魂の墓場 迷いの森のドール③
「…………………は !??なっ……、何で掴んで……!?……!?、……っっ!!!??」
体を掴み上げられ、予想外の青年の動きに目を白黒させ取り乱す人形の彼女。………だけど青年はさらさら離す気も躊躇する気も全くおきなくて。
気がつくと、青年は清々しく笑ってしまっていた。
「…………………そうだね。じゃあ、一緒に帰ろうか?」
「……っ!!?」
アハハと笑う青年の言葉に、両手でガッチリ"捕獲"されている人形は、ビキリと固まって信じられない物を見るかの様に青年を見上げ混乱している。
「とりあえず、帰ったら俺が君に似合いのドレスを山程作ってあげるよ。俺、一応紳士用の仕立て屋を営んでいるんだけど、君はいったいどんな色のドレスが似合うかな…。専門外ではあるんだけど、レディーのドレスも一通り仕立てられるんだ。母親も仕立て屋だったの見てたから……、たぶんドールドレスも試作を何個か挑戦してみれば作れると思う。楽しみにしててね。え〜と、………………マイハニー?」
「………っっ!!!??貴方、馬鹿なの!!!???」
青年は、その時の光景と彼女の顔を思い返すだけで、今も腹筋と頬がやられそうになる。
……………あの時の、彼女のキラキラ美しい赤紫色の両目ガラス玉が、落ちんばかりにゆっくり見開かれていく様。表情が実に忘れられない。
「はっ、離しなさいっ!!!!離してっ!!!!貴方気でも触れたの!!?私は人形なのに、何がマイハニー!!??私を馬鹿にしてるの!!?離すのよ、離せメガネっっ!!!離せって言ってるでしょーーーーーー!!!!!?????」
彼女は世にもおぞましい物を見た…という風に青年を見上げて、同時に変態っ!!!!とも何度も罵られたのだけれど……。正直、青年は痛くも痒くもなかった。
自暴自棄になって、あてもなく歩き回っていた先程までの心境のせいか、今更こだわる物も何も無いという事もあるけれど。
こんな"奇想天外"な"千載一遇"のチャンス。
逃したら、きっと彼女には二度と会えないはずだ。
それは間違いなかった。
青年は大事に大事に。
しんしんと降り続ける雪の寒さからも彼女をガードする為。胸元のコートの内ポケットに彼女を収納&逃げられない様に(※落ちない様に)一応上からも抑えておく。
「ちょ…っ、…!?私をどこに入れて………っ。まさか、本当に私を連れ帰る気なの!!??」
流石に内ポケットの中にはサイズ的に完全には収まってなくて、彼女のボサボサの髪がコートから結構はみ出て見えているが、どうせこの雪だから誰も他人の事なんかしっかりと見ないはずだ。
(うん。たぶん、大丈夫。)
胸ポケットで暴れる彼女の必死な抵抗を軽く手で押さえつけながら……、
「変態っっ!!!変態メガネっっ………!!!!この手を……っ、この上から抑える手を今すぐ離しなさいぃぃ〜……っっ!!!!!この変態!!変態優メガネっっ!!!!変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態ーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
…………………とりあえず。
青年はこの日。
人形の彼女から賜った"変態メガネ"の尊称を、自ら清々しく受け入れた。