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仕立て屋「カフス」 深夜の攻防【逃げる人形、逃さぬメガネ】①





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





ダガダガダガダガダガダガダ…………!!!!!





夜になり店を閉めしてから数刻…。

今はもう夜中の10時くらいだ。皆、ろうそくやランプの油を無駄にしない為にも大方の大人も寝静まる頃合いである。




…………しかし、街の小さな紳士服専門洋裁店"カフス"の正念場はこれからだ。

 



今宵の夜も、店主である若き青年が洋裁店の作業場でミシンをダガダガダガダガ…。

物凄い勢いで布地を縫い上げる音が、作業場の中でけたたましく鳴り響いている。




この店を一人で切り盛りする青年。

ロン・フォーブスは、レトロで小洒落た小ぶりの丸眼鏡が小気味よく似合う……。一見それなりに容姿の整った青年だ。



小ぶりな眼鏡がかけられたグリーンの瞳。少しだけ赤みがかった明るい栗色ブラウンの髪をやや短髪に…。

後ろは刈り上げスタイルの、そこそこ小洒落て見える職人男子である。




(※しかし髪型は近所の散髪屋でおまかせスタイル。基本、本人は髪型なんて無頓着)




体躯は比較的にスラリとしていて長身で…。

何度も着古され程いいダメージの白シャツに、クラシカルなグレーのズボン。

それに丈夫なベージュ色生地の作業用エプロンも身に着けて…。見た目はまぁまぁ…、爽やかである。




…………しかしその作業する手は一切止まらず。

集中に集中を重ねた無表情職人モードでの、迷いの無い布ライン引き。裁断&パーツ組み合わせ、仮縫い。

それが終わり次第に、迷う事なく一気に布地を縫い上げる作業のエンドレス…。





青年は限られた一日の時間の中を、昼間は店での接客と仕事の受注。

夜はこうして日中に受けた仕事を一気にこなし、注文分を仕立て上げるて消化していくスタイルを、ここしばらく数年間ずっと続けてきていた…。




今の時点で今宵中にこなしておきたいノルマは、数日前に受けた紳士服一式。新規フルオーダー分が数着。

そして今日開店してから急ぎで持ち込まれたサイズ直しが、今の時点で2〜3着。




……………それに加えて可能な限り。

できれば残りの数分だけでも良いから取り組みたい、最近増えた"本腰趣味制作"(=嫁のドレス作り)の時間を考えると…。

無駄な時間は一切割いていられなかった。





青年の相棒である、父親から店ごと譲り受けた年季の入ったミシン《ミスター・ダグラス》を玄人職人よろしく…。

実にスピーディーに手早く&技巧みに使いこなして、裁断済みの布地をこれまた完璧に、信じられないクオリティで縫い仕上げていく。




……………そんな、夜がふけつつあっても止まる事なく稼働し続ける作業場の窓枠付近で…。

こそこそ。……チラッ、チラリ。




「…………っ…」



(…………………奴は…、見てないわね……)





作業台にかじりつき、ミシンを物凄いスピードで走らせ続ける青年の後ろ姿を見て、(長い一日の中でようやくこのタイミングが来たわ…!)と、棚の上に飾られている花瓶の陰から緊張してきょろきょろ周りの様子を伺う"小さい者"がいた。




その大きさ…。全長約20センチ程。





ダガダガダガダガダガダガダ…………!!!!!





けたたましいミシンの音。《ミスター・ダグラス》の激しい稼働音が絶え間なく鳴り響く中を、そろり…。そろり…。




(………………大丈夫。私の忍び足の音なんて、軽くミシンの音に掻き消されてるわ……)なんて考えながら。それでも用心深く…。




彼女がここに連れ込まれて、はや一月…。

仕損じてしまったここ数日の失敗歴々パターンを猛省しつつ、細心の注意をはらいながら、音をたてない様"その小さい者"はゆっくり忍び足で前に進んで行く。



そろり…。そろり…。そろそろり……。




(……………今日は良い調子ね。このまま遠くの小窓の方に………)




ゴールはもうすぐ。はやる緊張を抑え込んで中盤まで進み…。もしかしたら、このままスムーズに行けるかもしれない…!!そう彼女が息を呑んだ時。




「………………レイチェル。今、後ろで逃げようとしているよね?」



「………っ!!!!??」




ドッキーーーーーーーーーンッッッ!!!!




……………いきなり投げかけられた青年の背中越しからの言葉に、それこそ"窓際の棚をつたいにつたって逃げ出す算段満々"だった"小さい彼女"は、度肝を抜かされて飛び上がってしまう。




「レイチェル。ダメだよ?夜は危ないんだから。また隣のボス猫チャッキーに連れ去られるよ。君、チャッキーにめちゃくちゃ気に入られてるんだから」




「ぐぅっ!!!!」




つい"昨日の大失態"をズバリ指摘され、恥ずかしさと怒りとメンタルダメージ大で、言われた当の本人である"小さい彼女"はワナワナワナワナと体が小刻みに震えてしまう。



(……………こんのメガネッ…!!!!本当に毎度毎度っ…!!!まさか背中に目でもついているんじゃないでしょうね……!!!??)



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