第41話 友達
朝のホームルーム前。
俺は自分の席に頬杖をつき、小さく呟いた。
「ずいぶん増えたな」と。
ゲンブー家を返り討ちにしてから数日。
閑古鳥が鳴いていた俺のクラスに通う生徒の数が一気に増えた。
まあ顔馴染み――って程ではないが、ほぼ知ってる顔だが。
俺の左側の席にはスザーク家のバハムトと、その取り巻きが陣取っている。
前はセイリュー家のリヴァイ関連の、右側はビャッコ家のガキンチョ関係だ。
そして背後には――坊主頭のベヒモスが座っていた。
まあ完全な丸坊主ではなく、ボチボチ新芽が生えだしているが。
因みに、こいつだけ取り巻がいない。
見捨てられたかな?
ま、どうでもいいけど。
ああ、後それ以外に、ハァハァしてた気持ち悪い女子も何故か少し離れた席にいるな。
今は真面目な顔で、ノートに何かを一心不乱に書き込んでいる。
心なしかそのノートからは不吉なオーラが漂っている気がするが、まあ気にする程ではないだろう。
なので、今クラスにいる女子連中は全部で12人。
それ以外にも、実はある人物が一人紛れ込んでいた。
それは――
「つうか、何でお前が俺のクラスにいるんだ?」
――ビートだ。
どういう訳だか、俺の直ぐ右隣の席に当たり前の様に奴は座っていた。
勇者はそれぞれ自分のクラスが与えられる。
そのため、勇者同士が同じクラスになる事は無いのだが……
「バハムトさんに頼まれたのさ。借りが沢山あるから、断る訳にもいかないしね」
ビートが「ははは」と、少し困った様に笑う。
その借りの大半は俺へのおせっかいで無駄に負った物だろうに、それを律義に返している辺り、本当にどうしようもない程のお人好しである。
「ビートを口説きつつ、貴方をスザーク家に取り込むには、全員同じクラスであるのが一番効率がいいのよ」
ビートの隣に座るバハムトの方に視線をやると、彼女は涼しい顔でふざけた言葉を口にする。
どういう神経をしてたら、そういう事を堂々と口にできるのか?
図太過ぎる女である。
「二スライムを追う者、一スライムも得ずだよ!」
「バハムト令嬢。欲張れば、足を掬われるわよ。墓地の事は素直に諦めなさい。彼は家で預かるわ」
「駄目だよ!ボッチンはお婿さんとして家に来るべきなんだから!」
リヴァイとトラミも、大概勝手な事をほざく。
俺を物かなんかだとでも思ってるのだろうか?
しかしこいつら……
ちょっと前まで人の事ガン無視しておいて、強いと分かった途端掌を返してすり寄って来るとか、よくそんな真似が平気で出来もんだ。
まあこの聖愛魔導学園の趣旨を考えれば、彼女達の行動は正しい物なんだろう。
勇者の力目当てに、女生徒達が群がると言うシステムな訳だからな。
俺も力を求めて寄って来る事自体は否定しないさ。
けど、此処まであからさまな落差を付けられるとなぁ……
正直、死ぬ程萎える。
とてもじゃないが、この中の奴らと恋愛する気には――そもそもバハムトは兵士としてスカウトしてるだけだからあれだが――なれない。
もうちょっとうまく立ち回れないもんかね?
どいつもこいつも、自分の欲望にド直球すぎてもはや不快レベルだ。
なんとか追い払えん物だろうか?
ぶん殴って分からせるのが一番早い?
それはその通りだ。
だが彼女達は欲望丸出しとは言え、此方に敵意を持っている訳でも、喧嘩を吹っ掛けて来ている訳でもない。
流石にその手の相手に問答無用で拳を振るうのは躊躇われる。
一応こう見えて、最低限の常識は弁えているつもりだからな。
どうした物か……
はっ!そうだ!
欲望丸出し系女子共の数を減らすにはどうすればいいのか。
そう思案していると、天啓の如きアイデアが俺の頭に浮かぶ。
――要は、ターゲットを変えればいいのだと。
「ふむ……お前らは俺が強いから、手に入れたいんだよな?」
「まあ、そうなるな」
「うん!トラミは強い人と結婚するんだ!!」
俺の問いに対して、リヴァイとトラミからド直球な返事が返って来る。
「私は……家の命令で仕方なくここにいるだけよ。貴方に興味はないし、今更口説けるなんて思う程馬鹿でもないわよ」
背後を振り返ってチラリとベヒモスを見ると、特に俺を口説く気はないと返って来た。
ツンデレと言う訳ではなく、本気で嫌々この場にいるという感じだ。
この中だと、むしろこいつに一番好感が持てるから困る。
まあそんな事はどうでもいい。
つまり、二兎狙いのバハムトと、嫌々このクラスに来させられているベヒモス以外は、単純に俺より強い奴が現れればそっちを狙うと言う訳だ。
――バハムト達は、俺の事をSSランクだと思っている。
実際はそれ以上なのだが、重要なのは、彼女達が俺より強いと思える奴がいるかどうかだ。
そんな奴が居るのか?
実は一人だけ、心当たりがいたりする。
勿論リリスじゃないぞ、アイツは女だからな。
ここで思い出して貰いたいのが、バハムトの先程の言葉だ。
彼女は「ビートを口説きつつ、貴方をスザーク家に取り込む」と言っていた。
つまりそのメインターゲットはビートであり、お抱え兵士扱いである俺は完全に次点だと言う事だ。
ここで重要なのは――バハムトには、他人の潜在能力を見透かす力があると言う事である。
つまり彼女の見立てだと、潜在能力を引き出したビートはSS想定の俺以上だという事になる。
もしそうでないなら、メインターゲットは此方に移っている筈だからな。
まあ単純に、ビートの方が好みだからという可能性も否定できないが。
顔面偏差値に差があるからな。
まあ取りあえず物は試しだ。
俺は笑顔でビートの肩に手を置き――
「なあビート。俺達って友達なのか?」
――こう尋ねた。
「え?うんまあ、僕はそのつもりだけど……」
俺の急な質問に面食らいながらも、ビートは俺を友人だと言う。
流石お人好し大王である。
俺が奴の立場なら、「ザッケンナッ」といってぶん殴っていた事だろう。
まあ何にせよ。
これで俺とビートが友達(仮)だという事が確定する。
――伝説では、友人が困った時に手を差し伸べるのが友達だそうだ。
そして俺は今、困っている(ほんのちょびっと)。
その悩みを解決するため、俺は友人(仮)の力を借りようと思う。
勿論、無断で力を借りる様なそんな狡い真似はしない。
ちゃんと本人の許可はとる。
「ビート。もし俺が困っていたら、力を貸してくれるよな?」
「ああ、勿論だよ。微力だけど、僕の力が必要ならいつでも言ってくれ」
「ありがとう。じゃあ、今すぐ貸してくれ」
許可は得た。
協力内容は伝えていないが、まあそこは細かい誤差の様な物だ。
気にする必要はないだろう。
「へ?」
俺は生贄の肩を掴んだまま、スキルを発動させる。
覚醒のスキルを。




