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「何よ固まって。一人じゃ手を洗えないの?」
どうして、生徒会はいつも少なくとも2時間はかかるはずなのに。
しかも、玄関に突っ立っているという事は、たまたま玄関に姉さんがいて僕が返ってきたか、
もしくは、姉さんがずっと玄関にいたかのどちらか、だ。
「姉さん生徒会は?」
冷や汗をかきながら声をしぼりだす。
「生徒会?休んだけど?それが何か関係ある?」
「休んだって・・・」
姉さんは生徒会長だろ?
もしかして体調が悪いのか?
「もうちょっと記憶力が良いと思っていたけど」
姉さんが長い髪を耳にかきあげる。
表情で機嫌が悪そうなのはすぐわかる。
というよりイライラしてるように見えた。
「今日はあなたに説教するって私言わなかったでしょ」
「せ、説教?そんなことのために?」
姉さんは説教するために生徒会をやすんだってこと?
はは、まさかそんなことはないよな。
「そんなこと?あなたって少し価値観が変よ」
姉さんが僕の肩に手を置く。
「大事な大事な弟が私を影で馬鹿にしていたのよ?一大事じゃない。本当は学校なんて休んで家に引っ張って帰りたかったの我慢したのよ?」
「え」
「で」
姉さんが僕の肩に置いた手を頭に移動させ、頭を撫でられる。
「私はすぐ下校したのだけれど・・・ずいぶん遅かったのね」
優しく頭を撫でられてはいるが、わしづかみにされているような気分になる。
「まさか本当に忘れていたのかしら?私との約束を」
姉さんの声は優しい。
はたから見ると姉がやさしく弟の頭をなでながら、何かを諭しているようにみえるだろう。
ただ僕は、悪魔に心臓を握られているような気分だった。
姉さんを悪魔に例えるのは失礼だとわかってはいるけど。
「ま、まさか・・・覚えてたよ」
「ああ、わかったわ」
「クラスメイトの友達と一緒に遊んで帰ってきて遅くなったの?」
「!」
そうだ、断れなかったことにしよう。
自分は断ったけど、前から約束していて、無理やり連れてかれたって。
うん!それがいい。
「うん!はは、何かさ!盛り上がっちゃって」
「そう」
姉さんが僕を撫でている手を止めて、僕の手を握る。
右手で撫でられていたので、左手を握られた。
まるで逃げられないよう縄でつなぐように。
「さっきあなたが奈緒って子と一緒に歩いてるのを見たわ」
お、終わった・・・・・
僕は、あはは、どうすれば。
「手と顔を洗ったら制服のまま私の部屋に着なさい」
姉さんが、僕の後ろのドアのカギをすっとかけながら言う。
すれ違う瞬間、姉さんがいつもつかっているシャンプーの甘い匂いがした。
ただ、今はその匂いが恐怖でしかない。
「あ、あのさ。そのことなんだけど」
「あらあら。何勝手に話かけてきているの?さっさと手を洗って私の部屋に着なさい」
ギロっと姉さんに睨まれて、僕は思わず情けない声を上げてしまいそうになる。
脳内では、逃げ出したらどうなるか、何を言ったら許してもらえるのかなど、脳のメモリがフル稼働していた。




