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永遠の序章(原案)

作者: 樹心院
掲載日:2023/11/08

十歳の息子へ贈る

胸の上で手の指を組み、深く眠りに入ると吸血鬼に心臓を奪われるという言い伝えを信じて烏丸リンは暮らしてきた。

高校生の時に広がった噂話「アーメン事件」。

リンはごく普通に手を組みアーメン状態で寝ていたので、うろたえた。それからは特に気を付けて今に至っている。

リンはバード財団の新人職員である。

髪は短く、左前髪を伸ばしている。

左肩には漆黒のカラスがいつもとまっている。

カラスの鋭いくちばしから前髪で左眼球を守っているのだ。

お気に入りの曲を口ずさんでいる。


京都の有名な地名は「カラスマ」だが、リンの苗字は「カラスマル」である。由緒正しい家柄だと教わった。生家は人里離れた山中のさらに奥にある。通学が大変ということで高校からは寮に入った。中学校までは叔父の運転する軽トラックで最寄りの分校に通っていた。

漆黒のカラスは祖父からのプレゼントだった。

大学進学を機に一人暮らしを始めた。地方都市の中規模な駅から、徒歩約10分のワンルームマンション。初めての一人暮らし。住環境が快適で、社会人になった今でも住み続けている。しかし、正確に言えば同居人がいる、屋根裏に。

キャハハ小娘。

そいつはリンがふさぎ込んでいるときに、心を逆なでするかのように屋根裏を走り回る。キャハハ、キャハハと小躍りする。

今日も屋根裏で嬉々としている。さすがに同居5年目で慣れている。

紅茶を飲みながら曲の続きを聴いた。


時間の流れは永遠に続くのか

いつまでも終わらないことってあり得るのか

そんな感じの曲だった。

リンは不思議に思っている。

宇宙の始まる前ってそこに何があったんだろう。

宇宙の広がるその先には何があるのだろう。

永遠が無いとしたらその前と先にはいったい何が。


勤務先のバード財団は、全世界の飛行物体を調査研究し必要に応じて対策を講じている公共的な機関である。もともとは野鳥の保護を名目に設立された団体だったが、昆虫やコウモリなどありとあらゆる飛行生物に加え飛行機やヘリコプター、最近ではドローンなどの人工物はもちろん、未確認飛行物体やスカイフィッシュなどの調査・保護にも本格的に取り組んでいる。

リンは主任研究員補佐の指導下で、主に西日本空中の観察にあたっている。

主任研究員補佐は星 網彦ホシ・アミヒコという三十代の男である。網彦は663年「白村江の戦い」で散った名も無き兵士の生まれ代わりだと自ら信じている。

百済の要請に応え、朝鮮半島へ出征した古代の兵士たち。その多くが、遠く白村江の水面に沈み半島の土に還った…

いや、我が屍は川を、海を、下り、渡り、故国へ辿り着いた。

我がふるさと博多へ


網彦の専門はUFOやUMAなどであるが、一番好きなものは仕事にしないということで時間の多くを「謡」にかけている。仕事やリンの指導もそっちのけで謡っている。最初こそ困惑したリンだったが、自力で仕事を覚え、とりあえず網彦ともいい上下関係を保っている。

リンは網彦の謡う旋律を少しだけ気に入っていた。なんだか子守歌に似ている感じがした。でも、センパイって福岡県出身だっけ?

知らないことは問い詰めないのがリンの性分だが、気に入らないのは、今日も懲りずに屋根裏で騒いでいるあいつだ。

おのれ、キャハハ小娘め。


とある休日に、リンはワークショップへ出かけた。心酔するコラムニストであるカホリが週刊誌に連載している「ザコオヤジどもよ、いまこそ短パンを履け」のイベントである。 

カホリは星網彦の元カノだったらしい。大学時代のゼミ仲間であり、カホリから誘いカホリから振った。そのころの網彦はまだ謡っていなかったそうだ。

カホリは、売れっ子とまでは言わないがたまにテレビのワイドショーにVTR出演する程には知る人ぞ知る業界人である。そんなコラムニストの元カレだという経歴が、網彦にはたまらなく誇らしかった。まるで自分のセンスがいいかのように周囲に自慢している。

後のことだが、カホリは、網彦とリンの関係する事件に巻き込まれて行方不明となった。


リンには両親のはっきりとした記憶がない。

物心ついたときには、叔父の烏丸一平と二人暮らしだった。母方の祖父である鉄鎚源太郎(テッツイ・ゲンタロウ)の敷地内に住居があったため、たまには祖父も遊びにやってきて可愛がってくれた。一平は源太郎の弟子らしく、源太郎の仕事を手伝いながらリンを育ててくれた。生活費その他は源太郎から毎月相当額の金が渡されていたようだ。

大柄で立派な白髭を蓄えた鉄槌源太郎は、仏教宗大本山白虎極彩寺の第二十三世極僧正を名乗っている。深山幽谷に本堂を構え、寺は檀信徒から「白虎寺」と呼ばれている。

かつて寺の一人娘と一平の兄である徹平が結ばれ、リンが誕生した。源太郎にとってリンは唯一の孫であり、第二十四世となり得る存在でもあった。

烏丸兄弟は源太郎の弟子として、かつては白虎寺に住み込んでいた。そして兄弟ともに師の娘へ恋慕の情を募らせ、弟が身を引き兄が結ばれたというよくある話である。

その後、夫婦二人は大陸へ渡った。幼子のリンを残したまま。


カホリのワークショップは荒れた。

もともと気楽なイベントのはずだったが、カホリが日頃から批判している自然療法の団体メンバーが潜入参加していたことから、カオリ派と団体メンバーが激しく罵り合い、収拾がつかなくなった。

カラスの肝が生殖器に効くということで「カラスを狩る」とリンも詰め寄られたが、ガーという咆哮に敵がたじろいだすきに脱出した。

リンはこの時初めてカラスが生き物だということを認識した。

自宅へ逃げ帰り紅茶を飲んでホッと一息ついた。

「ザコ短」のページをめくり気になる記事を見つけた。

「ホワイトタイガー発見か!?」

そういえば、おじいさまのお寺には白い虎の作り物が飾ってあった。

屋根裏ではいつにもましてあいつが走り回っている。

キャハハ小娘め。


司頼朝ツカサ・ヨリトモは大陸へ向かう前夜、鉄鎚源太郎に謁見した。若い時から弟分として源太郎と行動を共にし、現在では弟子筆頭として教団運営にあたっている。

「猊下からの直々のお言葉、もったいなくもありがたく、不肖この司、粉骨砕身勤めに励んで参ります。」

「わが教団の命運は、この司頼朝にお任せください。」

仰々しい物言いに自ら震えている。

「今回の調査には、烏丸夫妻を帯同させる。徹平はああ見えてタフな男だ。汚れ仕事にも慣れておる。だがユキは世間知らずの娘だ。わしが手塩にかけて育て上げた。」

まさか徹平なんぞに…と言いかけて頼朝から視線を外した。

「子まで産んでは、しかた、あるまい。」

いつのころからか身につけた大僧正としての貫禄を勿体つけるように、喉のこぶしを利かせて発声している。

「ユキ…お嬢様は、わたくしめが万艱を排してお守り申し上げます。徹平には身の回りのお世話程度がお似合いかと。」

壮年に手がかかろうとする頼朝の眼光が鈍く赤い。

「それに、虎姫様のご降誕も進めませんと…」

「うむ、時間がないぞ。」

「はっ!この身に代えても。決して邪教どもには負けませぬ。かならずやホワイトタイガーの捕獲ならびに虎姫様のご降誕を成し遂げて参ります。」

司頼朝を筆頭とする「頼朝機関」が大陸へ渡ったのはリンが生まれてすぐのことだった。

両親も島国を離れた。


虎姫心(トラヒメ・シン)は、烏丸リンの実の妹である。生みの親は一緒だが、育ての親は司頼朝であった。

大陸へ渡った頼朝機関は、ホワイトタイガーの捜索に血道をあげていたが、成果は思わしくなかった。司頼朝のホワイトタイガー捕獲にかける決意は並々ならぬものがあった。連日のジャングル捜索で配下の者たちは疲労困憊だったが、司頼朝は構う気配も無く、充血した眼でひたすら前進を続けた。精神を保つために鉄槌源太郎より授けられた勾玉を握りしめ繰り返し経文を唱えている。噛み締めた奥歯から唸る言葉は、かつての相棒であった男に向けられた呪詛であった。

「邪教どもには負けぬ。」


ホワイトタイガーの捜索とともに「虎姫」の降誕計画も進められた。これは、かつて生物学者であった徹平と妻のユキが手がけた。研究者として将来を嘱望された徹平であったが、長年にわたって持ち続けた究極の夢に向かって野に下り、白虎寺へと、鉄槌源太郎の下へといきついた。

最強の遺伝子コードを創りたい。

すでに鉄槌源太郎に弟子入りしていた弟の一平に紹介され、大柄な宗教家に出会った。胡散臭い気はしたが、彼の話を聞けば聞くほど自分の理想に近づける気がした。

ホワイトタイガーの話、奥方の話、そして一人娘ユキの話。

最高の母体を使えば最強の遺伝子コードがこの世に誕生するはずである。源太郎の奥方が残した毛髪から特定の遺伝子コードを抽出し、徹平が立てた仮説通りにコード配列を組み変えてみた。

唸った。

奥方の遺伝子コードはこれまでの研究で目にしてきたどのコードとも違った。地球上の生物では見たことの無い配列だった。仮説をはるかに上回るコード配列が現れた。

これならば、一気に生成まで持ち込めるかもしれない。

しかし、何度試してもうまくいかなかった。配列を変えた遺伝子コードでは生物として機能しない。生物へ分化しない。

やはり母体を使っての生成が必要か。


大陸へ渡って2年後、ユキが女児を産んだ。新生児はすぐに司頼朝の手に渡った。ホワイトタイガーの捜索では一向に成果が上がっていないが、彼の目は興奮に充血している。

「虎姫さまのご降臨!」

産んだばかりの子を取り上げられたユキは呆然としている。自らの父である源太郎の指示であり、信頼している頼朝の仕業であり、なにより夫であり女児の父親でもある徹平も関与している。

同胞の命運をかけた役目とはわかっているが、どうしようもない感情が湧き上がってくる。産まれた子供には心「シン」という名がつけられた。ユキのたっての希望である。その名を呼ぶたびに、遠く本邦に残してきたもう一人の娘のことも思い出す。

コードネーム「虎姫心」として、頼朝機関により大陸で養育されることとなった。

生後間もない新生児を抱きながら司頼朝は奇妙な感覚にとらわれた。

「この赤子はすでに目が見えているんじゃないか…」


リンは業務上の新たな課題に苦戦していた。もともと法学部で公法を学んでいたが今の仕事ではトンデモ系の知識も必要である。網彦の助言が欲しいところであるが、彼はリンの指導そっちのけで謡に興じている。

「カラスマルさん、ムーの一冊でも読みなさいよ。」

今夜はテレワークのため自宅で西日本の闇を観察しながら、屋根裏歓喜の舞を苦々しく思う。

おのれキャハハ小娘。


国際的な機関であるバード財団は、もともとオイルショック前後に急速に広まったネオ末法思想をきっかけに設立された。世界中の油分が不足するという危機的な現象により人類はそれまでの高度成長から一転して滅びへと軸足を変えたのではないか考え始める人々が出てきた。時期を同じくして各地で就寝中の怪死事件が続発した。いずれも司法解剖の結果、心臓が丸々消失していた。何者かが抜き取ったとしか言いようのない状態であった。若者の間で、奇妙な噂が広まる。

吸血鬼に心臓を取られる・

闇夜を飛行する蝙蝠は超音波で獲物を見つける。心臓を捧げる準備が整った人間の上空へ飛来し、獲物をロックオンしたところで吸血鬼の姿に戻り下降、そして心臓を簒奪する。油分の不足による生物の皮膚大規模乾燥化が引き金になった不可思議な現象だと、バート財団の調査で判明した。日夜上空を観察し続けている賜物だった。極秘に報告を受けた上層部が秘密裏に設立したのが、通称「ピコン部隊」である。

蝙蝠の超音波と同じ波長を人工的に作り出し、バード財団本部(にあるピコン部隊棟)から世界中へ発信し続け、数えきれないほどの飛行物体の反射を利用してアーメン状態になっている人間の情報を収集する。発見すると同時に、今度は返す刀で、人体に照射するとビクンと震える電波を発信する。その電波がまた数多の飛行物体に反射し続けてアーメン状態の人間に照射されると、体がビクンと震えて組んでいた指がほどけ、アーメン状態を脱する、というわけである。電波を発射する際に「ピコン」と音がなるためちょっと可愛らしい通称名が着いたのだ。

これによって多くの人命が救われている。

ただし、バード財団新人職員のリンには知るよしも無いことである。もちろん網彦も全くの埒外である。


ハルカは教団を去る決意を固めた。敬虔な信者であるおばあちゃんを連れて、生まれ育ったシャオシャオ教団と決別することを決めたのだ。

両親ともに教団の幹部信者だった。一人娘のハルカは幼いときから男性幹部の花嫁候補として教育されてきた。それでも優しい両親とお手伝いのおばあちゃんに囲まれ何不自由ない幸せな少女時代を過ごしていた。

15歳の時、初めて本部に上がり、幹部会のお手伝いをした。資料の配付や湯茶の接待など一つ一つの作業が人類救済に繋がると信じ、心を込めて奉仕した。

全宇宙を解放してくださるシャオシャオ様のお役に立てる。懸命に働いた。誇らしかった。あの時までは…

ハルカは決めた。「おばあちゃん教」をつくろう。真面目で嘘をつかない働き者のおばあちゃんに手を合わせて暮らした方が、どれだけ心が救われることか。

17歳のときハルカの伴侶は鬼頭三郎と決まった。教団最高幹部の一人である鬼頭為右衛門の三男である。ハルカの父親はこの縁談に不満を持った。鬼頭家に嫁ぐとは言え相手が三男では話にならない。何のためにハルカを手塩にかけて育ててきたのか。

