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仕立て屋「カフス」 深夜の攻防【逃げる人形、逃さぬメガネ】②




ついついついつい……、彼女はそう思わずにはいられない。




(……………でなければ、毎夜毎夜っ…。山のような店のオーダーをこなす中で、コチラの動きをことごとく感知なんて出来る訳ないわっ……!!!!)




そう…。心の中で青年に対し猛烈な抗議と不満を爆発させていたのは、先程まで花瓶の影でコソコソ暗躍し、あのしんしんと雪の降る日に見事青年に"捕獲"されていた……、




あの"小さい古ぼけたボロボロ人形"であった。





床まで伸びる彼女の髪は、相変わらず怪物の様にボサボサで伸びざらし。着ている服も一応…、見た目はあの日のままだ。





青年の手で刻々と制作され増え続けていく、まるで貴族の着るようなクオリティの高い綺羅びやかな"ドールドレス"から、何とか深緑色のローブスカートを死守しつつ…。



頑としてその服しか着ようとしない彼女の為に、今では深緑色のローブスカートも青年の手で量産されつつある程だ。



(※……しかし、やむ終えない事情がある時のみ、苦渋の末にこのローブスカートだけには袖を通している…)




そして、"人形である彼女"は今も手を止める事なく作業台でスパルタに仕事をこなし続けている…、あの"元凶変態誘拐メガネ男"の店舗兼住宅から脱出しようと、【方法】【手段】【算段】を変え替え。

試行錯誤を繰り返し繰り返しトライし続けても、ことごとく全てが大失敗。全く脱出できていなかった。





考え出す方法方法の全てを阻まれ続け、彼女が悔し紛れに青年に探りを入れてみれば……、





『う〜〜〜ん…。何でだろうね? 特にそういうのに関してコツとか特技とか仕掛もしてないけど、強いて言うなら……………君への愛のなせる技?』






なんて真顔で言われてしまい…。





思わず"男の小洒落た丸眼鏡"を本気でかち割ってやろうかと思う程…。

彼女のフラストレーションはたまりにたまりまくっていた。





「………………いい加減っ、あなたもしつこいのよっ!!!何度も言っている通り、私は帰らないといけないのっ!!!帰らないと、私の"所有者"である伯爵が【コレクション】の一つである私を必ず"連れ戻しに"やって来るわ。何度も言ってるでしょ!!?あなたも自分の命が大事だったら、今すぐ私を開放しなさい……!!!!!」





何度も何度も繰り返し訴えている"ありのままの事実と説明"を、"人形である彼女"はなおもミシンを走らせ続ける青年の背中に必死にシャウトしてみるのだが…。

この話題で、青年の背中がウンともスンとも動じる事は全くない。




ダカダカダカダカダカダカダカダカ………!!!!!





…………しかし、今は"彼女"が逃げ出そうとしたタイミングもあったせいか、珍しく青年の会話がポツポツとは返ってきてはいた。





「え〜〜と…。伯爵って確か、昔の狂ってしまった"スゴ技人形師"を気に入って懐に飼って援助しながら、自分の気に入った人間の【ドールコレクション】を作らせてる【元人間】の【本物の悪魔】だって言っていたっけ…??

しかもリアルな人の魂…。本人の魂が入った完璧な【人形コレクション】、悲運と不運と不遇な人生をあゆんだ人間を好んで集めてるなんてさ…。君を所有していた伯爵は、本当にいい趣味してるなって思うよな〜。ハッハッハッ!!」





ダカダカダカダカダカダカダカダカ………!!!!!





そう笑って話しながらも、青年は先程まで手がけていた紳士服上下を早々と縫い上げてしまったようだ。

完成した服を木製のハンガーにかけている。

【※オーダー注文。残りあとニ着】





「……………っ!!!笑い事じゃないでしょうっ!!!?人間の状態の"あなた"だって、あの伯爵の森に足を踏み入れいたのよっ…!!!?

