第35話 モテ期到来
家を訪ねて来たゲンブー家の兵士について行くと、校舎とは反対側にある広い運動場の様な場所に連れていかれる。
そこにはベヒモスと、十数名程の兵士――鎧とか来てるので一目瞭然――が待ち受けていた。
……それとは毛色の違う、別の集団もいるな。
そっちにはビートとバハムトが混じっていた。
巨乳の執事さんも。
「なんだビート。お前らも一緒にボコられに来たのか?」
「そんな訳ないだろ。僕達は見届け人だよ」
「ゲンブー家とは話を付けておきましたわ。これは殺し合いではなく、殺生無しの正式な決闘よ。見届け人は、勇者ビートと我がスザーク家。それに、セイリュー家とビャッコ家の令嬢もいらっしゃるわ」
「お前が墓地無双か」
短めの青髪の女性が俺に近づいて来て、鋭い眼差しを此方へと向けて来る。
その顔立ちは中性的で、ここがもし女子高だったら、王子様ポジでファンクラブとか出来てそうな見た目だ。
「彼女はセイリュー家の、リヴァイ令嬢だよ」
ビートが頼んでもないのに解説役を始めた。
顔は良いのに、行動は完全にモブのそれである。
「お前の力、どれ程の物か見せて貰おう。もし噂通りの様なら、セイリュー家に迎え入れてやる」
超上からの発言。
何様だよこいつ。
つうか、噂って何の噂だ?
アレス、もしくはカイーナ達4人をぶっ飛ばした関連か?
強さ関連で考えられるのはそれ位の物だ。
「あ!ずるいよリヴァイちゃん!ボッチンはビャッコ家に来て貰う予定なんだから!」
歳の程が11・2歳位の銀髪の女の子が、急に俺とリヴァイ令嬢との間に割り込んで来た。
何でこんな場所に子供がいるのだろうか?
謎だ。
「初めましてボッチン!私はビャッコ家のトラミだよ!君さえよければ!是非是非家に来てほしいんだ!」
どうやらこのガキンチョはビャッコ家の人間の様だ。
つうか――
「誰がボッチンだ。初対面で変なあだ名付けんな、クソガキ」
リリスといい、こいつといい、勝手に微妙なあだ名付けやがって。
「私は16歳の立派なレディーだよ!子ども扱いしないで!!」
この見た目で16とか……これが合法ロリって奴か。
いやまあ、まだ20歳超えてないなので実際は合法でもなんでもないが。
「まあ本来はクソガキ呼ばわりはお尻ぺんぺんだけど、家に来るなら許してあげる!」
許してあげると来たか。
こいつも大概上から目線だな。
まあ四大貴族はこの国ではかなりの権力を持っているらしいので、それもある程度は仕方がない事なのだろう。
……ま、この国でどれだけ偉かろうと俺の知った事っちゃないが。
「お前の許しなんざいらん。寝言は寝ていえ」
「えぇっ!?なんでぇ!?」
断られた事に対して、ガキンチョが変顔でオーバーに驚いて涙目になる。
御貴族様の癖に顔芸が出来るとかやるじゃん。
「俺がお前らのご機嫌とると思ったら大間違いだ。四大家門かなんか知らんが、偉そうにすんな」
「墓地さん。確かに、異世界から召喚された貴方が四大家門をありがたがる必要はないわ」
俺の所信表明を聞いて、バハムトが俺の前に立つ。
「でも、今回に関しては感謝してくれてもいいんじゃないかしら?本来ゲンブー家による死刑になる所を、お互い殺生無しの決闘に収めたのはスザーク家よ。今回はビートに頼まれたからではなく、貴方の為に家は動いたわ。そこの所は、胸に刻んでおいて頂戴ね」
恩着せがましい奴だ。
どうせメリットがあると思ったから動いただけの癖に。
そもそも、殺し合いじゃない事の恩恵を受けるのは俺ではなく相手の方だ。
ゲンブー家の用意した兵士達の戦闘力を測定した感じ、その中で最強なのは白髪の爺さんだった。
たぶん、数値的にSランクの勇者だろうと思われる。
――が、それでも俺の敵ではない。
戦えば勝つのは間違いなく俺である。
だから殺し合いになって困るのは、完全に相手の方だ。
どうもバハムトは、俺が負けると思っている様だな。
舐められたものである。
「おい、その件についてはセイリュー家も口添えしただろう。スザーク家だけ動いた様な言い方をするな」
「そうだよ!ビャッコ家だって動いたんだから!だからボッチン!家に来なよ!」
複数の女から取り合いになる。
そんなモテモテ経験は、生まれて初めての事だ。
……ま、3人とも俺への恋愛感情が一切ないのは明白だが。
――彼女達が求めているのは、あくまでも俺の強さでしかない。
まあそれ自体は構わないさ。
聖愛魔導学園は優秀な勇者の血を取り込んだり、勢力に抱え込むってのが目的の学園だ。
だから3人の行動は正当な物だし、俺だってそんな場所で普通の恋愛を求めるつもりはない。
ここでそんな馬鹿な事を考えるのは、多分ビート位の物だろう。
とは言え、ここまであからさまだと普通に萎えるわ。
俺からすれば、女共の行動は完全に0点だ。
もうこれならいっそリリスのほうがマシまである。
いや、流石にそれはないか……
「口添えがどうとかどうでもいいわ。お前らの行動がどれだけ無駄な事だったか、今から見せてやるよ」
これ以上、くだらない戯言に付き合うのは時間の無駄だ。
ゲンブー家の奴らをさっさとボコボコにして、彼女達に現実を突きつけてやるとしよう。
「よう、その髪型似合ってるぜ。まさに輝いてるって感じだな」
ベヒモスの前まで行き、俺は笑顔で軽く挨拶する。
「く……そんな戯言を言えるのも、此処までですわよ。覚悟なさい!」
同じ学園に通う生徒だからフレンドリーに挨拶したというのに、返って来たのは刺々しい言葉だった。
随分と嫌われた物だ。
「あれ?俺何かやっちゃいました?」って台詞は、こういう時に言えばいいんだっけか?
「孫娘が、随分世話になった様じゃな」
ベヒモスの隣に立っていた老人――Sランク勇者が、殺気の籠った視線を俺に向けて来る。
爺の割に、やる気満々の様だ。
「ああ、礼には及ばねーぜ。勇者の務めって奴だからな」
「口の減らん奴じゃ。他三家の横やりが無ければ、この手で八つ裂きにしてやった物を……命拾いしたな、小僧」
「そっちがな」
人殺しなんざ進んでしたくはないが、本気で殺しにかかって来る様な奴には俺も容赦は一切しない。
だからもし決闘じゃなかったら、こいつら全員あの世行だった事だろう。
精々バハムト達に感謝する事だ。
「生意気な。その減らず口、今叩けなく――」
突如、爺さんが言葉を途切れさす。
そして驚いた様に、その視線を上へと向ける。
爺さんだけじゃない。
この場にいる全員が一斉に、天を仰ぎ見た。
何故か?
そら急に、頭上から真っピンクの光が降り注げばそうなるわな。
原因は考えるまでもない。
糞女だ。
「大人しくしとけっつっただろうが……マジ殺してぇ」
俺は制御不能なバカ女の行動に、大きく溜息をついた。