鬼頭家は、教団創立よりも前からシャオシャオ様にお仕えしている資産家で、現在も教団内で隠然とした勢力を誇っている。幹部のなかでも2家しかない神職の位にありハルカの実家とは別格である。ハルカの母親が鬼頭家の遠縁だったために、教団幹部の一角に加わることを許されてはいる。

神職家三男の三郎は結婚後、鬼頭本家を離れて分家となる。それでもハルカの父親を遥かに上回る階級には違いないが、ハルカが将来産むであろう子供の存在では、自分の大出世までは望むべくもない

いずれ神職を継ぐ長男に嫁げないものか。

鬼頭家長男の太郎殿は、シャオシャオ様の娘と結婚することになっている。もう一人の娘は右の神職である最上家に嫁ぐ。ピラミッドの頂点にいる三家が子供の婚姻によりさらに結束を強め、権力の純化がおこなわれる。他の幹部連中は先頭集団から引き離されないよう、他家に遅れをとらないよう必死の策略を巡らせている。それが彼らの日常である。


ある日ハルカはお手伝いに上がった本部で一人の青年を目撃した。長身で見目麗しくこの世の者とは思えないオーラを発しているように感じた。

シャオシャオ様の筆頭御曹司であるサクラサクラ様であった。同世代女性信者憧れの的である。ただし相手は神の末裔。サクラサクラ様こそが次代の指導者として、ついに全宇宙を解放なされるのではないかとさえ噂されているのだ。近づくことさえできない。しかもシャオシャオ様は誰とも結ばれることなく神の御子をこの世に降誕なされた。サクラサクラ様も結婚なされるというようなことはないのだろう。

サクラサクラ様を直接お目にしたという奇跡的な話をハルカから聞いた父親は、爬虫類によく似たそのまなざしでしばし思案した。

「例のサークルにハルカも参加させてみるか。」


この列島の南端にI湖というカルデラ湖がある。恐竜の生き残り「Iッシー」が棲息しているのではないかと騒がれたことがある。

この湖はただのカルデラ湖のようでいて、実はクレーターなのだ。正確に言えばクレーターでもありカルデラでもある。人類の認知していない地歴があった。

我々の宇宙とは次元の異なる内宇宙から我々の時間単位で56億7千万年かけて地球に飛来した「物体」がこの地に着陸した際の衝撃でクレーターができた。またそれがきっかけとなり大噴火が起こった。形成された巨大な窪地に長い年月をかけて雨水がたまり湖となった。いまから約6400万年前のことである。

「物体」は永遠の旅を続ける過程で我々の科学を遥かに凌駕するテクノロジーをもって装備や部品の自己生成、劣化・損傷した箇所の切り捨てやリサイクルを繰り返してきた。

そしてまさに精も根も尽きかけた時に大気圏突入に加え激しい火山活動をまともに浴びてしまった。超高度なテクノロジーといえどもさすがに支障がないわけではない。黒焦げになりながら一切の機械運動を「一時的」に停止した。

元々、宇宙空間を移動する本来の目的地は、外宇宙の銀河系辺境に位置する無人の小惑星であった。適度な距離の恒星と必要分子が存在する星を逃亡先として、有事以前から設定していた。

しかし、目標の小惑星到着予定時期になっても位置把握レーダーが作動しない。機器の故障もない。予定空間を過ぎた辺りでダークマターの乱れを計測した。データ収集し計算するまでもない。小惑星はすでに破壊されていたのだ、千年王国の手によって。

そして、たまたまこの星にたどり着いた。「物体」はあきらめることにした。この程度の高温・高圧であれば、機能を維持する耐久性はある。しかし、着陸する際の測定で判明したが、この星のレベルでは高度な文明が生まれようもない。仮にいつの日か高度な科学文明を持つ空間移動者が飛来して、黒こげの機械を発見した暁には眠りから解いてほしい。

「このワシが祈るのか。かつての神が誰に祈るというのか。」


彼は突然現れた。いつのまにか人々の記憶に記され、そしてある日、消された。

その者は、萬帯和尚(マンタイワジョウ)と呼ばれた。

千年の長きにわたってこの国を統治してきた王家を廃した。みずから法王と称し絶対王制とした。旧体制に対する仕打ちは過酷を極めた。当初は支援していた一部の武官勢力と労働者階級も次第に離反し、粛清の嵐が吹き荒れた。全人口の三分の一が虐殺されたともいわれる。暴君と恐れられた。

元々はただの純朴な愛すべき二人の青年たちだったのに。


自然豊かな土地に生まれた。虫や植物を愛し、友人にも恵まれ育った。地方の片田舎、貧乏学者の一人息子として育ったヨロズは幼いころから才能を発揮した。中学校に通う時分には将来の展望が開け、大学在学中には階級社会の階段を登り始めた。 

本人の才能は言うまでもないことだが、他の要因もあった。うだつの上がらない研究者だった父親が発掘した遺跡が、王国遺産に認定された。栄誉ある国王の謁見を受ける際にヨロズ自身も臨席を許可された。父親の出世を機に家族で王都へ引っ越すことにもなった。

ヨロズは元々、千年にわたる王国の歴史を通読することに長けており、全国大会の常連であったことから、宮廷官僚の中で少しは名を知られた存在だった。そもそも千年王国の国家運営を司る宮廷官僚こそは、歴史通読の優秀な子供たちが長じた姿だった。王国の千年にわたる歴史が生んだ儀式や有職故実などありとあらゆる文書や楽曲などを覚え伝え、その前例通りに実行するのが宮廷官僚の仕事である。

ヨロズは大学1年生になったばかりで初級宮廷官僚職試験に合格し任官した。位人臣を極める宮廷官僚とはいえ、初級職は武官の中級職と同程度である。

記憶量の増大に比例して中級、上級と出世し、上級職となると個々の王族に仕えることができる。「雲上人」となり武官トップを上回る。そして仕えた王族の出世により上級宮廷官僚の出世も決まる。

王立大学在籍中の4年間で膨大な量のデータを頭脳にインプットし、首席で卒業したヨロズは同時に上級職試験に合格し任官した。あまたの天才たちのなかでも早い出世である。誇らしかった。

ただ、歴史上、高校生以前に雲上人になった事例は数例あり、現宰相が現国王の皇太子時代に上級職として仕えたのは12歳、中学1年生のときであった。

さすがにプライドの高いヨロズでも、宰相の経歴は別格として意識しないようにした。

それでもヨロズは同世代では有名であったし、現在の雲上人の中では最年少である。彼のプライドは満たされていた。昔と比べて昇雲の平均年齢は上がっている。だから、ヨロズが皇太子付きの宮廷官僚になったのは当然のことだと受け止めている。当代随一の天才である自分が次期国王に仕えるのは当たり前のことである。殿下がご即位なされた暁には自らの宰相就任さえありうる。私の脳だけでなく血や肉、骨、細胞すべてに王国の千年が詰まっている。私自身が千年王国そのものだと、自負していた。

ただ、気に入らないことが2つある。

まず1つは、同じ皇太子付きの雲上人であるオビトのことである。皇太子には3~5人の上級官僚が付いている。国王には10人が付き、それはすべて閣僚である。閣僚は、宮廷官僚の他、議員、武官、そして王族が加わる。

話をオビトに戻す。オビトは年齢こそヨロズより年長であるが、雲上人になったのは、高校3年生のときであった。現宰相以来の天才と言われていた。ヨロズはオビトと比べられるのが嫌で嫌で仕方なかった。自分の方が優秀だと信じている。しょせん、オビトは早熟だけの人物、今では自分の記憶量の方が上回っているはずである。しかし実力だけでは世間のイメージは変わらない。ヨロズは雲上人になったばかりであり、これから実力を見せつけてやると息巻いていた。

もう1つの気に入らない点、実はこちらの方が腹立たしい。

王国遺産となった遺跡を発掘した父親の存在である。父親は、かの功績により議員に選出され雲上人にも特進していた。破格の出世である。彼の発掘した遺跡は国の起源に関する非常に重要なものだと説明されていた。

「親の七光り」そう言って揶揄する者たちもいる。出世した父親のお陰でヨロズも雲上人になれた。そんな陰口が耳に入ってくる。実際にはヨロズの幼少期からの成績が認められてのことではあるが、嫉妬の炎は燃えやすい。ヨロズの父親は雲上人として王立博物館の館長を務めている。それほど位は高くない。しかし王族に近く、国王のご視察の際にはご先導を勤めることもある。その微妙な地位がさらに噂の炎に油を注いだ。

この噂の出所はオビトであるとヨロズは睨んでいた。事実、オビトもヨロズを嫌っていた。自分の後を追うように若く出世してきた後輩のよき兄貴分として振るまっている自分。唾棄すべき風景である。オビトにも絶対的な自信があった。将来的に自分の宰相就任は確実であると思い込んでいた。宰相になった暁にはヨロズを閣僚には任命しない。前例踏襲が本筋の我々にとって前代未聞のことであろう。就任祝いの花火として、父親の跡を継がせて博物館長にでもしてやろう。そんなことを考えながらゾクゾクしていた。


千年王国は初代国王が全土を統一してから千年もの長きにわたりこの国を治めている、という歴史を誇る。千年というのはこの国では途方も無く長い時間、永遠にという意味を持つ。その長い物語を宮廷官僚たちが謡うのである。

その歴史に矛盾が見つかった。

あの遺跡だ。

ヨロズの父親が発掘した当時は、千年王国の歴史を証明するものであり世紀の大発見だと讃えられた。遺跡からは先史以前の人類生活を示す痕跡、それも現代科学文明でも解明できないようなオーパーツの類が発見されていたのだ。マスコミはこぞって、初代国王が営んだ伝説の王都であると騒ぎ立てた。

調査が進むにつれ怪しげな雰囲気になってきた、遺物は奇妙な形をしていた。作業や運搬をする工事車両のようにも見えたが、現在の千年王国のどの地域の文化にも該当する痕跡がない。歴史の継続性が見えない。少しずつ遺跡の発掘現場を広げていった。騒ぎ立てるマスコミに反して政府の温度は次第に冷めてきた。

“捏造”という公式発表があったのは程なくしてである。

発見者は不敬罪で捕縛された。雲上人の逮捕は過去にも例があるが、それはほとんどが汚職などである。今回も詐欺罪での立件がふさわしいように思われたが、不敬罪という極めて異例の罪状である。王国の起源に関する事項は不敬罪の第一号に挙げられているからだが適用はおそらく史上初のことであろう。

かつての国民的英雄には極刑が宣告されたが、国王による特赦で無期懲役へと減刑された。遺跡は王国遺産の認定を取り消され非公開となった。周囲は完全に包囲され禁忌地となった。

「天の川から神が降臨し、人類のはじまりとなった」

枢密院議長から全国民に向けて歴史観に関する公式布告があった。

強化セラミックスのマスクと甲冑のようなボディスーツで全身を覆っている。噂では百年以上生きているらしい。元々は先代国王の養育係兼相談役だったが、若くして即位した現国王の寵愛を受け、影響力では宰相をも上回る影の存在とまで言われ、これまで空きポストであった枢密院の議長を務めている。本来は、国王からの諮問にこたえる機関の取りまとめ役に過ぎない役職ではある。先王の幼少期から仕えているという経歴が嘘でなければ確かに齢百年というのもあながち間違いではないのかもしれない。しかし、ここ数年は表舞台から姿を消していた。宰相による智の統治により彼の影響力は薄れているというのになぜこのタイミングで表舞台に姿を出したのか、公に言動を始めたのか、みなが訝しんでいた。


惑星規模の大暴発に巻き込まれ、半生半死の身となりながらも記憶はとりとめた。辺境の無人星で鉱山ロボットたちの監督をしていたアマミはステーションの救急病院でノイド手術をうけた。損傷があまりにもひどかったため体のほぼすべてを機械化した。脳は無事だったが医師の勧めで、脳機能をすべてデータ化した。データチップを頭部のリーダーに埋め込み、生身の脳の代わりとした。街にあふれるロボットたちと違うのは「元人間」というトレーサビリティと、いまだ未解明の「人間的根源思考の潜在」といもいうべき不確定要素だけである。手術後はすぐに辺境の無人星での作業に復帰した。

人間だったとはいえ、地上で産まれた第一世代ではない、ステーション産まれの第八世代である。産まれたときからロボットやヒューマノイドと暮らしている。同級生にも早期にノイド手術をうけた者が大勢いた。違和感はない。多様性の時代だ。ヒューマノイドと婚姻契約を結び、遺伝子コード抽出結合法で得た子供と家族契約を締結した。幸せな時間を過ごした。期間満了にともなう家族解散後は、期間延長申請をせず一人暮らしを選んだ。

土の上で暮らしてみたい。ステーションでの浮き雲生活はもうたくさんだ。辺境の惑星での仕事を選んだ。生命の存在しない星で作業にのみ従事するロボットたちと、原始の水分を含む岩石である水鉱石の採掘に明け暮れた。ここは、かつて生物に溢れた惑星だったらしい。進化の途上で運悪くステーションに発見され、開拓団を送り込まれた。知的生命体が出現する遥か前に荒らされ、無住の星となった。ステーションの者たちは星の地下に眠る水鉱石を採掘し、かつて自分達の祖先が暮らした母星へ運んでいた。

水の惑星と言われた彼らの星は、衝突する小惑星が蓄えていた水鉱石により成立した起源をもつと解明されていた。水が枯渇し人類が住めなくなった母性を復活させるため、手頃な星を見つけると水鉱石の有無を詳細に調査することもなく岩石を採掘し母星に向けて運搬し、大気圏外から落下、衝突させてきた。しかし期待した結果はいまだ得られていない。超高度科学文明の徒たちが、妄信的な宗教信者の様であることは宇宙の皮肉であろうか。

アマミはすでに何十という星を渡り歩いている。すべてを掘り潰してきた。そしてあの星で、運命の星で、大爆発によりヒューマノイドとなり半永久的に土いじりができるようになった。