完っ全に伯爵の【ドール・コレクション】にリストアップされ済みで、完っ全にあの森に引き寄せられていたって事じゃない…!!!!だからもっと危機感を持ちなさいって言ってるの…!!!この…っ、聞く耳持たない変態メガネッッ!!!!」




最後にまたまた「変態メガネッッ!!!」と追加して罵ってみるのだが、次の新しい生地を取り出しながらの全く動じない青年の反応に、訴える側は話が通じなさ過ぎてどんどん口が悪くなってきてしまう。

"人形になる前の人生"も含めて考えても、こんな言葉使い決して口にした事が無かったのにである…。





ダカダカダカダカダカダカダカダカ……!!!!!





「う〜〜ん…。"変態メガネ"も良いけどさ、そろそろ名前を呼んで貰えると嬉しいな〜。あと…、なるほど。やっぱり俺もその【リスト】に入ってたんだね。

確かにあの時はズタボロ、ズタズタだったもんなぁ〜。アッハッハッハ!!

……あぁ、でもそれなら俺自身も伯爵の【コレクション】に加えられたら、君とずっと一緒にいれたりするのかな…?

それはそれで悪くは無いのか…。でも俺に出来るのは"仕立て"くらいだし、店の道具をそのまま人形サイズにお願いして再現とかは、流石に"稀代の人形師"にも厳しいだろうし、わがままになるよね…?特に《ミスター・ダグラス》とかは………」





ダカダカダカダカダカダカダカダカ………!!!!!





「……………っ!!!!?………あなた…、本気でバカなの!??」





動揺するどころか、例え自分が"人形"なったとしても当然の様にナチュラルに順能&生活力を発揮し始めようとする青年の話に、

この男の底なしメンタルはいったいどこから来るものなのかと、人形である彼女は無言の衝撃を感じてしまう。




(※加えて、自分への"執着"がどこまでもしつこく話の芯に紛れ込んでいるのにも恐怖)





「………………まぁ、とりあえず。もしも人形になった時も考慮して、今からありとあらゆるドール・ドレスや男性の礼服も衣装も作れる様にしておかないとね。昔の異国の伝統衣装とかも勉強して網羅すべきなのかないと…。

まず、君の衣装は俺が全部作るとして、君から聞いてた伯爵邸にいる【コレクション】先の"お義兄さん""お義姉さん"方にも気に入って貰えるように、今から色々準備しておかないとだよね!大丈夫。君との生活を守る為なら、俺は"世紀の縫製師"にだってなる覚悟だから」





「……………!!!!?」





ダカダカダカダカダカダカダカダカ…………!!!!!





……………男の言葉に、人形である彼女は思わず言葉を失う。




最後のあたりなんかは、作業台からくるっと振り向かれて、爽やかに笑顔に&そして意味不明に"覚悟"とか言われてしまうのだが……、





(……………………………だから、何でそんな話になるのよ………!!!??)





また思いもよらぬ変な方向に話が飛び始め、マント代わりにコソコソ羽織っていたハギレのマントをバサリと床に落としてしまう…。




とりあえず。

目をそらしたくなる程の恐ろしい事実として、完全に"人形である自分を加味した将来設計"が青年の中で確実に…。そして徐々に構築されているのがまざまざと感じさせられてしまう。





そしてこの難局を回避する為には、おそらくこの店。

この場から脱走する事しか道は残されていないのだと……、改めて人形の身である彼女は"再認識"させられてしまう。





床まで伸びるボサボサ頭の髪を、さらにグシャグシャグシャッッ!とかきむしって、彼女は天を仰いだ。





(誰か……っ、もういっそ伯爵でも良いわ。神に精霊、悪魔に魔神。何だって良い……っ!!!誰でも良いから、このバカ……。この"変態メガネ"を、誰か止めてちょうだーーーーーーーーーいっっっっ!!!!!!)





こんな…。

それこそ自身の身が摩訶不思議な事に見舞われても常に淡々と受け入れ続けた彼女に、生前の姿も含め誰がこんな姿を想像できようものか。





ダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガ………!!!!





彼女の胸の内の叫びも虚しく…。

働き者のミシン【ミスター・ダグラス】の音が外まで漏れ響き、心地良い機械音が子守唄の様にリズムを刻んで、今宵も一人の人間。"メガネ"と小さな"人形"の攻防戦が続く夜がふけていく…。




この後。もう一回試みた人形の脱走も失敗して……、街の小さな洋裁店"カフス"の夜はこうしてまたまた明けていくのであった。





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