第38話 グングニル
「さて……」
ゲンブー家の兵士共は腹パンで全員ぐっすり眠っている。
勿論それだけで終わらせてやるほど俺は甘くはない。
殺そうと挑んできた訳じゃないので殺しはしないが、それ相応の罰は受けて貰う。
まずは爺さんから……
「そういや、持ってる剣はゲンブー家の至宝だったっけか?」
爺さんの手には、しっかりとゲンブー家の3大宝器――ミシシッピアカミミソードが握られていた。
一度はあの世に行ったのにも拘らず手放さないあたり、大した物だと感心しつつも、俺はそれを無理やりひっぺがして奪い取る。
「墓地君、それはゲンブー家の物だよ。まさかとは思うけど……奪うつもりじゃないよね?」
ビートが急いでこっちへやって来たかと思うと、俺に向かって失礼な発言を口にする。
「お前には、俺が人の物を盗む様な男に見えるのか?」
「う……すまない。勇者である君がそんな事をする訳がないよね。失言だった。謝るよ」
「分かればいいんだよ。分かれば――」
俺は右手で刀身を握り、左手で柄を握って剣を水平に持つ。
それを目線より少し高く上げる。
剣を両手で持って、水平に掲げている感じだ。
「あ……あの、墓地君?なにを……」
その様子を見て、ビートは俺が何しているのか尋ねて来る。
が、それには答えない。
何故なら直ぐに答えが分かる事だからだ。
俺は掲げた剣を、勢いよくそのままの形で振り下ろす。
と同時に、膝を鋭く突き上げた。
「宝器クラーーッシュ!!!」
俺の膝が、ミシシッピアカミミソードの刀身の腹の部分に突き刺さる。
『バキーン』とかん高い金属音が響き、刃の真ん中部分が綺麗に弾け飛んだ。
砕けた刃が日の光に煌めき、キラキラと美しい。
「なななななな……何をしてるんだ墓地君!!」
「武器なんてあるから!世界から争いが無くならないんだよ!!」
俺の唐突な行動に目を白黒させるビートに、武器を破壊したそれっぽい理由を力強く語る。
もちろん、世界平和になど微塵も興味はない。
「君がそれを言っても、全く説得力がないんだけど……」
お人好しのビートなら戯言に納得するかと思ったのだが、そんな事は無かった。
やるじゃないか。
見直したぞ。
「まあ細かい事は気にするな!」
「細かい事って」
「所で、他の奴らの持ってた武器も全部宝器類だよな?」
ゲンブー家の兵士達は見るからに高価そうな武器を装備していた。
まあ使われる前に全員一撃で倒したから確かじゃないが、多分、全部宝器の類だろうと俺は予想している。
「多分そうだと思う。けど、まさか君……」
「ビート、お前の想像通りだ。粉砕あるのみよ!」
宝器は貴重で、とんでもなく高い物だ――マンツーマンの授業で習った。
いくら王国屈指の大家門だろうと、三大宝器の一つと、それ以外の大量の宝器を壊されれば相当懐に来るはず。
ゲンブー家には、俺に喧嘩を売る事がどういう事かキッチリ叩き込んでやらんとな。
「ちょ!墓地君!これ以上はダメだ!」
ビートが咄嗟に手を伸ばして俺を止めようとするが、そこにクロスカウンターを決める。
「うぎゃっ!」
「寝てろ、禿げ」
ビート如きが俺に挑むとは、無謀も良い所だ。
邪魔者も消えたので、俺はそこらに散らばっているゲンブー家の武器を拾い、上空へと放り投げていく。
そして全てを放り投げてから、鼻に人差し指を突っ込んだ。
「――っ!?」
その時気づく。
さっきべヒモス用に特大な一発かましてやろうと、中をほじり切ってしまっていた事を。
突っ込んだ指には、ぬめり以外の感触はない。
完全に残機0だ。
ぬかった。
『武器の貯蔵は十分か?』
そんな有名な台詞が頭を過る。
まあそんな事はどうでもいい。
「くっ……」
逆の鼻になら、十分な量がある。
だが今から鼻を入れ替えて集めたのでは、タイミング的に間に合わない。
上空を見上げると、放り投げた武器が複数の曲線を描き、今にも一直線に並ぼうとしていた。
このタイミングを逃すと、何本か破壊しそこねて落下してしまう事になるだろう。
そうなると死ぬほど格好悪い事になる。
きっとリリス辺りは俺のミスに気付いて、馬鹿にして来るに違いない。
……こうなったら奥の手を使うしかないな。
俺は咄嗟に、人差し指に添える様に親指も鼻の穴に突っ込んだ。
そして勢い良く引き抜く。
そう、鼻毛を。
そしてそれを、俺は上空めがけて放った。
「鼻毛槍!」
鼻毛槍。
それは鼻毛にエネルギーの塊であるオーラを纏わせ、旋回させて飛ばす事で強烈な貫通力と破壊力を与えた技である。
その威力は絶大であり、当たり所が悪ければSSランクでも即死しかねない。
――俺が即興で考えた技だ。
上空で一直線に並んだ武器を、鼻毛が貫き粉砕する。
かん高い金属音が周囲に響き、砕かれた破片が無数に飛び散った。
それらは日の光を乱反射し、まるで花火の様だ。
「へっ、汚ねぇ……いや、汚くはないか」
とにかく、リカバリー完了だ。