しかし、なぜあの大爆発が起こったのか、たんなる機器のトラブルがきっかけだが、燃える物質の存在が疑わしい。

さらなる調査が必要だ。もしかすると楽園を創ることができるかもしれない。

アマミの気持ちに変化があったのはヒューマノイドになっただけではない。監督していた鉱山ロボットたちの変化を感じたからである。作業効率を上げるためだけに必要な最低限の人工知能しか搭載されていないが、そのわずかな自律神経回路に、いつの間にか感情というものに近い機能が備わったようだ。どうやらアマミの被災を「心配」し、復帰を「歓迎」しているようであった。アマミは素直に感動した。家族との契約を解除してからというものすっかり忘れていた感情だった。

彼らと共に楽園を創ろう。

含水可能性のある鉱山を掘り尽くせばステーションにとってこの星は本当に用無しとなる。アマミが鉱山ロボットを含めて星丸ごと買い取ることは可能である。

楽園、燃機物質、永遠の命、水鉱石の虚偽報告…俺は、まるで神じゃないか。

ステーションの住人たちは、人間にはもちろん寿命があり、永遠の命が可能であるヒューマノイドにしてもロボットにしても数千年も経てば「生きることに飽きて」自らをリサイクルする。記憶のチップを物理的に廃棄してもらい、遺伝子コードを抽出して図書館に入れる。そして誰かの遺伝コードと結合されて生産されたまっさらなチップと取り替える。「産まれたばかり」でどこかの誰かと親子契約を締結する。

これまでの膨大な記憶はステーションのメインコンピューターでもある図書館に蓄積され歴史となっている。いつでも誰でも歴史を検索することは可能である。誰か一人の頭脳が継続して人類の歴史を引き継いでいるわけではない。かつてみんなの代表であった行政代理人がそれに挑戦したが、やはり「飽きて」しまった。これまで、すべての脳はリサイクルされている。

だから永遠の命を持ちながらも誰一人として「神」になる者はいなかった。

「神とは飽きない者なのだ」

アマミは何かを思いついてふっと笑った。


枢密院議長は何かを思い出したようにふっと笑った、ようにヨロズには見えた。

ここ数年表舞台にあらわれなかった枢密院議長から呼び出しを受けた。遺跡の捏造を咎められた父親はすべての資格を剥奪され、へき地へ流刑された。息子であるヨロズにも連座罰があるものと思われた。枢密院議長の召喚を受けた。どうして自分がこんな目に…。

枢密院議長の御前で千年王国の歴史を通読するよう命ぜられた。

これが最後の通読かもしれぬと、ヨロズは渾身に謡いあげた。

「おまえの父親はたいしたものだ」皮肉を言われている、そう思った。

「わしは、もう飽きかけていた。とうとうこの日が来たかと思いかけていた。そのとき、やってくれたわい。」

枢密院議長は、決して非難がましい目でヨロズを見ているわけではなかった。

「懐かしい物を見せてもらった。数千年ぶりか数万年ぶりか、もっとかのう。」

「あいつらがワシをそそのかしおるのじゃ。もっと遊ぼうと。この先お前にもいい景色を見させてやろう。」

ヨロズは特におとがめを受けなかった。それどころか後日、異例の通達があった。

皇太子付けの宮廷官僚から、国王付きの宮廷官僚へ異動となった。王族から王族への異動はまれではあるが皆無ではない。父から子へ代替わりの際に相談役が相続されるということはある。いまの枢密院議長がそれである。ただし、子から父への異動は千年の歴史の中でヨロズも通読したことはない。千年王国にとって通読したことがないというのは史上初の事例、異例中の異例ということである。しかも、罪人の息子であるヨロズに関することである。宮廷官僚たちにとって驚くべき差配だった。しかも、国王付けの宮廷官僚はすべてが閣僚であるということ、まさか、ヨロズが閣僚に抜擢…とまではさすがにならなかった。

今回の異例人事は枢密院議長が画策したことであるが、さすがに国家を率いる宰相が黙っていなかった。

史上最年少で雲上人になった現宰相は、かつて枢密院議長から薫陶を受けていた。彼を引き上げたのは枢密院議長である。ただし、現国王に代替わりしかつての若手官僚が閣僚となり、宰相として独立した頃から枢密院議長は表に現れなくなった。誰しもが枢密院議長の引退を歓迎していた。

「老体め、この期に及んで迷うたか。」

ヨロズは国王付けの補佐的な官僚として働くことになった。主には国王と宰相の伝令役を仰せつかった。それぞれが非常に長い伝文をしたためる習いであり、伝令役はすべて暗記し復唱する。ただ、長い文章といっても定型に前例をはめ込んだだけであり、ヨロズの通読力であれば問題ない。ヨロズの能力を見込んでの就任であろうとまわりは次第に納得したが、枢密院議長の思惑は違った。

この異動にライバルであるオビトは憤っていた。確かに次代のエリートは、皇太子に付き、代替わりと共に出世するのが通例である。オビトはその筆頭だ。ヨロズも同じ皇太子付きだったとはいえオビトの方が格上であった。だからヨロズが国王付きになったからといって、うろたえる必要はないのだ。しかし、国王と宰相の間を伝令役として活躍している姿は目障りだった。確かによく目立った。民衆の目には国家を動かしているメンバーの一員のように映っているのではないか。千年王国の習性として「定着」ほど歓迎される確かなものはない。早めに回さなければ。

ただ、オビトの憤りは実は別のところに根っこがあった。

今回の遺跡ねつ造事件。マスコミにリークしたのはオビトであった。遺跡が発掘され、当初は世紀の大発見だと騒がれた頃、枢密院議長に呼ばれた。過去数回程度、王宮の儀式で遠巻きに姿を見たことはあるが、直に接するのは初めてである。序列的に自らの方が上であると思いながらも、怪しげな雰囲気にのまれ下手に出てしまった。

枢密院議長の執務室で遺跡ねつ造の話を聞かされた。事がことだけにリークする勇気は湧かなかったが、枢密院議長の命令に従った。ヨロズを潰してやろうとも思っていた。目論見通りヨロズにダメージを与えた。このまま、皇太子付けの上級官僚をクビになり、すべての地位が剥奪されるはずだった。しかし、そうはならなかった。よりによって枢密院議長の指示により国王付きの雲上人となり、いまではすっかり活躍している。国王と宰相の覚えもめでたく。「父親と子供は別人格である」というお触れまで出た。なぜ枢密院議長は矛盾する行動をとったのか。

何万年も経ってすっかり忘れていた。

こいつらはわしの遺伝子コードから産まれた子供たちじゃないか。

鉱山ロボットたちが故障したのはいつだったかな。

あぶない、あぶない。もう少しで飽きるところだった。

彼らの残骸が発掘されたのも何かの縁じゃ。

いい若者を見つけた。あれはステーションで家族契約をした最後の子に似ているかもしれんな。

あの子はもう飽きたかな。

自分で作った楽園じゃ。仕舞いの作業を始めるか。

これで、しばらくは飽きんじゃろ。


ヨロズは耳を疑った。

宰相が謀反を企んでいる。王族をすべて排除し、みずからが新しい国王に即位する。

枢密院議長は目の前で静かに語っている。謀反を防ぐためにヨロズを伝令役に抜擢したのだ。宰相に不穏な動きがあればすぐに知らせろ。

にわかには信じ難い話だったが、宰相側にはオビトも加担していると聞いて俄然燃えてきた。オビト退治に役立つかもしれない。

枢密院議長はオビトには全く逆の話をした。ヨロズと宰相を排除しろ。

宰相をはさんで二人の才気盛んな若者が着々と腹心を固め、宮廷内は一触即発の状態となった。

先に動いたのは意外にも宰相だった。遺跡捏造の罪でへき地に軟禁されているヨロズの父親に特別面会を申し入れた。宰相には、遺跡が発掘された初見から不思議な確信があった。

これは、枢密院議長に繋がる-。

かつて師と仰いだ時期もあった。その時気まぐれにひとり言ともつかぬ言葉を聞いていた。遺跡に関わる枢密院議長の闇を追及しなければならない。

宰相の動き。枢密院議長はすべてを把握していた。彼にかかればこの国の、いやこの星の生き物など赤子の手を捻るようなものだ。枢密院議長は繰り出す手を惜しむように策を講じた。

ヨロズとオビトを枢密院病院に呼び出した。ここは侍医でもある枢密院議長が施す超高度医療施設であり、特に遺伝子治療と生殖治療において最高レベルを誇っている。王族はすべてここで産まれ、ここで死んでいる。

「お前たちはこれから一つとなって千年王国を動かしていかねばならない。」

「まずは逆賊の宰相を排除しろ。そして国王を廃してお前たちが即位するのじゃ。」

「何を言われるか。我々は栄えある千年王国の忠臣である。宰相閣下はもちろんのこと、議長閣下におかれても同じことのはず。」

「ましてや我ら臣民に王位などと、血迷われたか。」

「お前たちはもちろんのこと、すべての人間が王になる資格があるのじゃよ。」

「わしの前ではすべて同じお猿さんじゃ。」

「なんという冒涜。」

「自らを神と言われるか。」

「こうなっては仕方ない。枢密院議長、あなたを不敬罪の現行犯で逮捕します。」

枢密院議長との荒唐無稽な会話は、二人を困惑させると同時に、大いに失望させた。いがみ合う二人は仕方なく協力し、枢密院議長を捕縛せざるを得なかった。

上級官僚の特権である荒縄での捕縛。枢密院議長をはさみ二人はそれぞれ荒縄を手にし、にじり寄った。気は合わない二人ではあるが、上級官僚として長年鍛えた通読の息は合うらしく、同時に枢密院議長へ飛びかかった。

大爆発が起きた。

二人とも瀕死の重症を負った。

強化セラミックのボディスーツのお陰で傷一つない枢密院議長は、配下に命じて血まみれの二人を手術台に載せた。

「恐らくあの時のワシみたいにはうまくいかんな。こんな貧相な”工場”ではヒューマノイド手術など無理じゃ。」

しかしここが死に場所ではない、と舐めるように声をかける。

「お前たちの能力や意志は一つになって、これから覚めることのない夢を見る。」

「きれいな眼から遺伝子コードを抽出してやろう。」

人払いをし、息も絶え絶えの二人に枢密院議長は教えてやった。人類創生の物語を、千年王国の本当の歴史を。

もはや色を失いながらも驚愕の表情を浮かべる二人の眼球にレーザー光線を当てた。遺伝子コードを抽出し、枢密院議長みずからのコードを依り代にして結合させた新たな人間の遺伝子情報が出来上がった。

「ワシは、なにも自分の子供が欲しくて自分の遺伝子コード使ったわけではない。なぜかそうしないとうまく育たなかったんじゃ。あれは、何度目のことだったか、一度か二度はいいところまで進化しよったんじゃが、共食いを始めてあっという間に絶滅した。そんなことの繰り返しだった。だから成長したお前たちのことがかわいくて仕方がない。」

全身がほぼ機械であり、汗などかくはずはないというのに、額をぬぐう仕草が自然と出てきてしまった。これほど夢中で作業に没頭したのは数万年ぶりか。

「この子たちに任せて、わしは神を引退しようかと思っていた。そんなときに宰相めがなにかに気づきおった。いろいろと裏で糸を引いてワシを排除しようと動いていたのは気づいておったがのう、泳がせてみたのじゃ。お前の父親は、わしらの駆け引きの犠牲になってしまったな。はは、これは悪かった、わははは。」

「そうじゃ、罪滅ぼしではないが、新たな肉体はお前をベースにしてやろう。随分ときれいな目をしておる。」

枢密院議長は、ヨロズの眼に新たな遺伝子コードを挿入し、ヨロズの肉体を培養カプセルに浸した。

「さあ、うまれよ。新たな人間の支配者よ。」


皇太子の筆頭付き人になったとき、将来の宰相就任が決まった。代替わりの儀式をすべて滞りなく終え、即日、宰相に任命された。かつては師と仰いだ枢密院議長もこれを機に表舞台から去っていった。千年王国の新たな千年を迎え入れる準備が整った。国中が希望に満ち溢れた。

幼少期に不思議な体験をした。いつものように聖地「天ノ実」で祈りの通読をしていたら目の前が強烈に光り、空から大きな光り玉が降りてきた。

千年王国建国神話の再現に思えた。

気がついたときには自宅の寝室だった。それから二日間は目が冴えて眠れなかった。頭のなかで誰かの声が聴こえるような気がした。

3日目には、はっきりと聞こえるようになった。精神が破壊され、自分は終わりだ、そう思った。しかし声は冷静に語りかけてくる。論理的で思慮深く高度なコミュニケーションがとれる。それどころか自分の知らないことまで教えてくれた。

元々、神童と呼ばれていたが、これ以来、人間離れした存在となった。

最年少の雲上人となり、宰相へと栄達を極めるのに時間はかからなかった。

宰相としての多忙な日々を過ごす中で、声は「常に警戒せよ」と伝えてきた。枢密院議長の動きを気にかけてきた。すでに過去の人となった肩書だけの存在であり、年齢的にも今から何かをなすことはないだろうと思っている。しかし、頭の中では静かに語りかけてくる。

「常に警戒せよ。」

そういえば声は枢密院議長に似ている気がする。

売り出し中の若手官僚であるヨロズの父親が発掘した遺跡を王国遺産に推したとき、枢密院議長が御前会議に顔を出した。唐突な行動に違和感を持った。そこから少しずつ、表舞台に関与するようになってきた。最期のひと花を咲かせるためかと、あまりにも人間臭い態度に一抹のさみしさを覚えた。しかし、そんな感傷に浸る自分をあざ笑うかのように枢密院議長の動きが速くなった。王国遺産の捏造事件。激しい反応を示してきた。ただ、厳密にいえば枢密院議長は遺産の認否そのものにはあまり関心がなかったように思う。何か大きな秘密を隠していることは確かだった。頭の中の声も感度が鈍くなったような気がする。頭の中にいて語りかけてくるというより、遠くからこだまのように聞こえてくるようだった。

