傷跡
映画館から戻ってきた私の足取り、非常に重くなっていました。
心は映画の結末と同じくらいに落ち、私の中に、言葉にならないような何かが沈殿していくのでした。
私は「あの……」と言葉を詰まらせながら、お父さんのもとへ歩み寄りました。
お父さんは深く息を吐き、「……まぁ、そんなワケさ」と言葉を紡ぐと、洋服のすそをまくり上げました。
そうして現れたのは、湿布のような真っ白い布。
その布を剥がすと、過去に刻まれた痛みの痕跡があらわになるのでした。
「────あぁ」
腕から肩にかけて深く刻まれた、まるで刃物でえぐり取られたかのような傷でした。
それは、表現しようもないほどの苦痛を物語っているのでした。
でも、うすうすは気づいていました。
春夏秋冬、季節を問わずにいつも長袖の洋服を着ていたので、きっと何かを隠しているんだろうな、とは思っていたのですが、まさかここまでだったとは。
「これは悪魔に切られたんじゃないよ? 初めて病院に入る前、僕が世界を勝手に恨んで、僕が勝手に自分でつけた傷さ」
「でも世界っていうのは、自分が思っているよりもずっと肯定的にできている」
「僕自身、それに気がつくのに時間がかかりすぎた……」
「気づいた頃には、僕はもうベッドの上だった……」
「結局、世界を否定していたのは、この僕だったんだ……」
「ベッドに寝転がって病院の天井を見上げるたびに、僕はなんで生きていたんだろうって思ってた」
「夢もなければ、希望もなくて、明日を生きる自信もない」
「自分が進むべき道すら見いだせなかった僕は、なぜ生きているのか分からなかった」
「夢なんてものはゴールじゃなくて、ただの通過点」
「人間、いつかは死ぬのに……ってね」
「だけど、死ぬ答えが見つかった」
「人間は、美しく死ぬために生きている」
「それは、死に方うんぬんの問題じゃない」
「多くの人にみとられながら、愛されながら死ぬこと。それが、本当に美しい死に方なんだ」
深く思考を巡らせた後、私は「本当にそうなのかな……?」と切り出しました。
「選択したこと、経験したこと、体験したことすべてが、私たちを形作る……」
「欲張って全部持とうとするとパンクしちゃうから、自分にとって何が必要かそうじゃないかを見極めて、時には勇気をもって捨ててさ……」
「私は、人生の意味っていうのは終わり方にあるんじゃなくて、その人がどれだけその瞬間を価値あるものとして生きてきたかにあると思うんだよね……」
自分の意見を述べると、お父さんは目を丸くしながら「まさか、自分の娘から教わる日が来るだなんて思いもしなかったよ」と答えるのでした。
「かなうんだったら、向こう側でもっとはやく教えてほしかったな……」
「そしたらこんなに寂しい人間にもならずに済んだのに……」
「だけどこれも、人間が人間足らしめる定めってやつなんだろうね……」
その日、私はもうそれ以上何も語ることはありませんでした。
お父さんの隣に座り、『今日』という世界が崩れ落ちるさまを二人で見届けるのでした。
この時間が、お父さんの心に新たな意味をもたらしてくれることを願いながら。




