トンネル・ビジョン
ねぇ見た? お父さんの顔を。
そう。あのシワとか目のクマ。
年を重ねるごとに、どんどんひどくなってるんだよ。
昔みたいに、もう目は輝いていない。
ただ、疲れ果てているだけ。
お母さんがいた頃と比べても、ずっとひどい顔になってるの。
それ考えるとね、なんだか寂しくなるんだよ。
お父さんが優しいのは変わらないけど、昔はもっと明るかった。
でも今じゃ、その明るさもどこかに隠れちゃったみたい。
うち、やっぱり父子家庭だからさ、お金のこととか、人間関係のこととか、いろいろ悩みがあるんだと思う。
でもね、悩みの種はそれだけじゃないのかも、って思うの。
もしかしたら、こんな私に無理して合わせようとするから、あんな風になっちゃうのかも。
お父さんだけじゃない。
私の周りにいる人たちも、みんな。
そう、全員。
それってつまりさ、私がいなくなれば、みんな楽になれるってことだよね?
だったら、やるべきことはただ一つ。
考えてるだけじゃなくて、何か行動しなくちゃ。
私の選択に、間違いなんてないんだから。
もし、間違いがあるんだとすれば。
それは、私がこの世界に生まれてきたことなのかもね。
私がいることで、みんなが苦しむのなら。
私がいなくなって、みんなが幸せになるのなら。
私は、喜んで死ぬよ。
さ、行こうかな……。
今日はたくさん笑ったからね、もう満足だよ……。
…………。
「夏月!」
────沙楽?
────あっ。




