第60話 そんな貴方に!
「ぐぅぅぅぅ……」
粉々にしたはずの魔神帝の肉体が空中で再生していく。
俺とした事が、死ぬ程強くなってテンション上がったせいで普通の攻撃で死なない事をすっかり忘れていた。
失敗失敗。
「今の一撃で殺す事も出来たけど、敢えて殺さなかった理由が分るか?それはテメーに絶望を与える為だ。どう足掻いても、勝ち目がないって事がこれで身に染みただろう」
我ながらナイス言い訳である。
これで俺のうっかりを疑う奴はいまい。
「おのれ……おのれおのれおのれ……」
魔神帝が怒りの眼差しを此方へと向ける。
まるでそれだけで人が殺せそうな殺気の籠った物だが、今の俺からすれば、コンビニ前でたむろしてる不良のメンチと大差ない。
ざ、無駄。
「さて、じゃあ絶望も叩き込めたことだし……あの世に送ってやるぜ。超特機急便でな」
「ふざけるな!貴様などに好きにさせる物か!!」
魔神帝が右手を伸ばし吠える。
だがその手の向いた方向は俺ではなく、ビート達の方にだった。
「あ、あぁぁ……」
その瞬間、リリスが苦悶の声を上げる。
何かを感じ、目を凝らしてみると……
奴の手から細い黒い光が伸び、それがリリスへと絡みついているのが見えた。
触手プレイか?
「リリス!」
「う、駄目……私から……離れて」
心配するビートを、リリスが突き放す。
唐突に始まる痴話げんか……
ではなく、どうやら体のコントロールを奪われた様だ。
「動くな!動けばリリスを自爆させるぞ」
「――なっ!?」
魔神帝の脅し文句に、ビートが固まる。
が、俺は鼻をホジホジしながら――
「え?リリスって自爆スイッチ完備してんの?やるじゃん」
――その言葉を茶化す。
自爆は男のロマン
という冗談は置いといて。
俺に取れる選択肢は2つ。
一つ。
面倒くさいので、リリスは気にせず魔神帝をぶち殺す。
え?
その場合リリスが死ぬんじゃないかって?
うん。
死ぬだろうな。
けどまあ、問題ない。
――何故なら、死んでも生き返らせればいいだけだし。
パワーアップしたお陰で、今の俺なら問題なく死者を蘇らせる事が出来る。
それも以前の様な直ぐに回復させてと言った中途半端なものではなく、粉々にして1年ほど熟成させても問題ないレベルの完璧な死者蘇生だ。
だから死んでも全く問題ない。
ハッキリ言って、これは有難い能力だった。
どれぐらい有難いかと言うと――
★☆★☆★☆★☆★
やあ皆さん。
ぶち殺せばいい相手はともかく、ちょっとしたお仕置きの際に手加減して殴るのって、凄く面倒ですよね?
そんなあなたに朗報!
此れさえあれば手加減不要!
頑固な死亡も、死者蘇生いっぱつであら不思議!