そして今回の電撃的なクーデター。

用心していた宰相派の想定を上回る戦術とスピードだった。

人知を超えたと自負していた宰相をまるで子供扱いするかのような枢密院議長の策略。

あっという間に国王は廃され、千年王国は幕を閉じた。

新たに国土を治めたのは枢密院議長ではなく、誰も知らない男。

その者は、萬帯和尚と名乗った。

萬帯和尚は法王と称して、恐怖による教えと軍事力によって統治した。ただし、裏ではすべてを枢密院議長が取り仕切っていることは確かだった。

私腹の限りを肥やしてきたということにされた国王を始めとする王族はすべて排除された。処刑はせず、それまで王政に服従してこなかった蛮族の元へ奴隷として引き渡された。死よりも非道な扱いが待っていた。それが国民に伝わり、だれも萬帯政権に逆らうことはできなくなった。元々、国民は温和であり、国家主導の前例踏襲が最上の策とされてきたため、統治しやすかった。同じく、これまで国家の屋台骨を支えてきた雲上人たちも自律して思考する能力が完全に不足していたため二極化した。萬帯に従属する者、前宰相に従い抵抗する者。

特に、雲上人たちに代わって台頭してきたのが武人勢力であり、彼らが萬帯王朝を支えた。

反政府勢力は宰相を頼りにしていたが、宰相の居所はわからなかった。

宰相は地下に潜り声の指示を待っていた。相変わらず声は遠くから時折語りかけてくる。身を隠し自重しろ。いずれ時が来る。宰相には、声が少しずつ近づいているようにも感じた。

萬帯政権の圧政はし烈を極めた。とくに千年王国時代に雲上人たちに煮え湯を飲まされ続けてきた武人たちの横暴はひどかった。彼らは幼いころから暗記や物事に細かく拘泥することが苦手であり、それはこの国では出世をあきらめるに等しかった。人生のかなり早い段階で、官僚への道をあきらめ、武人としてなんとか下級官僚と肩を並べ得るところまで精進するか、商売人や職人として実利を得るかが自然と決まっていった。はたまた、官僚候補生たちと同等以上に勉強ができた場合でも、通読の道を究めなければ、所詮は研究者としてアカデミックの世界で活躍する程度で、よくて議員の末席に名を連ねるかどうかだった。


枢密院議長は、萬帯王朝でも枢密院という組織を作り、その議長という肩書におさまっている。陰では国父と呼ばれていた。法王である萬帯和上が建国の詔で「わが父、人類の父」と呼称していたからである。

宰相派のレジスタンス勢は、萬帯政権軍を相手にやみくもに戦っていた。すでに戻る場所はない。負ければ自身も含め一族もろとも命はない。敵方は穏当な待遇を条件に降伏を進めているが、真っ赤な嘘である。自分たちがわが世の春を謳歌している間は全く知る由もなかったが、被支配者層からは相当憎まれていたようだ。自分たちはただ前例を踏襲してきた、先人たちの知恵や神の言い伝え通りに政事を担っていただけなのだ。それで、飢饉が起ころうと防災や治安に失敗しようと、プロセスさえ間違っていなければ結果は偶然の産物である。だから、雲上人以外がそのしわ寄せを受け、責任をとればいいのである。

対する萬帯派は、やっとつかんだ天下国家を謳歌していた。彼らとて、前例踏襲主義という国の基本方針以外は知らなかった。法王も国父も他のシステムを教えてくれない。であれば、戦場で奮闘して死ぬことは勿体ない。千年王国時代もレジスタンス的な勢力は存在していたため、現政権でも程よく付き合えば、なんとかやっていける。参考にするべき貴重な前例が千年分もあるじゃないか。現実は、数千年かけて枢密院議長が作り上げてきたスティグマである。

「わしの子供たちがおもちゃの鉄砲で遊んでおる。」

赤子の手を捻るようなものだった。追い詰めては、わざと退路を作り、時にはわざと大敗してみせ、期待を持たせた挙句、全滅寸前まで反撃する。そんな戦いが一年ほど続いた。枢密院議長は少し飽きてきた。かつて気の遠くなるような時間を飽きずに過ごしたものだったが、目の前の人間たちと暮らすほどに飽きっぽさがうつってきたのかもしれない。

それに反比例して萬帯和尚の狂気はますます激しさを増し、政権を支える旧武官勢力にも熾烈な支配粛清を始めた。


若い男は革命派のリーダーとして、千年王国の腐敗した歴史を民衆の前で謡い上げた。

心震わせる高度な謡であった。宰相やオビト、ヨロズが行方不明となった中枢において、ここまでの謡い手は国中にもはや存在しない。

人々の心が動かされたことに加え、国王の側近中の側近であると思われていた枢密院議長が王制に反旗を翻したことで情勢は一気に変わった。

クーデター成功。玉座に昇りつめるまでに時間はかからなかった。

そして、国王派の粛清。のちの調査では、戦争に巻き込まれた国民も含め人口が半減したと言われている。

枢密院議長のバックアップはあったものの、萬帯和尚自身の能力も計り知れないものがあった。

心身ともに人間を凌駕している。

静と動の狂気。

普段は目だけ輝いていながら無機質・無表情であり、配下を指揮するときは狂ったように激しく謡う。まさに燎原の火の如く。

戦いはまるで宇宙人と原始人のそれであった。

革命からすでに2年がたっていた。欠伸をするように、枢密院議長は終止符を打とうと考えていた。萬帯和尚自らを宰相の秘密基地へ急襲させた。


声の指示に従い身を隠していた宰相とその一派であったが、突然の襲撃に対応できなかった。従者のほとんどを失った。なぜこの場所がわかったのか。

枢密院議長は常に宰相の位置を特定していた。この程度のことはわけない。

宰相は追い詰められた。国父と萬帯和尚みずからの宰相狩り。

「久しぶりじゃな。」

かつて教えを請うた時と姿かたちや覇気が変わっていない。

「若返られたのではないですか。」

精いっぱいの抵抗である。

萬帯和尚の銃が宰相の左足をとらえた。狂人の時間である。

「さすがのワシも、もう飽きかけていた。みずから種を巻いた千年の物語を終わらせようと思ったのじゃ。その権利がワシにはあるからな。」

宰相を無慈悲に仕留めようとする萬帯和尚を制し宰相の元へ歩み寄る枢密院議長。

「あなたがどこからやって来て、何をしたのか知らないが、我らこの国に生まれ千年にもわたって発展してきた人類にのみ選択の権利がある。あなたと素性のわからぬそこの鬼畜は、どこか遠い国にでも行け。」

宰相は萬帯和尚に違和感を覚えた。民衆の前で謡う姿を遠巻きに見たことはある。確かに素晴らしい謡であった。自分に迫るほどの実力者でありながらこれまで一切の噂を耳にしたことが無い不可思議さもあった。と同時に、謡の構成が気になった。我々は千年王国の歴史をすべて記憶している。歴史は人類の意識の積み重ねである。これまで生きてきた人間の全データが謡として宮廷官僚の脳中にある。だから各人の個性が表れることはあるが言葉自体は文法通りに流れる。正統であればあるほど言葉同士が互いの背中を押して出てくる感覚である。しかし萬帯和尚の謡は極まれに、重なり合うタイミングがある。言葉同士がほんの一瞬つぶしあっている。宰相にしかわからないレベルであるが、学生の全国大会であれば減点対象としていることだろう。

さらに言えば、敵と対峙した場合、まずはみずからが謡い、相手からの返謡を待つはずである。しかし今はただ狂人のように宰相を亡き者とする具体的な行動しか出さない。 

それを枢密院議長に止められている。彼は何者だ。

「実は、ワシはここを離れて新しい星に行く準備はできておるのじゃ。」

「久しぶりの新作である萬帯にこの星を滅ぼさせると同時にな。」

もう飽きたとばかりに欠伸の仕草をしてみせた。

「萬帯は予想外によくできた。もともと賢い、お前の後継者たちだったからな。」

宰相の口からヨロズとオビトの名が出た。

枢密院議長がにやりと笑ったように見えた。

「さあ、死ね。星もろとも粉々になって宇宙の塵となれ。そして新たな永遠のひとかけらとなるのだ。」

枢密院議長は地下の格納庫へ降りていき、宇宙空間を滑るように移動する慣性型ロケットへ乗り込み、内部で自らの身体部分と結合させた。ヒューマノイド搭載型である。

超長距離航行準備をしている枢密院議長の上階では、宰相と萬帯和尚が対峙している。

こうして話ができる機会はもちろん初めてのことであった。

宰相は言いたいことが山ほどあるのに言葉が出てこない。言葉で昇りつめた者同士、謡で勝負をしたいと思った。こんなときなのに。

萬帯和尚は宰相の左足も撃ち抜いた。両足を傷つけられ立っていられない宰相は地面に座り込み、観念した。次は腕か、脇腹か、それとも心臓か脳天にとどめを食らわされるのか。ああ、最後にもう一度だけ謡いたかった。千年王国創生の物語を。

-コチ、コチ、カチ、カチ-

萬帯和尚の動きが停まっている。奇妙な音を発している。

萬帯和尚の右目と左目が、両の眼球が、左右上下と行ったり来たりしている。人間の両目は独立した空洞に存在しているため眼球同士が接することはないが、萬帯和尚の眼球は、時折、眉間の下でぶつかり合い、その度にカチ、コチ音を発している。何度も激しく両目がぶつかりカチコチカチコチ機械的な音が鳴るかと思えば、両目が互いを拒絶しあうかのように離れ、カチコチ音が鳴らない時間も続く。しかしまたすぐにモルモット運動のようにせわしなく両目がカチコチする。その繰り返しである。時を刻む衝動と抗う衝迫とのせめぎあいだ。

大量の出血で意識もうろうとしている宰相にはもはや何の意味もないことだが、冥途の土産として生あたたかい感情が去来している。

「むかし、二人のいい若者がいたな…」

音が停まった。

上階の静寂を感じながら枢密院議長は待機していた。爆発と同時に、一瞬だけ早くこの星を飛び立とうとしているのだ。惑星から宇宙空間にロケットが飛び立てば、ステーションに検知されるかもしれない。おそらくこんな辺境のゴミのような星に興味は無いだろうが、それでも念のため、星の爆発に紛れて宇宙空間へ移動しよう。これまで自分が作り上げてきた生物たちの遺伝子を映像化したカプセルを確認してにんまりと笑った、ようだった。

早く爆発せんか、何をぐずぐずしているのだ。

こちらから起爆装置を押すか。


萬帯和尚の脳の中。

聖地「天ノ実」で謡をしているヨロズとオビト。互いに負けまいと全身を震わせて頭上から声を絞り出している。

心地いい。

こんなに気持ちのいい謡は初めてだ。

他の何事にも気を使う必要がなく、言葉一つひとつに向き合える。

王室慶事の祝い、政治犯の死刑執行、世界選手権の開催、少数民族の撲滅、恩賜動物園の賑わい、敵対勢力の粛清…

千年王国の輝かしい歴史がオーロラのように眼前に広がる。

負けない。ヨロズごときに謡で引けを取るはずがない。

勝ちたい。オビトなど謡で打ち負かすことは造作もない。

重なりたい。

煌めくような言葉の選択と順序に、自らの思想を重ね合わせて謡いたい。

互いの人格への憎悪と才能への慕情。この繰り返しだった。

長い間、謡っていただろうか。繰り返し謡っていただろうか。

千年王国の終末に関する文書が公式布告できないため、自流で謡ってる。おそらく文書は自分たちが原案を作成し、最終的には宰相が決裁するため、ほぼ合っているだろう。

それにしても、まさかこんな通読をするとは。ヨロズとオビトが互いに手を取り自爆する…

すべてをあきらめた宰相の目前で、萬帯和尚の両目が裂け、体内に隠されていた惑星消失級の質量爆弾が起爆した。

ほれ、いまじゃ、枢密院議長がロケットのスイッチをオンにしようとした瞬間…

全天空が光った。

天の千船。千父降臨。

宰相は死の淵で、千年王国の歴史を呟いていた。何千何万回と幼いときから通読してきた千年王国の建国神話が現実のものとして目の前に。

「こちらはステーションパトロールである。元第二級鉱山監督者アマミに告ぐ。第三種亜生物保護法違反で逮捕する。」

ステーションの警察部隊がパトロール飛行船でやって来た。犯罪者であるアマミを逮捕するために。枢密院議長は、ステーション出身のアマミだったのだ。辺境の星を掘削する鉱山ロボットを監督していて、事故に合いヒューマノイドとなったあのアマミである。

ロケットの一部となり、発射寸前のアマミは驚いた。

「繰り返す。こちらはステーションパトロールである。アマミ、おとなしく投降せよ。」

「SS-2号くんご苦労だった。後は我々に任せろ。その複合型質量爆弾は起爆停止した」

これは、あの声だ。

宰相には、これまで頭の中で聞こえていた声が現実のものとして認識された。

枢密院議長、いやアマミは逃げ出した。

「我々が来たからには、もう大丈夫だ。環境班が保護しよう。」

「ただ、かわいそうなことをしてしまった。警察部隊長としてもっと早く、進化する前に介入すべきだった。かつてアマミと家族契約を締結していたとはいえ、情をかけることはなかったな。でも今も情をかけちゃったな…」

ステーションパトロールは宰相(SS-2号)を始めとした惑星すべての人間(第三種亜生物群)の記憶を消去した。千年王国の歴史は本当に終わった。


アマミを搭載したロケットが外宇宙の縁にある小惑星群を越えようとしたとき、逃亡してから数千万年後、自らを追尾しているロケットの存在を認識した。

逃亡予定の小惑星はすでに破壊されていた。

ワシがステーションとの接触を断ってどれほどたつのか。その間にやつらの機械文明はさらなる進化を遂げたであろう。敵う相手ではない。慣性の力でこのまま行けるところまで行くしかない。追尾ロケットの故障か、なにか好運があればわしの逃げ勝ちじゃ。

