の登校中の会話の話題は、僕の失敗談を羅列していくという、
ちくちくした地獄のような話題だった。
「わかったからそんなに言わないでよ」
「わかったから?」
楽しそうにしていた姉さんが立ち止まり僕の顔をまっすぐ見て言う。
「さっきも言ったけど、拓哉がダメダメさんだから言ってるの」
「わかってるよ」
「気の無い返事ね」
「そんなことない」
最近は少し僕も反抗的だ。
そりゃそう。
僕はもう高校生で2年生なのに、未だに小学生だと思って接してきているような感じ。
それに彼女もできて少し気が大きくなっているのかも。
「何よ強がって。ちゃんとしてたら私だってそこまでうるさくないわ」
「はぁい」
「わかればいいのよ」
姉さんがまた前を向いて、歩みを進める。
僕は少し悔しくて、聞こえないような小声で。
「何もしてなくても十分うるさいじゃん」
聞こえないように、口ずさんだ。
本当に声をだしているかいないかギリギリの声量で。
僕の心の中の小さな抵抗のつもりだったが。
「何か言ったかしら?」
前を向きなおした姉さんの顔がグルっとこっちを向く。
表情は無表情だった。