ユト・ユートピア②
好きな人が、とっくの昔からほかの人と付き合ってたことを、すんごい後から知った時のショックったらないよね
ユトは、翌日、早速、近くの川に向かった。
適当な場所で、餌をつけ、糸を垂らす。この餌をつける作業がなんとも嫌なのだが、悠々自適な生活のためには、これくらいは仕方がない。あとは、どれくらい釣れるかが、今後の人生の分かれ目だ。
昼過ぎに、釣れた魚を持って、ユトはモモの店に向った。
これくらい釣れれば、何とか生活していける。そして、そんな報告をモモにできる。ユトの足取りは軽くなる…途中で、女の子の声が聞こえた。…この声は…モモ?
声がする方に、歩いていくと、視線の先にモモの姿があった。ちょうどいい。モモに魚の話をしよう。そして、店まで一緒に歩こう。…と思って、声をかけようとした瞬間、ユトはもう一人いることに気づいた。
あれ…は誰だ?背丈からして男…。あ…メロだ。二人で何して…るんだ…ろ?…う??
そう思った直後、二人は抱き合いキスを始めた。
永遠にも思える絶望の鐘が、頭の中でこだました。
向こうはこちらに気づいていない。キスを…普通ではない濃厚なキスをしながら、互いのカラダをまさぐり合って、二人は、ゆっくりと茂みに体を倒していった。
声は出ず、いや、声は決して出してはいけないのだが。音をたてないよう、ゆっくりと後ずさりした。
衝撃、絶句、放心、絶望…圧倒的な現実が目に、そしてその情報は脳に一瞬で入り、様々な思考をめぐらした。メロの奴、無理やり…、いや違う、モモも腕を肩に回して恍惚とした表情をしていた、二人は付き合って…?当たり前だ、そういう関係に決まっている…いつから…?そんなこと、どうだっていいだろう!二人が既にそういう関係だってことが問題なんだ!っていうか、向こうはこっちに気づいていないよな?…大丈夫だ、気づいたら、キスを止めるに違いない。あの後、どうなるんだ…そういうことになるのか…??昼間から?外で…?まだ結婚もしていないし、二人だけの家がないから…?そんなことも、どうでもいい!!村のみんなは知っているのか?知らなかったの俺だけか…!?イヤイヤ、そんなことだって、どうでもいいじゃないか!!!
…モモは、ミーじゃなくて、メロが好きなのか?
…モモは、メロと付き合ってて、もしかすると、このまま結婚するのか?
…モモは…
…ミーは…モモと一緒になれないのか…?
とてもとても当たり前のことなのだが、ミーはモモと付き合うことも結婚することもできない。そんなこと、あの光景を見なくたって分かっていたじゃないか。人との付き合いもできないミーと、村で人気者のモモ。冴えない人生が確定しているミーと、夢いっぱいの可能性を持ったモモ。
でも、あまりにも思いがけず、そんな現実を見てしまったら、あまりにも辛いじゃないか。なんで、今日から新しい仕事を頑張ろうって時に、こんな光景を見ないといけないんだ?
ミーには普通の幸せだって手に入れるのは難しいことなんて分かってるよ。でも、どうして今日なんだい?神様…。ミーも好きだって思っている人と一緒になりたいよ…。でも、ミーには何の取り柄もないんだ…。
ちなみに、メロは、ミーの一つ年上だ。簡単に言うといい奴だ。いつもみんなの中心にいて、頼りがいがあって、一緒にいると楽しく、それでいて優しい。体も大きくて、力があって、たまに大人と一緒に木こりの仕事もしていた。今は木こりの組合になって、早くもリーダーシップを発揮している。見た目も…格好いい。ミーみたいなやつにも分け隔てなく接してくれて、小さい頃には、蜂にさされて泣いていたミーを助けて両親のところまで送ってくれたこともあった。
彼らの姿が見えなくなるまで後ずさりしたミーは、自分を納得させるために、メロのいいところを一つずつ思い出し、反芻していた。実際に、その通り、いい奴なのだけど。そして、何とか釣った魚のいた川まで戻ったミーは、何となく、釣った魚を川に返した。
ショックから立ち直るために、たくさんのことを思い、考えめぐらせたが、ミーは二人が幸せになってほしいと思い馳せることはなく、ずっと後にそのことに気が付いて、自分の小ささを知った。
今日はもう帰ろう。二人にまた出くわしたら、どんな顔をすればいいのか分からない。
そう思い、ふと顔を上げた時、空にまばゆい光が見えた。
流れ星かな?と思い、何か願いを…と考えたが、何も思い浮かばない。ミーは願いすらないのか…?
ユトが、願い事をもう一度考え始めた時、まばゆい光は、視認できないほどの速さで、ユトの胸に飛び込み、入っていった。
ユトは、そのことに気づかないまま、気を失った。
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