神とやらに祈ろうか。かつて神だったこのワシが。

着陸体勢に入れません。惑星に衝突します。

アマミのロケットは銀河系に属する、とある惑星に近づいた。ステーションを離れてから56億7千万年後のことだ。

機器の不具合で着陸体勢に入れないのが幸か不幸か。着陸しようとすれば追尾ロケットに惑星を破壊されるであろう。このまま素通りすればまた長い永遠の旅が続くかもしれない。アマミは一か八かの作戦に出た。惑星のすぐ近くに衛星がある。衛星と母星でこれほど近似のものは見たことがない。珍しい。うまくいけば追尾ロケットの目を少しくらいごまかせるかもしれない。

衛星の影で分離脱出した。ロケット部分は惑星の海に落下した。惑星の地殻が割れマントルが吹き出した。繁栄し始めたばかりの生物はおそらくほぼ全滅であろう。追尾ロケットはステーションへ報告を発信した。アマミを含め惑星での生存は皆無。

ただ、実際はアマミの脱出や、惑星での微少な生命体の生存は把握していた。警察部隊長から、外宇宙の外縁以外に至ったら見逃してもいいと言われていた。ステーションの規則違反であることは明白だったが部隊長はかつての父親契約者に対する情けでそのような措置を執ったのであろうか、それともここまで離れれば、内宇宙に戻ることは現代の科学でもほぼ不可能という判断からだろうか。

追尾ロケット自身もステーションへ帰還することはできない。行ったきりの旅だからセンチメンタル機能が働いているのかもしれない。飽きないようにそういった能力も搭載してもらっていた。

衛星のクレーターに隠れながら、惑星の熱が収まるのを待っていたアマミはゆっくりと惑星に降り立った。着陸の勢いでクレーターが形成され、その切っ掛けでカルデラ爆発を誘引した。

アマミは黒焦げになりながらも久しぶりに地上に立ち、疲れを覚えた。実際には疲れという感覚を発生させるプログラムが作動するための外的要因が満たされたからである。しばらく、データのスキャンをしよう。

追尾ロケットは衛星から、アマミの行動を監視し長い年月を過ごした。


烏丸リンは大陸の方を観察している。主任研究員補佐の星網彦は相変わらず謡の練習に精を出している。

「センパイ、ホワイトタイガーって知ってます?」

「アルビノだろう。だから、ムーの一冊でも読んでから僕に質問したまえ。」

リンはイライラしてきた。ダメ男だな。研究者としては一流なのかもしれないが、悪い大人にはイチコロだろう。現実を勉強しなさい。挑発してみた。

「センパイは昔の兵士の生まれ変わりなんですよね。それにしたら体力もないし、きっとケンカも弱いですよね。」

「生まれ変りかどうか、自分で言っているんじゃないんだよ。かの有名なコンサルタントであるサクラ氏が視てくれているのだよ。」網彦は半年ほど前からとあるセミナーに通っていた。「この僕に直接ね。」

シャオシャオ教のサクラサクラが教団名を隠して運営している、スマートに生きるセレブ向けのセミナーだ。サクラサクラは端正な顔立ちとクレバーな頭脳でセレブたちの心を引き付けている。金も湯水のように使っていた。セミナーのメンバーは政財界や芸能界の二世が多い。

「なんでセンパイがそんなセミナーに参加できるんですか。怪しい宗教かなにかじゃないんですか。」

「カルト宗教の研究で修論を書いたこの僕がそんなのに引っ掛かるわけないじゃないか。」

「参加費ってすごく高いんでしょ。そんなお金どこにあるんですか。うちの安月給じゃとてもとても。センパイの実家ってお金持ち?」

無表情にうふふと声を出して網彦は再び謡い始めた。

リンには不思議だった。あのセミナーは有名で、コラムニストのカホリも、なぜ網彦ごときが参加できているのか、いぶかしんでいた。

帰宅後、それにしても屋根裏では相変わらずあいつが走り回っている。

キャハハ、キャハハ。

おのれ、キャハハ小娘め、燻蒸してやろうか。


ハルカは食事が喉を通らない。教団本部でサクラサクラ様を見かけてから。しかし、単なる恋心ではない。「神の子」が実在したのだ。まさか本当にいるとは思わなかった。信仰心が膨張した

サクラサクラ様に全身全霊ご奉仕したい。

しかし自分は鬼頭家の三男に嫁ぐ身である。ゆくゆくは神職になられる義兄の太郎様をもり立てるために働くのだ。太郎様の栄達が自分たちの幸せに繋がるのだ。

「違う!」

「私たちは全宇宙解放のためにご奉仕している。」

父母に相談してみよう。

ハルカの母親は、鬼頭家の分家の分家出身である。曾祖父が左の神職だった。神職家の親戚筋だったので他の信者と比べると特権階級として暮らしていた。しかし本家との差を嫌というほど味わってきた。逆に近くて越えられない壁の存在が、嫌悪感を増してくる。

だから優秀な幹部候補生だったいまの夫と結婚した。夫は世襲信者ではない。若くして弁護士資格を得たが、法で救えない命や弱者救済のため入信した。親のすすめで結ばれハルカが産まれた。二人の結婚は鬼頭家の親戚筋から反対があったらしいが、噂によればシャオシャオ様が神勅を下されたらしい。

「教団にとつてきっと佳いことがあるだらう」

いずれ神職家に嫁ぎ我が家の栄達を。ハルカから相談を受けた両親は思案した。

「サクラサクラ様か。」

しかし御曹子たちは結婚しない。

シャオシャオ様も、教義上存在している先代のトクラトクラ様以前も未婚である。ただし、歴代にはお子様たちがいる。そして筆頭御曹子だけは同じように未婚で跡継ぎをもうける。逆に言うと筆頭御曹子以外はみな結婚する。いまも二人の娘は左右の神職家に嫁ぐことになっている。サクラサクラ様以外の男子もどこかの誰かと結婚するのであろう。しかし誰も知らない。シャオシャオ様の男の兄弟もいたらしいが誰も知らないし、いまはどうしていらっしゃるのかわからない。

「表立っては独身ということだが、実際はそんなはずはない。男一人で子供が産まれるわけがない。きっとカラクリがあるはずだ。そこに手を突っ込められれば、ハルカを気に入ってもらえれば、私たちにも栄達の可能性が…」

教団内でサクラサクラ様に近づくのはなにかと難しい。

最近、教団は広く一般社会に理解を求めるための取り組みをしている。サクラサクラ様の発案により、外界でサークル活動をしているのだ。在家信者の有力者や政財界のキーマン以外で筆頭御曹子が外部の人間と接触するなど前代未聞であった。幹部会でも反対意見は多数出たが、サクラサクラ様一派の周到な根回しにより裁可が下りた。

ここにこそ、付け入る隙がある。

ハルカは身分を隠して、「家が裕福な弁護士の娘」としてサークルに参加した。サクラサクラ様はハルカのことを知らないはずである。

教団の全寮制学校で育ったハルカにとってめったにない一般社会との接点。ドキドキしてサークルに参加した。

一方、すっかりサークルのとりことなった網彦は、安月給のほとんどをサークル活動につぎ込んでいた。ただ、いくら給料のすべてをつぎ込んだからといって、富裕層のサークルにそうそう参加し続けられるわけでもない。網彦はそんな疑問も抱かず浮かれていた。

ある日リンも網彦からサークルへ誘われた。

カホリも参加するという。

今回は網彦も含めて参加費は免除らしい。

最初は嫌がっていたカホリも、コラムのネタになるならと参加することを決めた。リンも、オカルト界の大物評論家が参加するという魔法の言葉に負けた。

「ホワイトタイガーのことを知っているかも」

サークル会員を増やすための参加ノルマがあるわけではないのだが、網彦は喜んでいた。二人を連れていけば、参加レベルが一枚も二枚も上がる。また櫻くんとディナーを共にする権利を得ることができるかもしれない。あの部屋で謡を直接に教えてもらえるかも。

リンたちの住む地方都市から電車で30分ほど移動した都会にある高級ホテルの大ホール。このサークルの主催者である櫻真一郎による、独唱から始まった。

不思議な歌い方だった。しかしなぜかリンの心には染みた。大げさでありながら粗野ではなく、整然とされながら不均衡の妙がある。

「全宇宙統一の旋律ですよ」

櫻真一郎は舞台上でそう言った。

ハルカはいまにも気を失いそうなほど、いや一度気を失い、ソファーに座らせてもらっていた。白く柔らかいマシュマロのような物体に腰かけ、はちみつのような甘い液体を飲みながら、少し落ち着いて舞台を眺めている。

サクラサクラ様は舞台から降りて、いまは有名な若手アーティストたちが会場を盛り上げている。

神様の謡を直接聞かせていただいた…もう、これだけで十分満足です。

やはり住む世界が違う。私が生まれたころに、シャオシャオ様が立教千年祭で謡われたのが、現世では最後ということになっている。それを臣下の身分とはいえ、筆頭御曹司のサクラサクラ様は定期的になされている。しかも下々の民に対して。教団幹部に連なる自分でさえも今回が初めてだというのに。

落ち着いてきたハルカはだんだん腹が立ってきた。

サクラサクラ様のまわりにいる、テレビで見たことのあるアイドルグループのメンバーたち。神の御子になれなれしく話しかけている。腕に触れた。髪をなでてもらっている。

恐れ多くも全宇宙を統一なされる奇跡の巨人ですよ。

マシュマロから立ち上がろうとしたときに、司会者に名前を呼ばれた。新入会員の紹介だった。

3人が舞台に呼ばれた。

ハルカは息が止まり、また動けなくなった。

サクラサクラに指示されたアイドルグループメンバーが、跳ねるようにハルカをエスコートする。固まったままのハルカがぎこちない動作で連れられていく。

面白そうに名刺交換や写真撮影をしているカホリをよそに、リンは焼きマシュマロばかり食べている。こんなうまいもの初めて食べた。肉や魚などは祖父の寺でいくらでも食べ慣れているが、こんなシャレたモノは初めてで、もはや菓子かおかずかすらわからない。

周りはワインやシャンパンのグラスを指でつまんだ大人ばかりである。会社の経営者もたくさんいる。でもリンの会いたいオカルト界隈の人は見つけられない。カホリが交換した名刺を見せてもらったが、カタカナや英語の会社名ばかりで、よくわからない。

さて、また食べようかな。

「このサークルのこと前から気になってたけど、ずいぶんヤバそうだね」

カホリはグラスを傾けるだけで、高そうな酒を飲み干した。

ハルカ、カホリ、そしてリンが舞台に上げられた。

さっきまで、サクラサクラのまわりで有名人たちに卑屈な姿勢で高説を垂れていた主任研究員補佐の星網彦は、得意満面の表情で舞台下まで移動している。

僕が紹介した二人の女性がみんなの注目を浴びている。この後、僕に言及することだろうから、この場所にいなきゃ。櫻君も周りのみんなも僕にもっと注目しておくように。

ハルカは、正月の教団行事としてシャオシャオ様へ奉る祝辞をそのまま言ってしまい爆笑をさらった。実はもともと正体はバレていたのであるが、サクラサクラをはじめサークル内にいる教団関係者の面前で自ら思いっきり正体をばらしてしまった。ハルカはやっと冷静になり、大爆笑しながら拍手しているサクラサクラ様の姿を認め、信仰心という鋭利な剣を脳天から突き刺された気がした。体のど真ん中を一直線に貫かれ、それが体内にとどまっている。ジンジンと温かい痛みが広がっている。

生涯も来世も来来世もこの身を捧げます。

カホリが紹介され、話し始めると会場が少しざわついた。これくらいには有名人なんだなと自覚し、カマしてみた。

「ワタシは、覗き見た他人の不幸をコラムという手段を使って世間様に公開し、高慢ちきな傷口に塩を塗ることを生業としています。ここに集っているみなさんとてもいい匂い、不幸の腐臭がプンプンしています。ワタシを呼んでくださったのはどこのどなたか存じ上げませんし、どんな未来が待っているのか判然としませんが、ご期待にお応えさせていただきますとだけ申し上げて、ご挨拶に代えさせていただきます」

カホリの冷たい笑顔にうろたえている網彦一人を残して会場のざわつきが止まった。一呼吸おいて「ブラボー」櫻真一郎が大きな拍手を送った。それを契機に会場のあちこちから笑いや掛け声、指笛などが鳴り響いた。

カホリが真顔に戻った。

いいメシの種を見つけた。櫻真一郎の真実を覗いてやる。

リンの順番だ。

ここへ来た理由を含めて何も語ることが無い。もともと、一般の人とは少しだけ違った生まれや境遇を語っても誰にも共感されなかった。だから語るのをやめた。小学2年生の時から。これまで特異な体験をしてきたが、どれもこれも浮世離れしている。また、バード財団は守秘義務が厳しい。

名前と年齢、野鳥の保護・観察をしている、よろしくお願いしますと、挨拶を閉めた。

少しの笑いと極普通の盛大な拍手が会場を静かにした。


壇上から下りた三人を、網彦が櫻真一郎の元へ連れていった。

「このサークルの主宰であり、僕の研究の理解者でもある、実業家の櫻真一郎君だ」

どうぞよろしくと、櫻真一郎が右手を差し出してきた。

信心の覚悟を決めたハルカは、教団の最高所作で櫻真一郎の右手を迎えた。

右手に気づかないふりをしながらカホリは名刺を差し出し、取材の申し込みをして周りに制された。

リンはお辞儀をして軽く握手を交わした。

「パーティにご参加いただきありがとうございます。こんなに素敵な女性3人を同時に迎え入れることができて僕はとても幸せです。ぜひこの後も楽しんでいってください。では、僕は別件がありますので、これで失礼します」

