第47話 悪い笑い方
「げ……宝玉も修復すんのかよ」
なんとかリリスの体を解放できないかと思い、突っ込んで体に埋め込まれている宝玉を引っこ抜いたのだが……
体から離れた瞬間、宝玉が粉々に砕け散る。
そして何事もなかったかの様に、彼女の胸元で再生してしまった。
どうやら切り離すという手段では駄目な様だ。
「くくく、無駄だ。もはや宝玉と娘の体は完全に融合しているからな」
魔神帝の物言いにイラっとしたので、その不敵に笑う顔面をキックで粉砕してやる。
まあ直ぐに修復されてしまうが。
「効かん!効かんぞ!!」
そう言いながら、奴が鋭く伸びた赤黒い爪――指先が変形した物――で襲い掛かって来た。
俺はそれを軽く片手で払い、今度は胴体を回し蹴りで粉砕してやった。
ま、これもすぐに回復してしまう訳だが。
「全く、面倒くさい事この上なしだな」
不死身とかマジ勘弁。
だがまあ、戦闘自体は楽勝だった。
戦闘力の差は1億程。
普通に考えればもっと梃子摺りそうなものだが、戦いは完全に俺のワンサイドゲームと化していた。
寧ろ不死身でなけりゃ、最初の5秒で片が付いているレベルだ。
「しかし、何でこんなに楽勝なんだ?ひょっとして……」
自分が強くなっているのではないか?
そんな考えに至り、俺は魔神帝を吹っ飛ばしつつ自分の戦闘力を確認する。
すると、10億だったはずの戦闘力が13億にまで上がっていた。
「やっぱ強くなってんな。となると、あれもそのせいか……」
ちょい前に、手加減を誤ってゲンブー家の爺さんを殺してしまった事がある。
まあ即座に蘇生させたからノーカンだが。
そう、ノーカン。
あれはきっと、強くなった事で力加減を誤ってしまったためだろう。
「その前までは、そんな事無かったよな?」
「ふん!隙だらけだぞ!」
「そんなもんねぇよ」
攻撃を仕掛けて来る魔神帝を適当に吹っ飛ばしつつ、俺は更に考える。
どのタイミングで強くなったのか、と。
爺さんの直前に殴ったベヒモスは、死んでいない。
まあだが彼女に関しては、死なないギリギリラインを責めず、かなり緩めに殴ったからだと思われる。
そもそも、ベヒモスを殴ってから爺さんを殴るまでには3分とかかっていないのだ。
そんな短期間でいきなり強くなったって事はないだろう。
じゃあ、4勇者を鼻糞でぶっ飛ばした時はどうだったろうか?
アイツらに関しては、想定通りのダメージが入っていた様に思える。
酷すぎず、緩すぎず。
正に生かさず殺さずって感じで。
つまり俺が強くなったのは、勇者共を吹っ飛ばしてから、爺さんを殺してしまうまでの間と言う事になる。
その間にあった出来事と言えば――
「今考え事してんだよ!」
突っ込んで来た魔神帝を蹴り飛ばす。
まったく、空気の読めない奴である。
――思い当たるのはリリスぐらいか。
人が強くなる時は、だいたい努力した時と相場が決まっている物だ。
俺はリリスがいとも簡単に結界を解除したり、歪めたり、ピンクを垂れ流したりするので、全力の結界を何度も張る羽目になっている。
そう、この世界に来て初めて頑張ったのだ。
そしてその努力の結果、俺の能力が上昇した。
これが答えに違いない!
「って、本当にそうかぁ?」
自分で考えておいてなんだが、ちょっと結界を頑張って張った程度で、戦闘力が3割も上がるとは到底思えない。
そんなんで急成長するのは、漫画や御都合ラノベの主人公くらいの物である。
そもそも、俺の力の根幹は神様から貰ったものだ。
しょせんは他者から与えられただけの力。
そんな物が、努力したからといって急激に成長するとは到底思えない。
「ま、そのあたりはどうでもいいか……」
原因不明のパワーアップではあるが、強くなって困る訳でもなし。
余計な事を考えるより、目の前の 魔神帝をさっさと片付ける事に注力するとしよう。
不死身は本当に面倒くさい。
殺しても殺しても、ケロッとして蘇って来るから。
だが――
「次の一撃はイテーぞ。覚悟しな!」
魔神帝を蹴り飛ばし、俺は奴にそう忠告してやる。
「戯言を!」
だが奴は俺の言葉を鼻で笑う。
そして真っすぐ、こっちに突っ込んで来た。
差があるにもかかわらず、奴がひたすら無駄な攻撃を繰り返すのは、恐らくこちらの疲労を狙っての事だろう。
何せ魔神帝は不死身だからな。
馬鹿みたいな回復速度を見る限り、スタミナも無限である可能性が高い。
だから確かに、このまま何の対策も無ければ狙い通りになっていた可能性は高いだろう。
が――
もう解決のめどは立っている。
殴りまくったお陰で。
「おらぁ!」
俺の拳が、突っ込んで来た魔神帝の顔面を捉える。
喰らった奴は大きく吹き飛び――
「ぐぅ……なんだっ?痛みだと!?」
――そして驚愕する。
それまで感じなかったであろう、痛みに。
よし、思った通りちゃんとダメージが通ったな。
「さあここからが本番だ」
そう告げ、俺は口の端を吊り上げてニヤリと笑う。
うん……なんかこの笑い方、悪役っぽいな。
まあ俺が大正義かと言われるとあれではあるが、悪役ではないつもりなので、この笑い方はもうしない事にしよう。




