第62話 追放
「ぅ……ん……」
「気が付いたかい?」
僕の腕の中で、リリスが目を覚ます。
墓地君の拳を受けて跡形もなく消滅してしまったリリスだったが、墓地君の蘇生魔法で問題なく復活させて貰っている。
本当にその行為が問題ないかは……まあこの際置いておこう。
「あたし、確かボッチーに殴られて……」
「うん。気絶してたんだよ」
死んだって言うのは流石にショッキングだろうから、気絶していたって事にしておく。
「そっか……何だか変な川を渡った気がしたんだけど……」
「ははは、それきっと夢だよ」
「夢……そっか、夢か。にしても、ほんっと手が早いんだから。そういや、ボッチーは?」
「彼なら君の為に、漫画ってのを取りに行ってくれてるよ」
リリスを蘇生した後、彼は次元に大きな穴を開けて漫画を取りに地球へと向かってくれていた。
なんだかんだ言って、彼は優しい所がある。
まあ、単に殴り殺したお詫びってだけな気がしなくもないけど……
「そうなんだ。ちゃんと取りに行ってくれるあたり、これで発作的に殴りかかって来る所がなければ良い人なのにねぇ。ボッチーは」
「ははは、そうだね」
そうなったらそうなったで、それはもう墓地君でも何でもないような気もするけど。
最悪の悪事には手を染めたりはしないけど、何処までも理不尽。
いいか悪いかは別として、それが墓地無双って人間な訳だからね。
「ぐわっ!?」
「えっ!?」
急に空間に穴が開いたかと思ったら、墓地君がその穴から勢いよく飛び出してきて地面に転がる。
何故か彼の姿はボロボロで、まるで激しい戦いの跡の様に見えた。
いったい何があったというのか?
「あんの……糞神が!この墓地様を舐めんなよ!!」
墓地君は一瞬で起き上り、飛び出して来た穴へと突っ込む。
だが、彼の体がその穴に触れた瞬間――
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
凄まじい衝撃が発生し、僕とリリスは吹き飛ばされてしまう。
僕は咄嗟にリリスを抱え、自分をクッションにする様に地面を転がる。
いったい何が……
「リリス、大丈夫?」
「う、うん」
幸いけがはしていない。
僕はリリスと立ち上がり、墓地君の方を見た。
「くそっ!結界なんざ張りやがって!!ざっけんな!!開けろ!オラ!!」
墓地君が罵りながら、穴を何度も叩く。
その度に轟音と共に、凄まじい衝撃波が発生する。
「墓地君!何をやってるんだ!?」
墓地君が穴を殴るのを止め、今度は掴みかかって力ずくで何かをしようとする。
取り敢えず衝撃波は収まったので、僕は彼に近づいて声をかけた。
「見てわかるんだろうが!神の張った結界をぶち壊そうとしてるんだよ!!」
「神?」
神?
結界?
いったい彼は何を言っているのだろうか?
「くそっ、破れやしねぇ!覚えてろよ!俺はやられたら絶対倍に返すからな!!」
「お……落ち着いてくれ、墓地君。一体何があったっていうんだい?僕には何が何だかサッパリだ」
「あん?ああ、まあ……」
墓地君が不機嫌そうに、事のいきさつを僕へと告げる。
それは信じがたい様な内容だった。
「えーっと、纏めると……墓地君の故郷である地球に戻ったら、神様に急に召喚されたと?」
「ああ。あの野郎……俺みたいな危険生物がうろうろするのは迷惑だから、二度と地球に帰ってくんなとかふざけた事ぬかしやがって」
神がいるという事実には驚きだ。
そしてその神から、二度と戻って来るなと彼が言われた事も。
だがもっと驚くべき事は――
「だからムカついて殴り掛かったと?」
――墓地君が当たり前の様に、神様に殴り掛かった事である。
いくら腹が立ったからと言って、普通は神様に殴り掛かったりはしない。
彼がとんでもない性格だと把握していたつもりだったけど、その性格は完全に予想の遥か上だった。
どうやら僕は、彼の事を良い意味で過小評価していた様だ。
「ったりめーだ。この俺に喧嘩を売って、タダで済むと思ったらお大間違いだぜ」
「で、叩きのめされておいだされた……ねぇ。神様なんて存在相手に、よくやるわね。まあそれはいいとして、私の漫画はどうなったの?」
リリスが漫画の催促する。
その言葉を聞いた墓地君が、ニッコリと笑う。
その瞬間、僕はリリスを庇う様に動いた。
何故だか、本能的に凄く嫌な予感がしたからだ。
――次の瞬間、視界が黒一色に染まる。
「う……うぅ……」
気づいたら、僕は地面に倒れていた。
「何だか大きな川を渡った所で……墓地君に襟首掴まれて引きずり戻された様な……」
夢だろうか?
それにしては生々しかったような……
「はっ!?」
意識がハッキリしてきて、直ぐ横にリリスが倒れている事に気付く。
僕は慌てて起き上がり、彼女の状態を確認する。
「良かった。気を失っているだけだ……」
特に異常は見当たらず、規則正しく呼吸する彼女に僕は安堵した。
「お、気が付いたか」
「墓地君?」
墓地君は右掌を上に上げるポーズで、何かをしていた。
それが分かったのは、彼の掌の上で視認できる程の高濃度の魔力が渦巻いていたからだ。
いったい何をしているんだろうか?
「別に礼はいらないぞ?」
「えーっと、何のお礼をだい?」
「良い経験できただろ?死ぬなんて経験、早々――って、そういやお前いっぺん死んで転生してるんだっけか?」
「ああ、まあね。一回目の事は全く覚えていないけど」
何となくそんな気はしていたが、やっぱりあれは夢ではなかった様だ。
墓地君に死者蘇生。
そんな言葉が頭を過る。
「っと、出来た」
「出来た?」
墓地君の右手の魔力が凝縮して行き、ノートサイズの黒い板に変わる。
「チートタブレットさ」
「チートタブレット?」
聞いた事のない名前だ。
「これを使えば地球の漫画は読み放題だ。動力源は魔力を流し込めばいい。使い方はまあ、適当に弄って覚えろってリリスに言っとけ」
「ああ、リリスの為に態々作ってくれたんだね。ありがとう」
「お前らぶち殺したお陰で、少し怒りがスッキリしたからな。まあそのお返しだから気にすんな」
「ははは……」
何とも返事しがたい。
彼の怒りが収まり、リリスも欲しがっていた物を手に入れられたのだから、まあ深く考えるのは止めておく事にしよう。
「んじゃま、地球の神への復讐は暫くは無理そうだから……まあちょっくら先に、異世界の野暮用片付けてくらぁ」
そう言うと墓地君は空間に穴を開け、異世界へと旅立って行った。
どうやら神様への復讐を諦めるつもりはない様だ。
「まったく本当……嵐みたいな人だよ、君は」
居なくなった墓地君に向かって呟く。
彼は正に、全てを吹き飛ばす暴風。
理不尽の権化。
……そりゃまあ、神様も追放したくなるよね。
『追放END!』
つづく……
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。