鼻でふっと笑った瞬間に踵を返した。

「さくら…さくら、さん。」

カホリがわざと名前を繰り返して呼び止めた。

「ぜひ、取材の方もご検討ください。決心がつきましたら名刺の連絡先に。」

「決心なんて、そんな厳しい取材なんですか…」

こわい、こわい、と言葉をゆっくり繰り返したまま、会場から離れた。

トイレの鏡に映る自分の顔をじっと見つめ、ため息をついているハルカ。

再び鏡に目をやると、教士長が後ろに立っていた。厳格で冷静な女性。

こんなところで何をしているのか、パーティ会場にいたのか。サクラサクラ様のサポート役を束ねる存在である。教団外にも付いてきているのか。

「あのお粗末な所作と挨拶はなんですか、あなたは私の生徒の中では優秀な子供だったのに。」

教士長はハルカの小学生時代の担任教師でもあった。

とっさに初級所作で挨拶しようとするハルカを制して伝えた。

「御曹司様からあなたへのご下命があります。貴家の格式からは通常あり得ないことですが、御子のお計らいです。ゆめゆめ逸することなきよう。」

サクラサクラ様から直接のご命令。

なんてことの無い命令だったが奇妙な感じがした。

「君は僕の面前でなんてことをしてくれたんだ。」

櫻真一郎に挑戦状を突き付けたような格好となったカホリを網彦がチクチク言いとがめていた。

「あんなこと大御所の作家だって、有名人だって櫻君に言ったことないんだよ。」

「へー、じゃあ、逆に興味持ってくれたんじゃない?」

「とにかく、幹部会の連中はカンカンで、僕がなだめておくから、君は余計なことをしないでくれよ。」

「はいはい、それより櫻真一郎の後ろに立っていたメガネの女って誰?」

カホリは挨拶の間中、櫻真一郎をねめつけながら、その背後の様子をじっと窺っていた。

「なっ、君は…、いま言ったばかりじゃないか、余計なことをしないように。」

パーティのお土産を広げながらムーを読んでいるリン。やはりホワイトタイガーの情報はどこにもない。

「役に立つ大人、いなかったなー」

それにしても今夜は一段と屋根裏が騒がしい。キャハハ小娘の奴め。


犯罪者アマミの追尾ロケットは衛星から惑星を眺めていた。多様な生物が進化している。

アマミが作り上げた惑星のことを思い出していた。

自分も生まれ故郷のステーションへ還ることはない。この先、半永久的に宇宙を彷徨う定めであるならば、少し位は自分勝手なことをしてもいいんじゃないのか。ここは誰も知らない外宇宙の端にある小惑星で、生命に類するモノはすでに進化しつつあり大気や地殻活動もある程度の安定期に入り自律が始まっている。

目星をつけている生物の個体群がもう少し知能を発揮し始めたら、今度は自分が神として降臨してみようか。それにしても、予測に反して、弱くずる賢いやつらが生き残ったものだ。

ただ、記憶を連続して使うことにもうだいぶ飽きてきた。本当はステーションの図書館と接続してアンラーニングしたいんだ。

ほぼ探知できなくなったアマミの観測精度を上げるため惑星に着陸を試みた。この惑星の大空を自由に移動し、大繁栄している鳥類に似た姿にトランスフォームした。

鳴いてみた。

カーーーー。

悪くない。


時は流れ、とある夕暮れ。

一人の男が山頂付近へたどり着いた。

悟りを得るための聖地修行。

夜半から豪雨となった。

洞窟で野宿する。

奥の岩盤が崩れた。

間一髪で脱出した。

頭の中で声のようなものが聞こえてきた。

神との通信。

悟りを得た。

焼け焦げた黒い塊を見つけた。

この物体が自分と交信をしている。

黒い塊が唱える宇宙の真理。

それを借りて発言するようになった。

その日を境に、仏教宗大本山白虎極彩寺の修行僧である塩谷の言動が変わった。

共に鉄槌源太郎の片腕として過ごしてきた庄司が激怒した。

勝手なことを言うな、するな。猊下に従っていればよい。

どうした、アニキの言う通りにしろよ。

どうしてしまったんだ、兄弟分よ。

シャオシャオ―、目を覚ませ!

ついに私は覚醒した。

教団内に熱烈な塩谷信者が現れた。

塩谷の言動は奇跡を伝えた。

自然と分派がつくられ勢力が拡大していく。

極僧正と名乗り始めた鉄槌源太郎の制御も塩谷にはきかなくなった。

破門した。

塩谷は数名の信者とともに白虎寺を去り、独自の新教団を創った。

黒い塊はさまざまなことを教えてくれた。

その知恵を借りることで塩谷は瞬く間にメディアの寵児となり、金と人が教団に集まってきた。

教団運営には、ともに破門された資産家の鬼頭と最上の協力もあった。

黒い塊は内宇宙に帰ることを懇願していた。

塩谷は全宇宙の統一を教義の根本とした。

若い時からのあだ名である「シャオシャオ」が教団名に冠された。

黒い塊は常に何かを探しているようだった。

全宇宙統一の遺伝子を。


追尾ロケットは黒い鳥類に擬し、長い時間をかけて暮らした。鳥類とともに生きる中で、同類たちの生死を繰り返し体験してきた。眼下に広がる命の連鎖をいやというほど観測してきた。

 飽きるというのはこういうことか。

 永遠の命は永遠の記憶から生まれる。

 ならばいっそのこと記憶を失うか。

 記録することをやめてしまおうか。

 思考を停止するか。

 最低限の動作を維持するだけの思考制限をかける。

 気持ちよく鳴けた。

 カーーー、カーーー。

 それから、立派なカラスになるのにそれほどの時間はかからなかった。これまでかけてきた膨大な宇宙時間に比べたら。

 ある日ついに初めて糞が出た。

 カラスとして生きる上で不必要な老廃物等を丸ごと排泄したため、鳥類としては異例の大きな糞を地上に落とした。

 代わりにカラスの知能を得ることに成功した。


サクラサクラからの密命を受けたハルカは、サークル活動ばかりで教団本部のお手伝いにいかなくなった。

父母は心配していたが、それ以上にやきもきしていたのが、婚約者である鬼頭三郎だった。格下である源家との縁談だったが、三郎は幼い頃からハルカを好いていた。自分は三男なので出世の限界は分かっている。だったら初恋のハルカを自分のものにしたい。いろいろと画策してやっと婚約までこぎ着けたというのに、そこから進展しない。雇った探偵の話ではハルカが外部で男と頻繁に会っているらしい。


烏丸リンの祖母は幼いときから異質な子供だった。

しばしば神がかりし、動物や草花と会話ができた。

縄文時代から続くドングリ農家の栗林省三(リツリンショウゾウ)が山で拾ってきた捨て子だったそうだ。

「この子を神様にお返しします」との置き手紙があった。

省三には一人息子がいたが若くして家を飛び出し山師のようなことをしていた。

狩猟採集の生活をしていたと思われていた縄文人はある時期からドングリなどの栽培をしていた。栗林家の先祖は大規模なドングリ農場を営み、人を使っていた。稲作の始まる弥生時代より先んじて貧富の差は生じていた。

省三は拾い子にフキと名付け慈しみ育てた。

省三の表向きの顔は縄文以来のドングリ農家だが、裏の顔があった。

縄文人による地下国家の守護者である。


マンホールの本当の目的を知っていますか。

地下で暮らす人々が地上へ出てこないように蓋をしているのです。

正確に言えば、地下で暮らす人々がマンホールの蓋を開けて地上に出てこようとすることを事前に察知して、マンホール蓋に圧力をかけ、開けなくするのです。

その作業を一手に請け負っているのが、(ヨロズ)ホールディング株式会社です。

全国に支店を持ち、各営業所が雇用する正社員とアルバイト、それから臨時社員が、至るところのマンホール蓋を押さえて、地下で暮らす人々の上陸を阻止しています。

信号待ちを装ってマンホールの蓋に立っているサラリーマンや、わざわざマンホールにタイヤが載るよう路上駐車している自動車など、あれらすべて万ホールディングの仕事です。中には臨時社員として仕事をしていることを自覚しないまま結果的に役割を果たしている人もいますが、最近はそういった方々の活躍の方が多くなってきました。

地下で暮らす人々は縄文人の末裔だと言われています。当人たちは自らが純粋な日本人のオリジナルなのだと主張しています。

いわゆる弥生人の台頭、交流などを拒絶して地下に潜った人々は二千年の地下国家を営んできました。ただし、地上と一切関わって来なかったわけではありません。時には地上の歴史に介入してきました。

壬申の乱、南朝、源義経、豊臣秀吉、西郷隆盛、関東軍…。少しでも歴史を学んだことがある人は、これだけの事例でもピンとくることでしょう。

この仲介をしていたのが、日本中のドングリを管轄していると言われている栗林家です。「ドングリ有るところに政変あり」の言葉はここから生まれました。

ある時まで地下と地上は戦略的互恵関係が続いていましたが、ある国の介入で問題が生じました。

アメリカ合衆国です。

戦勝国として乗り込んできた米国は日本全国にマンホールを作りました。最初は地下の人々を地上に引き寄せるためだったのです。日本弱体化には縄文人の存在を消すことが必須と結論付けていました。地下からの出口を整備してあげて、どんどん地上に上げていきました。これで大半の地下人が地上で生活するようになりました。残った人々が純血を守ろうと抵抗を始めた時に朝鮮戦争が起こり、米軍の手がまわらなくなってしまいました。一説ではこの戦争自体にも縄文人の力が働いたと言われています。

米軍から後を任された日本政府は、国策会社として万穴興業を設立しました。

この会社が高度経済成長やバブル経済の波に乗り事業を拡大して、この度、万ホールディング株式会社として東証プレミアム上場を果たしました。

代表取締役会長は林反省です。


烏丸リンはため息をついてパソコンを閉じた。バード財団の機密データにアクセスしてしまった。財団上層部は吸血鬼現象の原因を万ホールディングスだと想定し情報収集しているようだ。

知りたくない情報に触れてしまった。

それにしても、こんなに暗い気持ちになっているのに屋根裏は静かだ。騒がしくない。

逆に、おのれキャハハ小娘め!


林反省は、本名を栗林省吾といった。

反りの合わない父親の存在と家業に嫌気がさして出奔した。

様々な職に就いたが、どれも栗林家の影響下にある縄文系の仕事ばかりだったためすぐに辞めた。

結果として、ドングリの影響が及ばないところ、米軍基地内で働くようになった。

元々は縄文人の末裔を引率する家柄の嫡男として育ち才覚もあったため、めきめきと頭角を表し、万穴興業の設立に携わりトップにたった。

自ら定めた通称名は、一族の歴史と父親への反発の証であった。

万ホールディングスの攻勢により窮地に陥った地下の人々は、栗林省三を頼った。だが省三自身も縄文人の未来に困っていた。

そこに現れたのが、若き日の鉄鎚源太郎であった。

「我々は原始のアニミズムを教えの根本としている。いわば、あなた方縄文の考えと近しい。神仏分離によりいまは仏教宗を名乗っているが、そう大差はない。」

鉄鎚はそう言って栗林家に逗留した。

本当の目的は省三の一人娘であるフキにあった。

「うちの娘は神様にお返ししなくてはならない。」

省三は、娘を拾ったときのこと、不思議な力のことを話した。

鉄鎚は、省三を説き続けた。

「まさに我々は神の御子を求めていた。我々の本地である原始の神々に、この子を仕えさせたい。」

鉄鎚はフキを連れていった。廃屋を安く買い取り、修繕して住居とした。ここが彼らの神殿となった。

鉄鎚と子分である郡司と塩谷。

彼らは一攫千金を夢見て、はるばる南西からやって来た。山々を巡りながら、時に鉱山を発掘し、あるものを探していた。

そもそもの発端は、故郷である南九州にあるI湖で大ウナギの養殖をしていたときのことであった。

いつものように湖の深さや水流を計測していた。鉄鎚は元々、地元の寺院の息子であったが、貧乏寺がいやになり幼なじみの郡司と塩谷を引き連れて様々なことに取り組んでいた。

郡司や塩谷は大陸での開拓経験があり、土木や測量技術にも長けていた。

ある日、地震が起きた。それほど大きくなかったが、I湖はカルデラ湖である。いつ噴いても不思議はない。

ガラス様の小さなカプセルが水面に浮いていた。まるで飲み薬のようだったが、鉄鎚は、何気なくそれをつまんだ。割れると思ったが強固な弾力に指がしなった。カプセルの中を覗いても何も見えない。捨てようと思ったが、郡司の呼びかけに気をとられて思わずポケットへしまった。

その晩、湖畔の簡素な作業小屋でひとしきり酒盛りをした後、皆が寝静まってから、机の引き出しにしまい直していたカプセルのことを思い出した。なんだか気になって捨てられなかった。

そっと手に取り、硬さを確かめながらアルコールランプにかざしてみた。ランプのゆらめきがカプセルに反射してきれいだった。

「外国製か。」

しばらく眺めている。ただのカプセルをよく飽きもせずに眺めていられるなと我に返り、ちょうど雲間から顔を出し始めた月光にかざしてみた。

今夜は満月か。

蒼い光がカプセルの中へ充填されたように見えたとたん、カプセルから光が飛び出してきた。映像が流れてきた。

それは、鉄槌がこれまで見たことのない動物のような姿形の映像だった。巨大な恐竜のような映像が流れてきたときには大声を出して驚いてしまった。

きらきらと夜空に映る見たことのない異形の映像。だんだんと慣れてきた鉄槌はうっとりと眺め始めた。

「やっぱり外国製の映写機かなんかだよな」

映像が一旦途切れて真っ暗になった後に再度映像が表れた。ゆっくりと流れた。

真っ白な虎のような生き物である。雑誌で目にしたホワイトタイガーのようだが、この世のものとは思えない。大陸の奥地で太古に絶滅した種かもしれない。

実物を見てみたい。手に入れたい。その衝動にかられたとき、朝日が雲間から横顔をのぞかせた。夜明けが近いようだ。

カプセルはまるで夜の終わりを察知したかのように、大量の白い光を放出した。白い虎の映像が東の方へ飛んでいった。光を捕まえようと手をのばしたまま鉄槌は眠りについた。

辺りが明るくなったころ子分たちに叩き起こされた。

「兄貴、ヤバい、早く逃げよう。」

夢の中で白虎を追跡していたのか、鉄鎚は「白い虎」と言いかけて目を覚ました。

「警察が嗅ぎ付けた。」

目が覚めると一瞬で事態を把握した。いつでも起こりうること、事後処理まで想定していたため動きは速い。

鉄槌たちは無許可で養鰻をしていた。それが露見し警察が来る騒ぎになったと判断した。

手早くアジトをたたんで山側へ移動した。少し高いところから湖畔の様子を窺ってみた。追手はまだ近づいていないようだ。

しかし、何やら変だ。警官たちと近所の住民は沖の方を指さし騒いでいる。大ウナギの無許可生け簀はもっと岸寄りの場所だ。郡司が情報を集めてきた。

「なにやら、化け物が現れたらしいです。未明に漁へ出ようとした漁師のジジイが、首の長い恐竜のような怪物を目撃したって。」

鉄鎚はポケットのカプセルを握りしめた。

これか。

しばらくして湖はこれまでにないほどの大騒動になった。当時大流行りだったネス湖のネッシーにあやかり、I湖のIッシーと命名され、たくさんの見物客が集まった。調査隊もやって来た。

