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俺の嫁を紹介します  作者: るーいん
勇者の嫁
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第2話 山脈の村にて

 南の大陸リディル。

 常に温暖な気候の大陸だ。数多くの山がそびえ立ち、その中央には巨大な火山が存在している。雨期には激しい雨が降り、山脈を恐ろしい速度で駆け抜けていく。怒涛の勢いで水が流れる様からここは『水龍の山脈』と呼ばれている。まぁ、ここには本当に水龍が棲みついていたのだが。


 魔王により強大な魔力を授けられた水龍は、雨と雷を操り、この大陸を人の住めない大陸に変えた。魔王はこの大陸を拠点の一つにするつもりだったようだ。もとより人のあまり立ち寄ることがなかった辺境の地であり、放っておいても問題はないのではないかと思われた。

 しかし、この大陸にはモンスターを活性化させる邪悪な”魔石”が眠っていたのだ。これにより強化されたモンスターはかなり厄介な存在となる。俺たちは脅威を取り除くべく、荒れた海を越えてこの大陸へとやってきた。

 吹き荒れる雨風。狂暴化したモンスターたち。悪条件の中、水龍を倒すのにはかなりの苦労をした。世界一と言われる弓の名手である、俺たちの仲間クインの技により、水龍の右目を打ち抜き、弱体化させることに成功した。丸3日間にも及ぶ死闘だった。そして魔石も破壊することができ、残るモンスターたちも鎮圧でき、大陸は再び人の住める土地となったのであった。


 龍。ドラゴン。それは地上最強の生物。モンスターとは別格の存在。そしてその頂点には──ああ、思い出したくもない。今でも悪夢に見るくらいだ。あれは、はやく忘れよう。うん。


 それにしてもカイルのやつ、本当にこの大陸にいるのか? 鈍った身体を鍛えなおすのにはもってこいの旅だが、この山越えはさすがにきつい。雨期ではないのが幸いだが、目的地につくまでどれくらいかかるのやら。

 

 ……囲まれているな。

 そういえばここは”連中”の住み家だったか。あちこちに洞穴がある。気が付かないうちに連中の集落に足を踏み入れてしまっていたか。まぁ、何もしなけりゃ襲ってくることもないだろう。なんて気構えでいたら、足元に矢が飛んできた。そしてそいつらは、ぞろぞろと姿を現した。


「悪かった。別にあんたらの生活を脅かすつもりはないんだ。ここを通してくれないか」

 連中はぎょろぎょろした爬虫類の目で俺を観察している。鱗に覆われた緑色や茶色の皮膚。手には剣や弓を持っている。

 こいつらはリザードマンという種族のモンスターだ。人間の武器を使いこなすだけの知恵を持ち、集団で相手を襲うなかなかの強敵だ。高低差のあるこの山脈の地形では手を焼いたな。

 見れば女子供もいる。なんだか異様な雰囲気だ。リザードマンたちはじりじりと距離を詰めてくる。

 どうする? 俺は身構えた。簡単には逃げられそうにない。となれば一戦交えるしかないか。俺は剣に手をかけた。その時──。


 リザードマンたちが俺の前でいっせいにひざまずいた。


「オマエは勇者カイルの仲間だな。我々に力を貸していただきたい」

「は?」

「我々の住み家が、魔石により巨大・狂暴化したワームたちに荒らされて困っている。お願いだ。どうか、力を」

 あたりから悲痛な鳴き声が聞こえてきた。


 リザードマンの一人が俺に話したことによると、この大陸にはまだ魔石が眠っていたらしい。それをワーム……簡単に言うとミミズのバケモンだな。そいつが取り込んでしまったらしい。見境なく大暴れしているようで、リザードマンをはじめとする山脈のモンスターたちに大きな被害がでてしまっているという。


「事情はわかったが……俺なんかに頼んでいいのか。俺はあんたらの仲間を大勢殺したんだぜ」

「それは我々も同じだ。それに今はそんなことを気にしている場合ではない。我々は我々の家族をなんとしても守らなくてはならないのだ。このままでは、我々は……頼む。この通りだ」

 リザードマンは頭を深く下げた。

「カイルはどうした。あんたらも知っているんだろう。勇者カイルがこの大陸にいるって」

「ああ。彼が住んでいるという最南端に使いを出した。しかし、彼は見つからなかったんだ」

「なんだって?」

 カイルが見つからない? どういうことだ。あいつはまさか今、この大陸にいないとか?

 いずれにしても真相を確かめなきゃならない。そしてどうやら、最南端にたどり着くにはワームを倒さなきゃならないようだ。


「いいぜ。バケモノミミズは俺が引き受けた」

「おぉ! 本当か!? 早速戦士を集めてくる」

「いや、その必要はない。俺一人でやる」

「なに!? いや、無茶だ。あんたの実力は知っているが、あの狂暴となったワームは……」

 俺はそのリザードマンに詰め寄った。

「あんた、本当に俺の実力を知っているのか?」

「う……あ……」


 知らないだろう。俺が勇者の仲間の中で一番モンスターを殺し、魔王との戦いでもヤツに致命傷を負わせて追い詰めたことも。血に染まり、来る日も来る日も戦い、殺し続けた、忌まわしき俺の力を。その禍々しい姿を。


「そんじゃま、行ってくるぜ。朗報を待ってな」

「あ、あぁ……」

 久々にやるか。俺は首をゴキゴキと鳴らし、邪悪な気配のする方角へと歩き始めた。



 ま、そこからは血なまぐさい話しになるから省こう。

 簡潔に言うと、バケモノミミズは片っ端からズタズタにぶったぎってやった。全部で6匹もいやがった。あいつらが飲み込んだ魔石も粉々に砕いた。少しは身体が動くようになってきたかな。


「あ、ありがとう! まさか本当に一人で……なんと感謝していいのか……」

「あなたは我々の救世主だ! お礼にこの集落の宝をなんでも持って行ってくれ」

 リザードマンたちは涙を流し喜んだ。それだけしんどい目に遭ってたということだな。

「礼をされることでもねぇよ。何もいらない」

「そんな! それでは我々の気がすまない」

「そうだ! よければこの集落の守り神としてずっといてくれないか? そうすれば我々は安心して暮らせる。もちろん、不自由させない。この集落一の美女もあてがおう!」

「そうだ、住んでもらおう」

 なんか勝手に盛り上がり始めたぞ。気持ちはありがたいが、そういうのはちょっとなぁ。それにリザードマンの美女ってなんだ。かろうじて胸のふくらみのようなもので男女の区別はつくが、基本みんな同じにしか見えないのだが俺には。

 ま、なんだ。感謝されるのは悪い気がしないな。


 俺はぎゃあぎゃあ騒ぐリザードマンの輪からこっそり抜け出し、先を急ぐことにした。

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