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的な、脳内コマーシャル流れて来そうな程の便利能力である。
いいもん手に入れたぜ。
「墓地君……」
ビートが泣きそうな顔で俺を見る。
リリスを助けてくれと言いたいのだろうが、さっきそれをして追い込まれたからな。
流石に奴も同じ事を繰り返す様な真似は出来ないのだろう。
死んでも全く問題ないんだが、そもそも惚れた女が爆死する姿なんか見たくないだろうし……
「ま、もう一つの方で行くか……」
たぶんできる筈。
俺はリリスに向かって軽く手を振る。
すると彼女に絡まっていた黒い光が、一瞬で霧散した。
「は……ぁ……体が自由に……」
「リリス!」
苦しそうにしていたリリスが解放され、彼女はその場にへたり込む。
そこにビートが慌てて駆け寄り、その体を抱きしめた。
「馬鹿な……我が支配の力をどうやって……」
「この墓地無双様に、不可能はないんでね」
鼻をホジホジしつつ、そう答える。
見えない時は流石にどうしようもなかったが、見えてしまえばどうって事はない。
理不尽な支配を、更なる理不尽で解除してやったまで。
「墓地君!ありがとう!!」
「こんど飯奢れよ」
「ああ、いくらでも……」
これは凄いな……
俺は鼻の中からかき集めた、人生最大レベルの鼻糞を取り出し悦に浸る。
完全にギネス物だ。
俺の鼻の中に、いったいどうやってこれだけの無限の可能性が詰まっていたのか。
正に奇跡としか言いようが無いデカさである。
「さて、死ぬ準備は出来たか?」
「くぅぅぅ……仕方がない。この手だけは使いたくなかったのだが、こうなったら――」
死の宣告をすると、魔神帝が飛び上がる。
逃げるつもりかとも思ったが、その動きは上空でピタリと止まり、奴は天に向かってその両手を掲げた。
「周りのエネルギー吸収してんな」
周囲からの自然エネルギーを吸収し、奴はそこに自身の力を合わせて巨大なエネルギーの塊を生み出す。
「それに……」
それは時間の経過に伴い巨大化して行き、それと同時に魔神帝の体から生気が失われていく。
どうやら奴は自分の命――魂か?――すらも、次の一撃に注ぎ込んでいる様だ。
ほぼ自爆攻撃だな。
「ふはははは!この大陸ごと消し飛ばしてやる!!」
さっき俺達に放った物の、倍以上の大きさ。
そのエネルギー密度も陪以上。
確かにこんなのが炸裂したら、偉い事になりそうではある。
――炸裂したら、の話ではあるが。
俺が途中妨害せずぼーっと見てる時点で、まあ分かるだろ?
「消えろ!すべて消えてしまえ!!ははははははは!!」
魔神帝の肉体はもうほぼ骨と皮だけ。
眼にも生気がない。
だが奴は高らかに笑いながら、その手を振り落とした。
落ちて来る巨大なエネルギーの塊。
ビート達は何も言わず、黙って俺の方を見ている。
二人は信じているのだろう。
俺という男の理不尽を。
「期待には応えんとな。見せてやるぜ、墓地スペシャルを!!」
俺は人差し指の第一関節とほぼ同レベルサイズの鼻糞を、親指で弾いて飛ばす。
上空から落ちて来る、巨大なエネルギーの塊に向かって。
「墓地君!?流石にそれはちょっと……」
「まあ見てろって」
俺の鼻糞が大空に向かって羽搏く。
そして天から降って来る、まるで太陽の様なエネルギーの塊と接触した。
その瞬間――
「――っ!?」
俺の鼻糞がそのエネルギーを瞬く間に吸収し、空を覆わんばかりの黒い球体へと生まれ変わっていく。
それを目の当たりにしたビート達が息を飲む。
「これが俺の奥義!鼻糞超新星だ」
魔神帝の一撃を喰らいつくした俺のスーパー・ノヴァは、魔神帝へと向かって一直線に上昇して行く。
「馬鹿な!そんな馬鹿な!我の全てを掛けた一撃が――」
魔神帝が上空で何かほざいていたが、それを俺の鼻糞が丸呑みする。
もちろん、不死を殺す効果も付与済みだ。
こんどは抜かりなし。
魔神帝を飲み込んだスーパー・ノヴァがぐんぐんと高度を上げ、大気圏を突き破った所で大爆発する。
その黒い光は、世界を暗闇に染め上げた。
「へっ、汚ねぇ花火だぜ」
言葉通り。
本当に。
「うっ……」
決め台詞後にドヤ顔していると、急に頭の中に何かが流れ込んで来る感覚に不快感を覚える。
「強くなって、周囲への感度が上がり過ぎた弊害か……」
流れ込んで来たのは、魔神帝の記憶だった。
胸糞の悪い。
まあそりゃ世界滅ぼすよねって感じの記憶だ。
「気持ちよくスッキリ終わる筈だったってのに、気分悪いもん見ちまったぜ」
まあ見てしまった物はしょうがない。
胸糞悪い気分を一掃する為に、ちょっくら暴れに行くとするか。
――――
次回!
続・最終回!
『グーパン』