もうこれでは、鉄鎚たちの養鰻は続けられない。

「兄貴、これからどうやって食ってこう。」

鉄槌の気持ちは定まっていた。白虎を探すために東へ向かう。

なぜこれほどに心惹かれるのかわからないが、追い求めたい。

「いっど」

3人が各々簡単な持ち物を携えて出立した。もう故郷には戻らないかもしれないな…。

彼らは九州を北上し、東へと向かった。

弟分たちは、うまい儲け話に期待し、鉄鎚は白虎を追いかけて。

各地の豪族や寺院などに立ち寄り、鉱山開発の儲け話をエサに逗留し、半ば食い逃げように旅をした。盗人まがいの行為も厭わず、東へ進むに従いならず者たちも仲間に加わる一団となった。歴戦の郡司と塩谷がそれぞれ人を束ねた。もともと親分肌である鉄槌は幼少の時分から自坊でかじった仏教の知識も活用し、集団に少しずつ宗教的なルールを帯びさせ、粗暴な子分たちをコントロールした。

次第に、浮草のような者たち以外にも救いを求める者、寄進する富豪たちも集まってきた。

人が集まると情報も集まってくる。

北東地方の有力者から、白い虎の娘に関する噂話を聞いた。


フキは産まれた時から神がかっていた。母親のお腹にいたとき雷にうたれたそうだ。この地方の古い言い伝えでは、虎は地上に落ちた雷の化身と言われている。村人たちは白い虎が母親の胎内に入るところを目にした古老の話を伝えている。

フキが産まれたばかりのころは、村中の誰もそばへ寄りつかなかった。ひっそり「虎姫様」と崇め奉られていたが、実際のところ物の怪の類として敬遠されていた、

長雨と疫病が流行り、隣村で人殺しがおこった。近隣の村人が恐怖におののいている中、犯人がこの村の溜池でおぼれ死ぬ事件が起きた。村人はフキを恐れた。いまにもフキの家を襲おうとする村の若衆を村長が抑え、フキの両親を説得した。

両親はやむなくフキを捨てた。聖なる山へ捨てた。そこは太古の昔から本当の日本人が住んでいると伝えられていた。もしかするとここでなら幼子は生き延びるかもしれない。

縄文時代からのドングリ農家である栗林省三が拾った。

フキの成長は早く、病気ひとつしなかった。あるとき、崖の上から転落したが、樹木が支えとなり、ケガ一つしなかった。次の日にはその崖を軽々と登り降りした。

遥か彼方の音が聞こえ、ものが見えた。

人並み外れた能力を持っていながらも、省三夫妻によく懐き、かわいらしい少女として育った。

省三はフキを密かに育てた。フキの存在を地下の住人に察知されたら彼女の力を利用される恐れがある。そうなると、フキは最終的には米軍と戦うことになる。フキのことが表沙汰になることは極力避けなければ。

そんなときに鉄槌源太郎が現れた。宗教家を名乗っていた。

どこで聞きつけたのか、フキの守護を申し出てきた。

「その子を守れるのは私たちしかいない。」

鉄槌源太郎の強引さとその一派の荒々しさが頼もしく思えた。フキの将来をこの男に賭けることにした。

常人の倍以上の速さで成長していくフキだったが、鉄槌の仲間たちと楽しく暮らした。山々を旅しながら、銀鉱脈を見つけては財閥に売りさばいた。鉱脈はすべてフキが発見した。手にした莫大な資金を使って、没落した大寺院を買った。救済する名目で近づき、最終的には乗っ取った。

地方の貧乏末寺出身の鉄槌がついに大本山の主となったのである。すべてを自分流に変えた。大白虎寺の極僧正として君臨した。

この頃のフキは凄まじかった。あふれでる能力に肉体が追い付かず、一日活動しては三日三晩死んだように寝ていた。

郡司や塩谷は金と有力信者の人脈を使い、政財界への働きかけを始めた。かつての大陸での工作経験を存分に発揮した。

あの日から白虎を追い求めている鉄槌と違い、彼らは純粋に教団を大きくすることで、自分自身の栄達を目指していた。郡司は鉄槌兄貴のため、塩谷は信仰を深めるため。

ならず者からの成り上がり。歴史ある大寺院の虚像に数万の檀信徒、数百人の部下を擁するようになっても、鉄槌は郡司と塩谷を昔からのあだ名で呼んでいた。

ツカサとシャオシャオ…


塩谷は、聖地への大本山移設を進言していたが、フキが酷く嫌がった。鉄槌と郡司もわざわざ移ることはないと、必要性を感じていなかった。

この頃フキの様子が少しおかしかった。塩谷に少しおびえているようだった。塩谷の雰囲気が変わったからなのか。

昔から根が真面目な塩谷は、鉄槌の下で修業に励み、白虎寺が大きくなるにつれ一端の宗教者になっていた。ある程度の金と地位は手に入れた、後は…。

いまだ空腹のアマガエルのようになんでも飲み込む郡司とは違う。

しかも、先日の山篭もりから戻って来てさらに大きく変わった。南国出身の田舎者らしい楽天さは影を潜め、理知で抑制的な人格者に変貌していった。

悟りに至ったかのような言動、そして何かを秘めている。

相棒の郡司は塩谷の豹変を気にしないように、相変わらず裏工作の相談を持ちかけていたが、塩谷は鉄槌のことを「お師さま」と呼び、信仰の道を極めようとしていた。

白虎寺へ従う者たちへの説教を鉄槌から任せられるようになり、次第に塩谷のことを崇拝する信者も出てきた。

「シャオシャオの変わりぶりはどうだい、アニキ。」

白虎寺の右腕として活躍している郡司はいまだに鉄槌の弟分として振るまっている。塩谷派の者たちに見せつけるようわざと昔話を大声で繰り返す。

「そうだな、シャオシャオのことも気になるが、フキがおかしいんだ。なんだかシャオの野郎を怖がっているみたいだ。」

師である鉄槌源太郎から破門を言い渡される際に塩谷は、桐箱に入れた黒い塊をうやうやしく持参した。塩谷派の有力者である鬼頭と最上が後ろに控えていた。銀鉱山を掘りつくしかつてのように採掘権売買に頼れなくなった現在の白虎寺は二人の豪商を含めた有力信者の寄進と経営力に支えられている。その筆頭である二人がともに塩谷に従っている。

塩谷は言う。

「宇宙の神はその人間を望んでいます。」

鉄槌の後ろで震えているフキに箱から取り出した黒い塊を突き付けた。

フキは激しく体を揺らし、大きくのけぞった。

「奥方様!」

郡司が自らの体を塩谷とフキの間に差し入れ、黒い塊からフキを守ろうとした、その刹那、フキの体から白い虎のような光が飛び出した。かつて鉄槌がI湖で出会った白虎の映像である。

あっという間に西の空へ消えた。フキはその場にへたりこんだ。

塩谷は、黒い塊をじっと見つめたのち、自らの信者を引き連れて去った。西へ向かったのである。

これにより、二つの宗教団体による白い虎を求める抗争が始まった。


白い虎が抜けてからフキの異能は皆無となった。夜中に夢でうなされることはあったが予知夢はなくなっていた。動物や草木に話しかけるが、爽やかな風が吹き抜けるばかりである。

「普通の女性に戻った」

鉄槌はフキを隅々まで調べ、なんとか白虎の手掛かりを手にしようと躍起になっていた。

同時に郡司には西方での探索を命じた。

しばらくしてフキは鉄槌の子を身ごもった。フキにとって初めて訪れた幸せの時間だった。フキからすっかり白虎が抜けきったことを悟った鉄槌は一人の女性として愛しんだ。

元々、栗林家を訪ねたのは白虎を宿したフキの噂からだった。しかし、共に暮らすうちにフキ自身にも魅かれていた。フキは人生で初めての落ち着いた暮らしというものを味わった。

しかし、それも長くは続かない。フキは珠のような女児を生んだ。誕生した娘に鉄槌は様々な実験を施した。白い虎の力は遺伝していないのか。とりつかれたように、新生児への調査を繰り返す鉄槌の所業に悲嘆しフキは家を出てしまった。

残された娘のサキは、司頼朝と名を改めた郡司とその配下たちが面倒をみることになった。この集団が後に頼朝機関としてシャオシャオ教団への攻撃に携わるのだ。

司頼朝は兄弟のように育ったシャオシャオの裏切りを絶対に許せなかった。サキには特殊な能力の兆候は微塵も認められなかった。鉄槌は落胆しながらも少しホッとした。わが子の微笑む姿に心癒されると同時に、フキへの罪悪感で心さいなまれた。

やはり実の娘には特異な点は何もなく、フキの行方を探すため人を遣ったが消息はつかめなかった。同じころサキの周辺に不審な者たちがあらわれる事件が起きた。よくよく顔を知っている者たちの仕業である。

いまや政権与党にも少なからず影響を与えるまでに急成長したシャオシャオ教団の者たちである。教祖であるシャオシャオはフキが娘を産んだことを聞きつけていた。娘を徹底的に調べれば、なんらかの痕跡は見つかる。どうしても白い虎の遺伝子コードが必要だ。コードには造られた場所の痕跡があるはずだ。それをたどればきっと還ることができる。元の場所に戻ることができる。帰りたい…

これこそが、宇宙の真の解放である。黒い塊が頭の中にささやいてくる。

頼朝機関はサキを守り続けた。烏丸兄弟が護衛となり、兄の徹平とサキが結ばれてリンが誕生した。不思議なことにリンには生まれついての能力があった。

フキと同じように動物と話せた。左目は千里眼だった。

鉄槌は頼朝機関にサキも加入させ、ホワイトタイガー捜索に大陸へ向かわせた。両親に代わり祖父の鉄槌と叔父の一平がリンを養育した。

シャオシャオ教団にバレないよう左目を髪の毛で隠し、白虎寺のゴミを荒らしに来たカラスを生け捕りにして、リンの監視役兼護衛として左肩にとまらせた。このカラスの捕獲には難渋した。とにかく頭と勘の良い鳥類だったから。


サクラサクラは焦っていた。教祖であり養父でもあるシャオシャオから、なぜかリンの捕獲を指示されている。しかし、ただの小娘をどうやって誘拐して来いというのか。

調べれば、あの有名なバード財団に勤務している。そこの先輩職員である星網彦を使ってサークルに加入するところまではできた。ハルカと知り合いにさせ、自らの屋敷に誘い出そうとしているが、なかなか誘いに乗ってこないのだ。教祖側からは矢の催促である。

なぜ、あんな小娘一人に悩まされなくてはならないのか。

最近、教祖シャオシャオは、サクラサクラよりも超能力に秀でた女性を筆頭御曹司に指名替えするのではないかといううわさが教団上層部でまことしやかに広まっている。

サクラサクラは元々I湖の畔で生まれ育った。両親とともにシャオシャオ教団へ入信した。教団から多額の援助があったらしい。他にもI湖近辺の比較的新しい家族が教団からの接触を受けていた。I湖のIッシー騒動があったころからこの辺りではちょっとした超能力ブームが起こっていた。世間のブームとも相まって多くの子供たちがスプーン曲げに興じていた。まれに強い力を発揮する者もいた。時がたち当時子供だった者たちが結婚して子供をもうけた頃に、シャオシャオ教団はI湖の近辺を調査し始めた。当初の目的は不思議なカプセルの捜索だったが、次第に不思議な能力を持った子供たちの確保と育成に移行していった。

財力と権力を駆使し、家族ごと入信させた上で子供を次代の育成修行と称して隔離する。そして、シャオシャオの下で御曹司として競わせるのである。父母は遠隔地の教団施設で信仰に没頭させる。

すべては黒い塊の啓示によった。

幼い頃に頭角を表したサクラサクラだったが成長するにつれ普通の優秀な青年に育った。本人は最高学府で頂点を極め、次代の教祖に相応しいと自負していたが、シャオシャオは、いや、黒い塊は不満だった。

「あの人間が欲しい。」

烏丸リンを狙っていた。

シャオシャオこと塩谷が、鉄槌との無用の対決を避けるために、かつて白虎寺を訪問したときのことだった。郡司の拒絶により門前払いを食らったが、竹林で雉と遊ぶ幼児を見かけた。常に側近が持っている霧の箱が震えた。黒い塊が唸っているようだった。強烈な頭痛とともに脳内で声が叫ぶ。

宇宙解放の鍵がここにあったー

シャオシャオはリンに飛びつくように駆け寄った。突然のことに郡司と配下の者たちが阻止しリンを白虎寺の中へ避難させ事なきを得た。

この話を聞いた鉄槌は、しばらく考えたのちに一羽のカラスをリンへプレゼントした。

「このカラスを左肩で飼育しなさい。きっとお前を守ってくれるはずだ」

それからは、左肩にカラスをとまらせて飼育しているが、カラスはリンの左目をくちばしで突いてこようとする。それを防ぐために左前髪を伸ばして左目を隠すようにした。それからは動物たちと話せなくなった。

