第52話 足し算
ビートと共に、空を飛んで魔神帝の封印へと俺は向かう。
もちろん一旦地上に戻り、服は身に着けている。
魔神帝親子も、女王もビートも一切触れて来なかったが、流石にそのままフルチンで動き回るのもアレだったからな。
その際中、ビートの前世について話を聞かされた。
「俺ならその場で全員処刑だな」
確実に。
生かしておく理由が微塵もない。
「人は弱い生き物なんだよ、墓地君。彼らもきっと怖かったんだと思う」
ビートの口調からは、恨みつらみは全く感じられなかった。
どうやら、自分を裏切った奴等を恨んではいない様だ。
……お人好しもここまで来ると、もはや病気だな。
ビートの考えや思考が、俺には全く理解できない。
けどまあ、本人がそれで納得してるのなら構わないだろう。
「それにもう……200年も前の話だからね。皆死んでるのに、今更復讐も何もないさ」
「ま、そりゃそうだ」
血を引いてる奴ら――王家の奴等――はいるが、ただ子孫ってだけのそいつらに何かするのは流石に筋が通らない。
……まあそれでも、俺ならぶん殴るぐらいはするけど。
理不尽?
世の中ってのはな、理不尽に出来てるもんなんだよ。
「あそこだ!」
遠方に、白くてデカいドーム状のエネルギーの塊が見えた。
どうやら、あれがカモネギを裏切って生み出された封印の様だ。
「リリス!」
その封印の真上に、リリスが浮かんでいた。
不敵な笑みを浮かべて。
どうやら俺達を待ち構えていたみたいだな。
「尻尾撒いて逃げた癖に、随分と堂々としてるじゃねーか。そんなに死にてーのか?」
リリスを殺して蘇生させる――だるまさんが転んだ作戦は、もう実行するつもりはなかった。
即時に蘇生したら魔神帝が離れない可能性が高いのと、特殊な生命体であるリリスは蘇生できない可能性があるからだ――ビートに言われて気づいた。
「ほう……私を殺すのかね?果たして、貴様達にそれが出来るかな?」
そう言うと、魔神帝が高度を下げる。
そしてその足が結界に触れ――
「――っ!?」
――その下半身が白い結界の中に飲み込まれていく。
「リリスが封印の中に!?」
「この宝玉は封印と繋がっていてな。中から外に出る事は出来ないが……こうやって外部の物を取り込むぐらいのコントロールは出来る」
どんどんとリリスの体が結界の中に消えていく。
「くくく……娘を助けたければ、この結界をどうにかする事だな」
最後にそう告げると、魔神帝の姿は完全に封印の中に消えてしまう。
「言われなくても、最初からそのつもりだっての」
作戦はこうだ。
まず、俺とビートの力押しで結界を破壊する。
そしてリリスをビートが押さえ、その間に俺が魔神帝をボコボコにするという完璧な物だ。
余談だが、魔神帝とは自分で決着付けたいだろうと、最初俺がリリスを押さえる役目を買って出たのだが――
「君に彼女を任すのは不安があるから」
――とビートにはすげなく断られている。
信頼ゼロ!
魔神帝を倒した後で、全力でぶん殴ってやるとしよう。
何せ俺は、信頼を殴って勝ち取る派だからな。
暴力万歳!
「墓地君、僕に合わせてくれ」
「へいへい」
ビートが力を拳に溜め、結界に叩きつける。
それに合わせて、俺も全力で結界を殴りつけた。
二人分のパワーを受け『ピキィ』と乾いた音が響き、結界に大きな亀裂が走る。
「へ、楽勝だな」
「流石に……今の僕と墓地君のパワーには、この封印も耐えられないさ」
亀裂が封印全体に広がっていき、そして崩壊する。
まるでガラスを割ったかの様に表面が粉々に砕け散り、結界は光の粒子へと変わていく。
「ん?なんだ?」
「これは……」
――異変。
砕けた光の粒子がまるで吸い込まれるかの様に、封印の中央に急激に集まっていく。
その中心部分には、男女の人影があった。
魔神帝とリリスだ。
魔神帝は浅黒い肌をしており、頭部には角。
そして背中には蝙蝠の様な羽が生えていた。
典型的な、ザ・魔王って感じの見た目だ。
「リリス!」
リリスは項垂れる様な姿で、ピクリとも動かない。
そしてその横にいる魔神帝の胸元には、赤く光る宝玉が輝いていた。
「なんだ?まさか吸い込んでんのか!?」
奴の胸元の宝玉には、砕けた封印の欠片――光の粒子が凄い勢いで吸い込まれていくのがハッキリと見えた。
果てしなく嫌な予感がしてしょうがない。
何故なら、ボスってのはパワーアップするのが定番だからだ。
「させるかよ!」
変身やパワーアップ中は手を出さないのがお約束?
漫画の見過ぎだ。
現実で、相手に力を付けるチャンスなんざくれてやる必要などない。
「墓地君!待ってくれ!」
俺が突っ込もうとした途端、魔神帝はリリスの首を掴んで前に出し、その首筋に鋭い爪先を向けた。
来たらリリスを殺すという脅しなのだろう。
それに反応したビートが、俺の動きを制して来る。
「お前なぁ……」
「頼む……墓地君」
「ちっ、どうなっても知らないぞ」
ビートの気持ちは……まあ俺にだって分からなくもない。
何せ、奴は200年近くもリリスとの再会を待っていた訳だからな。
――光の欠片がドンドンと赤い宝玉に吸いこまれていく。
「はははははははは!!」
やがて、全ての光を吸収し終えた魔神帝が高笑いを上げる。
正に御機嫌って感じだ。
「封印を破壊してくれて感謝する!お蔭で……カモネギの遺した力を吸収する事が出来た!今の私は無敵だ!!」
嫌な予感がしつつも、俺は魔神帝の力を確認する。
そして思わず呟いた。
「マジかよ……」
魔神帝の力は、元々はカモネギと同程度だ。
話を聞く限りだと、10億ぐらいだと推測できる。
だが、カモネギの力を吸収した奴の今の力は――
「20億とか、洒落になってねぇぞ……」
10億足す10億は20億?
足し算で丸々パワーアップするとか……どんなシンプルな造りしてんだよ。
「ふざけんな」
そう俺は吐き捨てた。
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