第43話 伝説の
授業が始まると、秒で右横のトラミが眠りについた。
お前は一体何しにここへ来たんだ?
ま、勇者漁りだから問題ないと言えばないのか。
「我がトレサール王国と――」
3大王国がどうたらこうたらと、果てしなくどうでもいい授業が続く。
真面目に教科書に落書きしていると、急に教室の扉が開け放たれた。
一瞬、ビート達が戻って来たのかとも思ったが――
「すまんが、授業は一時中断して貰うぞ」
――入って来たのは、理事長だった。
その背後から、髪から服装まで、ド派手なキンキラキンの女性が入って来る。
年齢は、お姉さんとおばさんとの境目と言った所だろうか。
美人ではあるが、気の強そうな顔立ちをしている。
「へ……陛下!?」
その女性を見て、女教師がその場で跪いた。
陛下って事は、どうやらその女がこの国の王様の様だ。
そういや、女王って授業でいってたな。
「王国の輝かしき太陽にご挨拶いたします!!」
女王に気付いた女生徒達が席から立ち上がったかと思うと、全員その場に跪いてしまう。
さっきまでグースか眠りこけていたトラミまでもだ。
こいつら権威に弱すぎだろ。
当然模範的生徒な俺は、授業中騒ぐような真似はしない。
ただ黙々と、教科書にある偉人の顔に鼻毛とか、禿頭に一本角とかそんな感じのデコレーションを黙々と続ける。
今度誰かお仕置きする際の、プランという奴だ。
角生やす魔法とか、頑張って開発しないとな。
「墓地、陛下の御前では跪まずくんだ」
リヴァイが何か戯言を俺に言うが、当然無視だ。
俺が跪くのは、全裸で某アンドロイドごっこする時だけである。
「お前が、噂の勇者墓地か?」
キンキラキンは迷わず此方に向かって来た。
どうやら俺に用がある様だ。
「貴方は大阪のおばちゃんですか?」
年齢的におばちゃん呼ばわりするのは若干グレーな気もするが、キンキラ金のド派手な様相を好むのは、あの地方の婆共位だ。
彼女は確実に半歩その境地に踏み込んでいる。
「我はトレサール王国女王、キリン・トレサールである。跪くがよい」
俺の言葉をガン無視して、金ぴか――キリンが名乗りを上げる。
どうやら俺が跪かないのは、自分が誰だか分かってないからだと思った様だ。
流石に陛下と呼ばれてたら、相手が王様だってのは気づくっての。
まあ取りあえず、相手の言う事は無視して――
「授業中は静かにって、親に習わなかったのか?」
――ドヤ顔で正論をぶちかましてやる。
非常識な色の服に、非常識な行動。
王様が聞いて呆れるぜ。
「ふむ、どうやら教育が行き届いていない様だな……」
俺の言葉に、女王が呆れた様に首を振る。
そして振り返り、その背後でおろおろしていた理事長を睨みつけた。
「勇者への教育は、この聖愛魔導学園の仕事。それが出来ておらぬなら、それは教育者――ひいては、責任者である理事長の責任だ。覚悟は出来ておるな?」
「ひっ!?どうかお許しを!」
理事長が光の速さで跪き、頭を床に擦り付けた。
戦闘力3000万が繰り出すその土下座は、最早美しくさえもある。
ま、冗談だが。
「別に殺しはせん。ただ降格させるだけだ。明日からは清掃員として、この学園で働くがよい」
理事長から清掃員とか、何段階降格だよ。
もはや職種さえ違うレベルだぞ。
「しょ……承知いたしました」
理事長が床に頭を押し付けながら、体をプルプルと震わせる。
おしっこでも我慢しているのだろうか?
年寄りは近いって言うからな。
ま、冗談はさておき……
俺に文句を言わず、いきなり理事長にキッツイ罰を与える当たり、女王はかなり良い性格をしていると言わざる得ない。
いやまあ責任追及自体は正しいと言えば正いんだろうが、声色からその意図が透けているんだよな。
お前が馬鹿な真似をすれば、周りに迷惑がかかるぞ、と。
そう、俺に脅しをかけているのだ。
この女は。
――女王様には一つ、良い事を教えてやらんといかんな。
――俺が絶対に脅しには屈しないという事を。
「待て。跪けばいいんだろ。跪けば」
「良いだろう。跪くのなら、先ほどのマカレールへの沙汰は取り消し手やろう」
俺は席から立ち上がり、女王の前に立つ。
そして体を屈ませた。
「墓地様……」
爺が何を勘違いしたのか、俺の行動に感極まった様な声を上げる。
当然爺の為に頭など下げないし、「跪けばいいんだろ」とは言ったが、跪くとは一言も言っていない。
勘違いも良い所である。
俺は膝が付くか付かないかの所で、背筋を伸ばしつつ力強く地面を蹴る。
そして右腕を突き上げ、拳を叩きつけた。
何処に?
勿論、女王の下顎にだ。
「昇竜アパカッ!!」
「ブゲッ!?」
女王キリンの戦闘力は三億五千万。
ぷち弱いリリス位の実力だ。
そいつを本気でぶっ飛ばそうとすると、相当なパワーがいる。
衝撃で周囲に迷惑がかかるので、攻撃の直前にちゃんと結界は展開しておいた。
だが、カバーしたのは周囲と足元だけだ。
上はお留守なので、俺のアッパーで真上に吹っ飛んだ女王の体が天井を突き破り、はるか上空へと上昇して行った。
それを追うかの様に、俺の体も天井を抜けて上昇する。
まあ別に追いかけている訳ではなく、単に勢いよく跳ね飛び過ぎただけだ。
天を見上げると、太陽がまぶしい。
ふと、ギリシャ神話のイカロスを思い出す。
高く飛びすぎると、太陽の熱で羽が燃えるだか溶けるだかだったかな?
だが冷静に考えると、気温は高い場所程低くなる物だ。
高く飛んだからって、熱でどうにかなる訳がない。
そこで俺は考える。
イカロスが馬鹿みたいな速度で上昇したから、その摩擦の熱でそうなったのではないか、と。
勿論、その速度を出せる翼が熱でどうにかなるかという疑問は残るが。
まあ、何故急にそんな事を考えたかというとだ――
俺の着てた服が、急上昇の摩擦で弾け飛び燃えて消えていったからだ。
そのため、今の俺は全裸だった。
「開放的ではあるな」
こういうのをきっと解脱と言うのだろう。
しらんけど。
因みに、俺の更に上空にいるキリンの服は健在だったりする。
単にキラキラしてる派手な服ってだけではなく、どうやら宝器の類の様だ。
ま、そんな事はどうでもいいか。
なにせ今から俺は、重大な使命を果たさなければならない。
かつて数多の英霊達が。
そしてこれからも、多くの主人公達が。
自らの限界の到達点で叫ぶであろう、伝説の名ゼリフ。
それは――
「俺達の――いや、俺の冒険はこれからだ!」
~FIN~
つづく
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