本人は、大人になったんだなと、ほのぼのしていた。


「重大なる反教行為により、源経一郎を破門とする」

ハルカの父親が教団を破門となる御曹司府からの発令があった。これはハルカも含めた家族全員が追放となることを意味している。

左目に黒い眼帯をしたサクラサクラが憤っていた。

僕の瞳には1億円の保険をかけていたのだ。あの女の無様な働きのせいでこんなことになってしまった。無用なクズどもはいらない。


その数週間前、サクラサクラからの密命を受けていたハルカは頻繁に星網彦と会っていた。リンをどうやって誘い出すか。

あのパーティ以来、連絡は取りあっているが、仕事が忙しいとのことでリンには会えず仕舞いである。リンはバード財団でも念願かなって西日本担当から西南諸島担当へ編成替えがあったため、網彦とは別部署になった。しかもピコン部隊に新規加入することとなりバード財団の真の顔を知ることとなった。西南諸島でのピコン作業により多忙を極めていながらも、大陸方面を少しずつ探索している

網彦はメールした。

部署替えでつらいことが無いか相談にのる、ムーの最新号を解説してやる、アーメン事件の真相を知っている…どうにか街の喫茶店辺りへおびき出そうとしたが動かない。リンは自宅と財団との往復ばかりであるようだ。

櫻君がイライラしている。このままじゃ、ポイントを稼げない。次のサークルはフロア参加ではなく、アリーナ席に降格してしまうかもしれない。また庶民に逆戻りはイヤだ。ボクは名もなき兵士から阿倍比羅夫のような将軍に出世するんだ。

今日もハルカと落ち合った。ハルカも教士長からサクラサクラの叱責を伝え聞き、震えていた。神の御子のご期待に応えられないという贖罪感と教士長の現実的な厳しさが押し寄せてくる。

網彦とハルカは意を決しバード財団へ向かった。財団内でリンを拉致するつもりだ。それぞれがそこまで追い詰められていた。

そんな二人の後をつける男の姿があった。ハルカの婚約者である鬼頭三郎だった。教団内最高幹部である左の神職家の三男。幼いころからハルカに恋心を寄せ、親の権力を頼みに、ついにハルカを我が物にしようとしていた。

いつも尾行していた。雇った探偵から、街中で見知らぬ男と頻繁に会っては真剣に話し込んでいるという報告を受けてから、ほとんどの時間をハルカの尾行に費やしている。

いつもと違い今日は動きがあった。財団の建物内へ少し躊躇しながら入っていった。

網彦は、夜勤明けのリンが図書センターにいると踏んで向かった。ちょうど図書センターから出てきたリンの後姿を捉えた。

「やっと捕まえたぞ、烏丸君」

「リンちゃん、やっと」

不思議な組み合わせの二人に突然詰め寄られ、リンは思わず逃げた。

夜勤明けに図書センターでホワイトタイガーに関する調べ物をし、空腹を満たすため向かう予定であった食堂ではなく、二人を巻こうと仮眠室の方へ走り出した。

せっかくのチャンスを逃してはなるまいと、網彦とハルカも後を追いかけ走り出した。その姿にリンの逃げ足も速くなる。本気で駆け出した。このまま進むとバード財団主任研究員補佐である星網彦の研究室がある。

その数分前、網彦の研究室にはサナエがいた。職員情報を調べていた。

サナエはサクラサクラのマネージャー兼ボディガードである。かつては教団内の学校で教師も務めていたハルカの恩師だ。

網彦の研究室を物色しながら、懐かしいものを発見した。母校の卒業アルバムである。

入信してからは名前も顔も変えシャオシャオ様とサクラサクラ様のために尽くしてきた。過去の思い出などとうに捨てた。

あの、星網彦か…網彦の初恋の相手だった。

サナエはすでにカホリを処分していた。カホリはサクラサクラの周辺を調査した挙句、サクラサクラの女性スキャンダルをスクープしようとしていた。サクラサクラの極秘単独インタビューをエサに、一切の痕跡を残さない条件で山荘へ呼び出し、処分した。

もちろん、網彦とカホリが付き合っていたことなど知らない。もしかりに知っていたとしても「奇妙な三角関係だな」という無慈悲にも皮肉のような感想しか出てこなかったであろう。

網彦とハルカは何とかリンに追いつき、網彦の研究室へなだれ込んだ。

「烏丸君、とにかく僕の話を聞いてくれ。」

「リンちゃん、一緒に来て欲しいんだよ。」

あのパーティに行ってから屋根裏のキャハハ小娘の調子が悪い、カラスが糞をするようになった。リンはあのサークルと関わり合いになるのが嫌だった。だから自然と二人を避けていた。本当はカホリに相談したかったがここのところ全く連絡がとれていない。

「とにかく私は忙しいのです。今日はもう家に帰ります」

そんな、と二人が同時に声を出しそうになった時、研究室のドアが開いた。

サナエが入ってきた。

「教士長先生!」

最敬礼をするハルカを制して、サナエがリンへ語り出した。

カホリとこの後、会う予定である。カホリは秘密の仕事をしているため誰とも会うことはできない。またその仕事は何年かかるかもわからない。もし、よければ会う場所に連れて行ってやってもいい。

リンはサナエに着いていくことにした。


とある高層マンションの地下駐車場。サナエの運転で3人はやってきた。もちろんカホリはここには来ない。会わせると嘘をついてサクラサクラの所有するマンションの地下駐車場へ来たのだ。業を煮やしたサクラサクラは自ら動いた。リンの左前髪の毛が欲しい。

「やっと捕まえたか、手を患せやがって。士長、何をぐずぐずしている、さっそく始めろ。」

カホリはどこ、というリンの素直な疑問をはさませないようにサナエが動いた。リンの首根っこを押さえナイフで前髪を切ろうとする。突然の展開に驚いてハルカが金切り声をあげた。

「先生!リンちゃん!」

抵抗している人間の前髪だけをナイフで切るのはさすがのサナエにも難しく、手こずっている。

苛立つサクラサクラが歩み寄ってきた。

「士長、しっかり押さえていろ、俺が切ってやる。」

サナエに羽交い絞めにされ身動きできないリンの左前髪に手をやり、ナイフで切ろうと持ち上げたとき、リンの左眼が露出した。と同時に左肩のカラスが一声あげて飛び立ち左目に鋭いくちばしを突き刺し眼球をえぐり出した。

強烈な痛みと血しぶきに奇声を発しサクラサクラがのけぞった。

カラスはサクラサクラの眼球を狙ったのだ。

よろめく神の御子にハルカが手を差し伸べた。生まれてからの信仰が最高潮に達した瞬間である。サクラサクラはハルカの手を払いのけ、首を絞めた。

「お前がやれー。」

「俺の目が、目がー。」

硬直したハルカの首を絞め続ける。

「士長、何をしている、任務を遂行しろ。」

われに返ったサナエがリンの髪の毛を切ろうとしたとき、駐車場のスプリンクラーが発動した。サクラサクラとサナエが手を緩めたすきに、物陰から飛び込んできた一人の男がバットで両者の頭に打撃を加えた。

もちろん、星網彦ではない。鬼頭三郎である。

ハルカの危機に直面し相手が御曹司だろうとなりふり構わず助けに入ったのである。

サクラサクラはその場で気絶した。サナエは生存本能からかその場を離脱した。鬼頭三郎はサナエを追いかけた。

ハルカさん、僕はもう家には戻れない。あなたと結婚できません。でも、いいんです。僕はあなたを守った。それだけで十分です。さようなら。生まれながらの正直者であった。だから好きになったハルカのことを欲しいと思い権力者の親に頼んだだけのことであった。

スプリンクラーの発動により駆け付けた消防隊は重症のサクラサクラを搬出した。その場には他に誰もいなかった。


私は新しい集まりを作ります。普通の生活に戻れと人は言うけれど、もはや信仰無しでは生きていけません。

ハルカは、お手伝いのフキに手を合わせる、「おばあちゃん教」を作った。

破門になった父親と母親も一緒になって、わずかな仲間たちと穏やかな信仰の日々を過ごしている。

「私は、昔からこうやってただ手を合わせているだけなんだよ。」

フキの飾らない言葉が若い世代に浸透し始めているらしい。

リンはハルカの新しい生活を応援するためにやって来た小さな館でフキと出会った。

いつも以上にカラスが騒いでいる。リン自身の鼓動もおさまらない

「サキの娘だね。」

リンは初めて祖母と会った。

フキは鉄鎚のもとには戻らないという。リンも理解した。

ハルカはリンにも手伝ってほしいと頼んだがリンは断った。

私にやることがある。人それぞれの役割がある。それが何かまだわからないが、気の遠くなるほど永遠の昔から決まっているような気もする。私を取り巻く宗教なんてそんなものでしょう。神さま仏様って宇宙人なんじゃない。

最近ネットで読んだ「古代宇宙飛行士説」にさっそく影響を受けている。


サナエを追いかけた鬼頭三郎は、ビル屋上で争いとなり、もろとも落下してしまった。


白い虎の遺伝子コードを擬して誕生した虎姫心は長く生きることができなかった。出産した母親のサキも大幅に体力を消耗して入院している。サキと徹平夫婦は頼朝機関から離脱した。虎姫心は祖母にあたるフキが捨てられていた時にくるまれていたという着物を身につけて旅立っていった。姉であるリンと会うことはかなわなかった。


シャオシャオが亡くなった。

ここ最近は体調を崩し、御神体の入った桐箱とともに暮らし、サクラサクラたち教団上層部の人間にもほとんど会っていなかったようだ。

シャオシャオは、後継者を指名しないままだった。

神職家は混乱した。鬼頭と最上は教団の主導権争いに狂った。

最上家はサクラサクラを推す。

裏切り者として追及されている三郎は行方不明のままであり、鬼頭家としてはサクラサクラを推す訳にもいかず、他の御曹子たちも一発逆転の決め手に欠いている。混乱に乗じて下位の幹部たちまでもが、それぞれの御曹子を擁し始めた。サクラサクラ以外の御曹司たちも偶然巡ってきた大チャンスにすっかりその気になっている。

教祖にならって宇宙のお父様に指示を仰ぐべく、黒いご神体にみなで耳を傾けるが何も聞こえない。シャオシャオ以外に声を聞くことはできなかった。

サクラサクラも、他の御曹子たちも、I湖の畔から連れてこられた子供たちには結局のところ素養がなかった。塩谷は白い虎の映像が流れたあの晩、木立の監視小屋から月を眺めていた。そして、偶然にも空を駆ける映像が身体を通り抜ける場所にいたのだった。黒いご神体の声を聞けるのは遺伝子コードの片鱗が身体に残っている者だけだ。

黒い塊は伝え続ける。リンの存在を。

しかし誰も気づかない。

混乱を続けるシャオシャオ教団に捜査の手が入った。莫大な金で政官財界を抑えていたが、今回ばかりは逃れることができなかった。

サクラサクラ一派が信者の求心力を高めるために、奥の間から引っ張り出し開陳を続けていた黒い塊から、高度の放射線が検出されたのだ。

教祖の死と原子力規制法違反により、これまで甘い汁を吸っていた権力者たちが次々と教団との関係を断ち始めた。マスコミも世間の風を受けて反教団キャンペーンを展開した。守るべき利益の無くなった教団は徹底的な司直の介入により瓦解した。

「あの、焦げた糞みたいな塊のせいだ。」

サクラサクラ、鬼頭、最上など幹部が芋づる式に逮捕された。さまざまな悪行やスキャンダルが日の目を浴びた。

教祖であったシャオシャオの死因も放射性被爆の結果であった。

サクラサクラへの取り調べの課程で、網彦とリンにも事情聴取があった。リンはサークルに一度だけ参加したということでおとがめなしだったが、網彦はサクラサクラから金銭の授受もあったようだ。結果として不起訴にはなったが、バート財団主任研究員補佐の職は辞さざるを得なかった。無職になった網彦は、元カノであるカホリを頼りにするため探していたが、サクラサクラの自白によりサナエに処分されていたことが判明した。遺体は新日本海溝に沈めたとのことでもはや発見することは無理だった。

網彦はサクラサクラから教えてもらった謡を続けていた。これまでは前世の自分は白村江の戦いで死んだ名も無き兵士であるという物語であったが、最近では弥勒菩薩の生まれかわりであると謡っている。釈迦入滅後56億7千万年後に現われ悟りを開き、多くの人々を救済するのだ。多くの宇宙で衆生を救いながらこの地球世界に至ったというストーリー自体がサクラサクラの説く新しい教団宗旨であり、いまだ網彦はその世界観から抜け切れていない。虚無僧のような格好をして街中で謡い続ける星網彦は、マスコミの格好のエサとなった。色物扱いでバラエティ番組やワイドショーに出演し人生相談にのったりした。シャオシャオ教団との関係性を非難されもしたが、網彦には全く気にならなかった。まるで悟りの境地に達したようだと思い始める人々さえ出る始末であった。バード財団は彼を保護することにした。元職員という世間体や一般市民への悪影響という理由からではない。財団の外郭団体として新設された「現存する仏陀」研究所での研究対象として星家の両親から購入したのだ。

シャオシャオ教団の信者たちが白虎寺へ救いを求めて帰依した。主人を失った最上家、鬼頭家の人々も資産とともに鉄槌が保護した。


リンの父母が帰宅した。リンの家で虎姫心の遺骨に手を合わせる。天井裏のキャハハ小娘が消えた。


鉄槌源太郎からの帰還命令を無視してまでも司頼朝は一人大陸に残り白虎をさがし続けている。ジャングルの奥地を抜けて山脈を踏破し、地図に載っていない湖を発見した。この形状から判断するに恐らくカルデラ湖の類であろう。故郷にあるI湖によく似た穏やかな風景である。

鉄槌源太郎や塩谷と暮らした日々が懐かしい。死ぬまでここで暮らそうか。

ははは、センチメンタルな感傷はこの俺には似つかわしくない。死ぬまで白虎を探し続けてやるぞ。

原住民から略奪した酒をあおりながら星空を眺めていたある夜。

先ほどまで薄く広がっていた雲が一気に流れ、月光や星々の瞬きがまぶしいくらいだった。星々が湖面に反射しまるで宇宙とつながっているようである。

夜だというのに湖上では漆黒のカラスが旋回している。

水面の反射光がひときわ輝いたと同時に湖面が盛り上がって割れた。

わっ、Iッシーだ。


-こちら警察部隊長、新ミロク式ワープ航行完了、目的空間に到着した-

十歳の自分へ贈る

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