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モノクロームに愛された者たちへ  作者: ヤナギ ショーキ
33/54

狭間

 一週間も終わりに近づいたある日。


 部室の扉がゆっくりと開く音に、私は耳を傾けました。


 その音は部室の静寂を切り裂くような響きで、不穏な空気が部室に漂いました。


 緊張感が手に取るように伝わってくる一方で、心には緊張と不安が入り混じり、微かな鼓動が胸の内で高鳴っていくのでした。


 覚悟して振り返ると、ミサちゃん先生が封筒を手に、静かに立っていました。


 彼女の笑顔は優しさと温かさに満ちていましたが、その笑顔の奥には、何かを抱える深い哀しみが隠れているのでした。


 そのどうしようもない事実が私の心に届くたびに、内に秘めたゆううつな感情が一層深まっていくのでした。


「こんにちは」


 ミサちゃん先生の声が部室に響き渡ると、新しい風が流れ込みました。


 私は微かな力を込めて「……こんにちは」と返したのですが、内には重い雰囲気が募っていくのでした。


「作業中、いきなりごめんなさいね」


「……いえ、大丈夫です」


 それもそのはず、夏月がいなくなって以来、私はキャンバスに手をつけることもなくなっていたのです。


 会話の中では明るさが交わされている一方で、その声には微かな希望と同時に未知の不安が交錯しているようにも感じました。


 ミサちゃん先生の瞳からは明るさがあふれ、私の心には、その反対の暗い影が広がっていくようにも感じました。


「今日は、サラさんに渡したいものがあってね?」とミサちゃん先生は言うと、手に持っていた封筒を私にそっと渡してくれました。


 手渡される瞬間、彼女の手からは温もりとともに、深い哀しみが伝わってきたのです。


 封筒の中身を確認してみると、そこには遊園地のチケットが三枚入っていました。


「本当は四枚ゲットしたかったんだけど、ちょうど売り切れちゃって……」


 私は「え、これ、いいんですか?」と驚きながら尋ねると、ミサちゃん先生はほほ笑みながら答えました。


「本当は、教師が生徒に何か物をあげるのはあんまり良くないんだけど……」


「でも今は、いちいちそんなことを気にしている場合じゃないでしょう?」


「今だけ教師じゃなくて、一人の人間、大人として、これを渡したいの」


 しかし、そのほほ笑みには、幾重にも重なる悲しみが隠れているように見えました。


 その言葉に心が揺れ動き、私は深い感謝の気持ちではなく、どこか闇に引かれるような喜びが広がっていくのでした。


「先生……」


「ありがとう、ございます……」


 小さく震えた声ながらも、精一杯の感謝の言葉を込めて、私は深く頭を下げました。


 しかし、その一言にも、心の奥底に潜む孤独感が溶け込んでいるのでした。


「ごめんなさいね。大の教師がこんなことしかしてあげられなくて……」


 ミサちゃん先生の存在が私にとっての明るい光となりつつも、闇が私を引き寄せていくような気がしました。


 その間も、私の心は光と影のはざまで揺れ動くのでした。


 ─────────────────────


 その日の夜、私はスマートフォンの画面を見つめていました。


 美里先生からいただいた遊園地のチケットを使い、一時的に嫌なことなど忘れて、少しでも楽しいと思える時間を過ごすためです。


 しかし、ここ最近、私から送ったメッセージには既読すらつかない状況が続いていました。


 そこで私は、夏月の代わりに、夏月のお父さんにメッセージを送ることにしたのです。


『こんばんは。今日、美里先生から遊園地のチケットをもらったので、今度の休みの日に夏月と行こうと思っているんですが、どうでしょうか?』


 私の方からメッセージを送ることはあまりないのですが、本来であれば、彼からはすぐに返信が届きます。


 しかし、今回は異なりました。


 はっきり言って、異常事態です。


 息苦しさが胸を締め付け、震える指先が画面に触れるたびに心臓の鼓動は速まり、ただただ「OK」という二文字が返ってくるのを待ちわびるのでした。


 それから数十分が過ぎ、ようやく彼から返信が届きました。


『ありがとう。なんだかんだいって夏月も蒼井さんと行きたがってるみたいだから、ぜひお願いします』


 その瞬間、あんどとともに胸を満たしたのですが、その間の不安は私の心に深く刻み込まれていました。


 ですが、彼の返信が遅れた理由を冷静に考えると、心臓のあたりがつかまれたように痛むのです。


 私は感謝の言葉を送り、アプリを閉じました。


 夜が更けるにつれて、私はベッドに横たわりました。


 風の吹き込む音や、時計の針が秒を刻む音、カーテンの隙間から差し込む月明かりの影が、私の不安を増幅させるのでした。


 この先、私たちの関係はどうなってしまうのか。


 その不確かさが、私の内側に広がっていくのでした。


 心に根付く不安の闇は深く、私の心を包み込んでいく。


 ただ漠然とした不安が私を襲う中、私の心は暗闇に覆われるのでした。


 不安が心を侵し、私の内側をむしばんでいく……。


 明日の光は見えず、心は暗闇に囚われたまま……。


 そうして私は、右も左も分からなくなって……。


 ……。


 この感覚、眼科で真実を告げられたあの日と似ている……。


 残念だけど、この暗闇はまだ当分明けそうにない……。


 私たちが背負った罪は、いつになったら癒やされるのだろうか……。

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