第37話 川
「ボッチー、ほんと容赦ないわね。女の子の顔ってのはね――」
「殴る為にあるんだろ?しってるぞ」
「あんた。どこでそんな恐ろしい事習ったのよ」
俺の返事に、リリスが呆れたと言わんばかりの顔をする。
登場と同時に周りを誑かす光をばら撒いていた非常識な奴に、そんな表情をされる謂れはないんだが?
まあいい。
このアホの相手は後だ。
まずは――
「さて、次は爺さん達の番だぞ。ボコボコにされる準備は良いか?」
問答無用で殴りかかっても良かったのだが、爺さんは今、顔が潰れて変な顔で気絶しているベヒモスをしゃがんで抱き抱えている状態だ。
このままぶん殴ると、彼女までいっしょに吹き飛んでしまう。
だから離れろとの警告を込めて、俺は攻撃を宣告する。
まあこれが無視される様なら、悪いがベヒモスには爺さんと一緒に仲良く吹っ飛んでもらう事になるが……
流石にそこまで気を遣うのも面倒だし。
「なんじゃと!?わしらは降参したではないか!!」
爺さんが目を剥き、俺を睨みつける。
どうみても降参した奴の態度ではないが、孫娘が殴られて怒り心頭って所なのだろう。
「朝っぱらから人の事呼び出して喧嘩売っておいて、旗色悪いから降参しますとか……そんなもん認める訳ねーだろ。馬鹿なのか?」
「ぬっ、く……だから謝罪したではないか」
「あの馬鹿女にだろ?それで俺が何で許すと思うんだ?」
一方的に俺に喧嘩を売って、それをリリスに謝罪する。
何処に俺が爺を許す要素があるというのか?
そんな事、少し考えれば分かる事だろうに……
頭大丈夫か、この爺?
まあ尤も、俺に対する謝罪だったとしても許す気なんて更々なかったが。
喧嘩を売ってきたらボコボコにする。
それが俺の流儀だ。
「さあ、ベヒモスを巻き込みたくないんだったらさっさと離れた方が良いぞ。言っとくけど、抱えたままでも俺は容赦なくぶん殴るからな」
「くっ……」
爺さんがリリスの方を見る。
俺と戦えば、馬鹿女から報復されると思っているのだろう。
だが実際は面白半分に首を突っ込んでるだけなので、そんな心配は全く無い。
そもそもリリスに報復できる程度の相手に、俺が負ける訳も無いしな。
杞憂も良い所である。
「安心しろ。その女がお前らに手出しする事はねぇよ。びくびくすんな」
「……」
「ボッチーがそう言ってるんだし、気にせず戦っていいわよ」
「そういう事ならば……ベヒモスの借り、返させて貰うとしよう」
俺の言葉には反応しなかった爺が、リリスがオッケーを出した事でやっと重い腰を上げる。
完全に舐められてるみたいだが……まあ直ぐに分らせてやるさ。
「この剣はゲンブー家、3大宝器の一つ――ミシシッピアカミミソード!」
爺さんが跳躍してベヒモスから離れ、腰に差していた剣を引き抜いた。
剣は両サイドの刃の部分が赤く輝いており、見るからに魔剣っぽい見た目をしている。
3大宝器ねぇ……
御大層な呼び名である。
きっと強力な装備なんだろうが……ま、俺には関係ないな。
「この剣を装備したワシは、ゲンブー家最強よ!墓地無双!恐れぬのならばかかって来い!」
いい年した爺さんが、テンションを無駄に上げて剣を掲げて叫ぶ。
その雄叫びに合わせ、ゲンブー家の雑兵共も剣を引き抜き構えた。
「んじゃ、行くぞ」
相手がかかって来いと言ってるので、もう待つ必要はないだろう。
俺は遠慮なく正面から突っ込んだ。
爺さんは戦闘力が億越えでそこそこ強い様なので、それに合わせる感じでちょっと早めに動いてみたら――
「――なっ!?」
――爺さんが俺の動きに目を白黒させる。
……鈍いな。
こっちが目と鼻の先まで迫ってるってのに、爺さんは何の対応も出来ず、間抜け面で剣を掲げたままだ。
どうやら、鈍足なパワータイプの様だな。
ま、お年寄りだし動きや反応が鈍いのは当然か。
「くっ!貴様!!」
一呼吸遅れて反応した爺さんが、慌てて剣を振り下ろそうとする。
が、それよりも早く俺は顔面を右手で掴み、押し倒す形でその後頭部を地面に叩きつけた。
その衝撃で地面がクレーター状に砕け、土煙があがり、周囲に瓦礫が飛び散る。
「げ……」
死なない様にちゃんと加減したつもりだったのだが、何故か爺さんの生命活動は止まってしまっていた。
想像以上に相手が弱かったのか、それとも力加減を誤ったのか。
ようわからんが、なんにせよ――
「簡単に昇天すんなよ」
俺は速攻で回復魔法を発動させる。
残念ながら、俺には死者を本格的に復活させる様な蘇生魔法は扱えない。
だが死んだ直後なら、神様から貰ったこの回復魔法で蘇生させる事が可能だった。
心肺蘇生とか、あの手の超すごい番だと思って貰えばいい。
態々助けるのは、爺が俺の命を狙った訳じゃないからだ。
余程の事がない限り、俺だって他人を殺したりはしない。
え?でも死んでるじゃないかって?
蘇生させるからセーフだセーフ。
「……はっ!川の向うで婆さんが手を振ってたんじゃが……わしは一体……」
「ただの幻覚だ。寝てろ」
「ほげっ!?」
爺が蘇生して目を覚ましたので、腹パンで眠らせる。
今度は完璧な力加減だったので、ちょっとした重傷で済んでいる筈だ。
「さて……ちょっとした些細なトラブルはあったが、他の奴もさっさと終わらせるか」
「ば、馬鹿な。ロウシン様がこうも容易く……」
爺さんがあっさりやられたせいか、他の奴らは呆然自失といった感じだ。
「まさか、貴様はSSランクだとでもいうのか……」
「しらん!」
取り敢えず、俺は残った奴らを全員腹パンで制圧する。
さて――
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