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伯爵邸 〜主の帰還と消えた末っ子〜①





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





カラン、カランカラン…。




玄関口の来客のベルが鳴り……。雪景色の伯爵邸のあちこちから、彼に使える下僕達の声が次々と反応し始める。




『伯爵だ…』



『伯爵様が帰ってきたわ』



『お帰りになったのね』



『お出迎えに行かないと……』




そう……。口々に屋敷の者達がざわめき始める会話の中で、特に伯爵の執務室で交わされている"小さな会話"たちの量は、ひときわ数の規模が違っている。




伯爵の気まぐれで"新たな身体"を与えられたそれらの中には、自らの意志で拒絶して押し黙り…。

ガラスケースの中でそのまま時を止めて全く動こうともしない者もいるのだが、




『…………あら、いいじゃない。お出迎えするのは下働きである召使い達の仕事よ?伯爵様の【コレクション】である私達はサイズ的に小さすぎて雑用に向いていないわ。どうせ玄関に向かう前に伯爵様がこっちに来てしまうんだから、私達は大人しく待っていましょ?』




『……………えぇ…?伯爵、帰ってきたの……?……だる……』





……この様に。





早々に悟り開いて居直る強者どもは、新たに与えられた肉体を早々と受け入れ、居住するにはかなり快適ではある伯爵邸での生活にそれぞれが豪胆に適合していた。




憎々しくも、伯爵が悪魔的"好み"で選んで集められた者達は、歩んできた道自体が極めて波乱万丈…。悲惨で熾烈な経験を経て培われてきた人格達故に、それぞれが良くも悪くも個の権化。




濃く、野太く、とてつもなく突き抜け、一点に関しては恐ろしくなるほどの気狂いで…。




しかし、伯爵に集められた【コレクション】同士不思議と気は合って、

生まれた境遇。過ごした時代。いた場所がそれぞれ違えど、最後に"この場"に行き着いた者同士。




互いを半分嘲笑いながらも【兄弟姉妹】と呼び合って、伯爵邸の永遠に近い時間を、共に争う事なく過ごしていた。




そうして伯爵の集める【ドール】達は時を経るごとに着々と増えてゆき…、今では執務室の【コレクション】室だけでは全く足りず。

寝室、広間、そして伯爵邸の何階層にもわたる深い地下空間の全てが、人形棚と展示用ガラスケースで全て埋め尽くされて、ごった返しになる勢いであった。





その中でも一段濃ゆい極彩色豊かな【コレクション】達が、伯爵の執務室で彼の留守を守り鎮座しているのであった。





『……伯爵様。久々のお帰りね?今回は何処か遠くにお出かけだったのかしら?誰か知ってる?』





『…………確か、隣国の方の皇太子の婚約式じゃなかったか?伯爵様はどこの国にも、一応人としてのご身分をお持ちだからな。呼ばれたから、たまに顔出しには行かないとっておっしゃっていただろう?』





『ふ〜〜ん。………今回は新しい【兄弟姉妹】はお連れになってるのかな?隣国って、少し前から政争でそこそこ荒れてるそうじゃないか。俺としては可愛い弟分だったら嬉しいなぁ。鍛えがいがあるだろう?』




一体の"人形ドール"が話し始めると、それに応えて周りの【兄弟姉妹】達も口々に話し始める。





『………………可愛い【弟妹】といえば…、最近【末っ子】の姿を見ていないんじゃない?あの子も隣国の出身だったのでしょう?気づくといつもどこか行ってる様だけど…、しばらく姿を見てないわね。あんなボロボロの姿でどこいったのかしら??』




『………フン!………また敷地に迷い込んだ魂をおい返そうと無駄な足掻きでもしているんだろう?いい加減、慣れちまえば良いのに。無意味にキリがねぇ』




『ふふふっ。頑なよねぇ〜…。気持ちは分からないでも無いけどね』





人形ドール達がそんなこんなを話しているうちに、執務室の廊下の方から、コツ…、コツ…、コツ…、コツ……。品の良い、革靴の歩き近づいてくる音が徐々に部屋へと近づいてきていた。




…………そして執務室の扉が開き、【ドール】達の主である"伯爵"本人が部屋へと到着した。





「やぁ、皆。変わった事は無かったかい?外は相変わらず屋敷の中と違って疲れるね…。しばらくは外に出るのもおっくうになりそうだよ」





…………そう言って、優雅で貴族的な雰囲気をまといながら悠々入って来た伯爵は、見た目は20代後半のたいへん美しい男。

スラリと細身でスタイリッシュな体躯に、プラチナブロンドの大変美しい、にこにこと微笑む優男であった。




一見。一般的で言う、悪魔のイメージとは程遠い様相の伯爵の姿だが、真っ赤な鮮血を思わせるルビーの赤い瞳にだけは、実に残忍そうな色が秘められている。




疲れた疲れたと言いながら、伯爵は執務室のクラシカルなソファーの上にどっと身を投げると、何が面白いのかクックックと、もうたまらないとばかりに一人笑いを始める…。




「………………隣の国の王室は、本当にどうしようもないね。あんな愚鈍な女性を"あの子"の代わりに王室に迎えようとしているなんて…。少し前まではギリギリに王室の均衡が保たれていた感じがしていたけれど………、皇太子をすげ替えない限りはそのうちツケは出てくるだろうね…。あの国はこれから一波乱ありそうだ」






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