第1話 笑顔
俺の名は墓地無双。
地球人だ。
色々あって異世界に召喚され。
色々あって地球の神に帰還を拒否され。
色々あって今は魔界と呼ばれる世界へとやって来た勇者。
そして色々あって、今日から魔界にある魔天聖愛学園に通う事になっている。
え?
なにがどう色々かだって?
兎に角いろいろだよ。
察しろアスペ。
「今日からこのクラスに編入される事になったムソウ君だ。種族はボッチという……辺境に住まう少数種族だそうだ」
オークっぽい見た目の教師が俺を紹介する。
ボッチなんて種族は、実際はこの魔界には存在していない。
学園に通うにあたってでっち上げた種族である。
「自己紹介をしなさい」
「ムソウだ。見ての通り平凡なにん……じゃなくて、魔物だからこれからよろしく頼む」
俺とした事が、危うく人間と名乗る所だった。
人間が魔物達に滅ぼされた世界で、もし人間とバレれば酷いめにあってしまう。
――それを聞いたクラスの奴らが。
口封じしないといけないからな。
心をべきべきととへし折り、呪いで俺に絶対服従を誓わせると言った感じに。
個人的には、余りそういった感じの荒事はしたくない。
なにせ俺は善良な人間だからな。
なにより……面倒くさいし。
因みに、人間と分からない様に見た目の方もちゃんと弄ってある。
モヒカン頭に口元には五角形の紐無しマスクを着用するマンジスタイルだ。
更に、オマケで額からは小さな角も生やしておいた。
この姿を見て、俺を人間と考える奴はいないだろう。
マンジスタイルが分からない良い子は、男塾、マンジでググるといいだろう。
「おいおい、聞こえねーぞ。もっとはっきり喋りやがれ」
一番奥の窓際の席。
一つ目のワニ頭の生徒が、挑発的なやじを飛ばして来た。
恐らく、クラスを仕切る不良って所だろう。
普段なら即グーパンで昇天させる所だが、今日は登校初日だ。
変な騒ぎを起こすのは控えておく事にする。
――等とは全く思わない。
俺に喧嘩売って、タダで済むと思ったら大間違いだ。
俺はフンと鼻を鳴らす。
飛び出す鼻腔内の無数の鼻糞達。
それを高速で手に取り、光の速さでクラス中にばらまく。
「我ながら完璧だ」
放った鼻糞は寸分たがわず教師を含めたクラス全員の額を打ち抜き、一発で気絶させる。
一連の動きは超高速だったので、俺に気絶させられた事に気付いた奴はいないだろう。
――さあ、俺様の時間だ。
「さて……どうしたもんかな」
不良と言えば血気盛ん。
という事で――
「少しは大人しくなるよう、こいつには乙女心を知って貰うとしよう」
気絶しているワニオの口の周りに、べたべたと赤い口紅を塗りたくる。
正確には紅ではなく、結界をアレンジした着色だ。
この結界による着色は、効果期間中は洗っても絶対に落ちず――とりあえず1週間ほどにしておこうか。
上から色を塗ってもはじき返し。
更にマスクなんかを付けても吹っ飛飛ばすカウンター効果を持つ、素敵仕様となっている。
そのため、落としたり隠したりする事は絶対出来ない。
どうだ?
ワクワクするだろ?
「アイシャドーはきつめの紫。チークは白で、と」
ぬりぬり。
ぬりぬり。
ああ、もちろんこの二つも結界着色な。
「そして最後は……」
額に乙女を表す乙の文字を、キラキラ光るピンク色で書いてやった。
「よし、これでどこからどう見ても立派な乙女だな」
用事も済んだので元の場所に戻ろうとして――
「ん?こいつもこのクラスだったのか」
ポニーテールの少女――知り合いに気付いて足を止める。
気絶させる時は腹が立っていたので全く気づかなかった。
彼女の名はモモミ。
ぱっと見は人間っぽい見た目だが、体中に目玉のあるタイプの魔物だ。
実は俺がこの魔界にやって来て最初に知り合った少女であり(その出会いは曲がり角でぶつかるというロマンチックな物だった)その後なんやかんやあって、彼女は――
俺の忠実な下僕一号となっている。
「しかしアレだな……こう目玉が並んでると、串を使ってたこ焼きみたいにクリンクリンしたくなるよな」
これだけ一杯目玉があるんだし、何個かやっても問題ない気もする。
「ま、俺は紳士だから止めといてやろう」
まあこいつが何かやらかした時用の、罰として温めておく事にしよう。
その日が来るのが楽しみだ。
「さて……」
教壇まで戻った俺は、倒れている教師を立たせてから指を鳴らす。
その瞬間、気絶していたクラスの生徒達が一斉に目を覚ました。
完璧なモーニングコールである。
「んん?」
「あれ?何で私机に突っ伏してるの?」
「なんだなんだ?」
「何が起きた?」
急に机に突っ伏していた事で、混乱する生徒達。
「カイマン!お前何だその顔!?」
「ちょ……」
「おいおい、マジかよ」
そんな中、バッチリメイクを決めたワニオに気付いた生徒達が騒ぎ出す。
本人は何が起こったのか分からず、周りの反応におろおろだ。
そして――
「ぶっははは、お前そんな趣味あったのかよ」
一人、二人とその顔に笑い出す。
「やだぁ」
「ぶぶぶ……カイマンお前……ぶふっ」
「ぎゃははははは」
笑いは連鎖する物だ。
クラス中に響く笑い声。
――この日、俺のクラスに笑顔の花が咲き誇った。
翌日からワニオがしばらく登校拒否になった訳だが、まあ気にする程の事でもないだろう。
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