第一発見者
これはフィクションです。出来事は想像に基づいています。
夜勤明けでフラフラになりながら家に帰った私は、腕時計を見て午前五時を回っていることに気づいた。
車から降りると、季節にそぐわない冷たい風が肌をなでる。
風は冷たく、まるで冬の息吹のようだった。
空はまだ暗く、星がぼんやりと光っていた。
星々が微かな光を放ち、夜の闇を彩っていた。
家の鍵を開けようとしたところ、玄関のドアノブに何かが引っ掛かっていた。
回覧板かと思ったのだが、その正体は紙袋だった。
誰かの忘れ物だろうか?
「なに……これ……?」
持ってみると、紙袋はやけに重く、中身がぎっしりと詰まっているようだった。
手を突っ込んでみると、中には無数の束が入っていた。
その束はすべてピシッと整えられていて、指先に鋭い刺激を与える。
一束手に持って確認したのだが、何の紙なのかは暗くてよく分からなかった。
気になったので、私は紙袋を持ち帰って中身を確認することにした。
「ただいま」
私は小声で帰りのあいさつをした。
当然、家族はまだ全員寝ている。
睡眠時間などは気にせず、私は紙袋を抱えてリビングへ向かった。
テーブルに紙袋を置くと、中からカサカサと音がした。夜食兼朝食を食べる前に、私は紙袋を開けてみた。
「な……!?」
紙袋の中身は、すべて現金だった。
一万円札が何十にも重なっており、その総額は数百万円に達しそうだった。
焦りと疑念が頭をよぎった。
家族の誰かが犯罪に手を染めたのか? 麻薬の密売? 人身売買? それとも強盗だろうか?
一度正気を取り戻そうと、現金を紙袋へ戻そうとしたのだが、袋の底に貼り付けられていた手紙が引き留める。
手紙を手に取り、私は内容を確認した。
「この度は、私の軽率な行動でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。この袋の中に入っている現金は、すべて迷惑料です。受け取って下さい」
私は確信した。
この棒切れを継ぎ足したような文字。
間違いなく、これは翔の文字だった。
何か、取り返しのつかないことが起ころうとしているのではないか。
もしかしたら、もう手遅れなのではないか。
とにかく、嫌な予感がした。
私は手紙を握りしめ、車に飛び乗った。
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翔の家は、私の家から四キロほど離れた場所にある。
翔はそこで、一人暮らしをしていた。
私は法定速度など無視し、車をハイスピードでかっ飛ばす。
翔の家に着いた頃にはもう、眠気などどこかに吹き飛んでいた。
翔の家のドアノブをひねってみると、鍵はかかっていなかった。
静かにドアを開け、玄関の明かりをつける。
私はその光景に凍りついた。
床には、大量の錠剤やその容器が散乱していた。
錠剤はデロデロに溶けており、鼻の奥を刺すような、かなり刺激の強い匂いを発していた。
おそらくこれは、嘔吐物。
薬の過剰摂取で吐き戻したのだろうか。
「翔! いる!?」
だが、応答はなかった。
「上がるよ! いいね!?」
私はスマホのライトを照らし、一階をくまなく捜索した。
しかし、一階に翔の姿はなかった。
私は階段を駆け上がる。
残されていたのは、翔の作業部屋だけだった。
私は急いでドアを開ける。
電気をつけると、部屋の中には惨劇が広がっていた。
血痕を辿った先に、翔が横たわっていた。
手にはナイフ、床には血溜まり。
翔の首には、深い切り傷があった。
瞬間、絶望が胸をえぐるように襲いかかる。
「誰……だ……? そこにいるのは……?」
「だめ! だめ! 喋っちゃだめ!」
私はすぐに救急車を呼び、部屋の中にあったタオルで翔の首を抑える。
真っ白だったタオルと私の腕は、すぐに血の赤で染まった。
私は翔の顔を見る。
翔の顔は死にかけの青白さで、目は虚ろになっていた。
果たしてこれは、現実なのだろうか?
目の前の光景が真実であると、私は信じられなかった。
信じたくなかった。
翔が何を思って自殺を図ったのか、私は知りたくなかった。
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救急車が到着するまでの約八分は、人生で最も長く感じた時間だった。
救急隊員が担架を持って駆けつけると、翔の状態を急いで確認する。
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
何度も声をかけながら、救急隊員は慎重に翔を担架に乗せた。
私も救急車に同乗し、翔の隣へ座った。
救急車はサイレンを鳴らしながら病院へ急ぐ。
冷たくなってしまった翔の手を握りながら、私は涙ながらに謝り続けた。
翔は、何も悪くない。
悪いのは、嘘をついた私なのに。
全部、私のせいなのに。
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病院に到着したその瞬間、救急隊員の手に託されたままの翔は、医療スタッフによって早急に処置室へ運ばれた。
青白くなった翔の顔が、私の心に深く突き刺さる。
処置室の扉が閉まり、私は一人、取り残される。
救急隊員が何か質問をしてくるが、私は言葉に詰まり、何も答えることができなかった。
私はその場に立ち尽くし、夜が明けていくのをただ見つめていた。
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O sol se pôs no meu mundo.
Vamos.
Este mundo entrará em colapso em breve.
O amanhecer nunca mais virá.




