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第8話 掴み

翌日、朝一番で――今日は休み――ビートに連れられ女子寮へと向かう。

女の花園なので、当然俺は行った事のない場所だ。


場所は学園の西側にあり、距離的には徒歩で30分って所である。

この学園は無駄にクッソ広いので、寮までの距離の遠い事遠い事。


言うまでもないとは思うが、金持ちの子女は徒歩ではなくお抱えの馬車で移動している。


女子寮は森に囲まれる立地で、そこまでの道には夜間用の街灯兼結界発生装置が等間隔で設置されていた。

当然、結界は女子寮一帯にも張られている。

悪漢などが忍び込まない様にするための対策だろう。


因みに一帯と言ったのは、女子寮の規模が偉い事になっているからだ。


広大な敷地内には、図書館や宮殿みたいな豪勢な建物がいくつも立っていた。

それらが全て女子に用意された寮で、明らかに一般的な物とはグレードが違っている。


「待て!ここから先は貴様の入っていい所ではない!!」


寮の並び立つ敷地内への出入り口は一か所で、巨大な門を数人の門番が固めていた。

そこをビートは顔パスで通過な訳だが、当然の様に衛兵が俺の前に立ちはだかって来る。


俺の顔を知らなくても、勇者の直ぐ横に並んでる時点で関係者だって分かるだろうに。

融通効かなさすぎ。


「彼は僕の友人で、勇者だ」


「……そうですか、失礼しました」


ビートの一言で衛兵達が頭を下げる。

俺ではなく、ビートに対して。


こっちを見もしない所を見ると、俺がEランクの勇者だと知ってて止めたっぽいな。

ふざけた奴らだ。

まあ今回は見逃すが、次同じ様な事したら地獄を見せてやる。

顔はちゃんと覚えたからな。


「あそこに一人で住んでるのか。ベヒモスは」


女子寮の中でも、最も目立つ4つの巨大な宮殿だった。

そこは4大家門専用だそうだ。

北側にあるのがゲンブー家の所有らしく、俺とビートはそこへと向かう。


「使用人や、寄子の女子達もここで生活してるみたいだね」


寄子ってのは、高位貴族が世話する下位貴族の事である。

まあ要は、取り巻きの下っ端だ。


「ようこそおいで下さいました」


入り口には鎧を身に着けた女性の騎士が立っており、俺達を中へと案内してくれる。


戦闘能力は300万程。

学園の警備兵よりも強い。

流石4大家門って所なのだろう。


ま、俺から見たらどっちも糞弱いが。

因みに、ビートは戦闘力1200万でBランクの勇者だ。


内部は豪華な外観から想像できる通り、良く分からん謎の像や派手な壺がインテリアとして配置されていた。

俺には全く価値が分からんが、きっと無駄に糞高いに違いない。


「少々お待ちください」


騎士に客室に案内された俺達は、そこでしばらく待たされる事に。

まあ朝早く訪ねてる訳だからな。

女は色々と用意に時間がかかるというし、これは仕方がない事と割り切ろう。


「金かよ」


客室のソファに座ると、室内にいたメイド服姿の女性が紅茶を入れてくれる。

その際のカップが、見事にキンキラキンだった。


チラリと壁に目をやると、ベヒモスの肖像画がかかっている。

美人ではあるが、鼻につくムカつく顔だ。


前々から思ってたんだが、縦巻ロールって何考えてあの形に行きついたんだ?

俺には果てしなくアホっぽく見えるんだが。


「派手好きだな。ゲンブー家は」


「4大家門ともなると、自らの権勢を周囲にひけらかす必要があるからね。まあ少々派手過ぎるきらいはあるけど」


見栄っ張りと言う奴か。

まあ、お貴族様は他人に舐められるのが嫌いらしいからな。

だからこそ俺がぶん殴った事も、水面下で処理しようとしている訳だ。


広まれば醜聞になるから。


「お待たせしました。ベヒモス様がお待ちです」


扉がノックされ、執事姿の女性が客室に入って来た。

その女性の案内で、観音開きの派手な扉――金と緑の緻密な細工で、亀みたいなのが彫り込まれていた――の前に案内される。


彼女がゆっくり扉を開けると、むわっと甘ったるい花の香りが俺の鼻を突いた。


「庭園か……」


扉の先は庭園になっており、色とりどりの花の鮮やかな色彩が飛び込んで来る。


何だろう。

こう、なんて言うか。

何かイラっとする。


ま、そんな個人的な感情は置いておこう。

庭園には日傘付きの丸テーブルがいくつか並べられており、そこには5人の女性が座って優美にお茶をしていた。

例の5人だ。


反省のはの字も感じられないその姿に、突っ込んで行って問答無用で全員ぶっ飛ばしたい気持ちが、さっき感じたイラつきと相まって湧き上がって来る。


だがここは我慢だ。

ビートの顔を立てると決めたからな。

優美にお茶しているのがムカつくくらいで暴れるのは控えねば。


俺は自分を落ち着かせるため、心の中で大きく深呼吸した。


「ごきげんよう、ビート様。それと……勇者墓地」


彼女達の元へ行くと、ベヒモスの方から挨拶して来た。

その顔は笑顔だが、俺の名を呼ぶ際は明らかに刺々しい感じだった。

不機嫌さを隠すつもりはないらしい。


「ごきげんよう。ベヒモスさん。それに皆さんも」


ビートが丁寧に挨拶を返す。

取り敢えず、俺もフレンドリーに挨拶を返しておく。

掴みは重要っていうからな。


「オッス!オラ無双!正義の味方だ!」

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