第32話 対策
聖愛魔導学園。
女子寮。
復旧された玄武宮殿。
「ベヒモス様」
色とりどりの花によって、艶やかな景観を誇る庭園。
その庭園内で優美に佇んでいた坊主頭の女性――ベヒモス・ゲンブーに、情報収集を担当する配下の女性(丸坊主)が側により、学園内より持ち帰った情報を彼女に素早く耳打ちした。
「なんですって!?」
――勇者墓地は、Sランク相当の力を持つ覚醒勇者である。
配下から齎されたその衝撃の情報に、ベヒモスは目を見開き驚愕する。
「それは本当なの!?」
「はい。勇者カイーナより齎された情報でございますので……」
情報源は勇者カイーナだった。
ラブツリー前で墓地によってジュデッカ他2名の勇者と共に倒され、お仕置きまでされた彼ではあるが、翌日には当たり前の様に授業に出席していた。
――坊主頭に、顔面にでかでかと落書きのある状態で。
他の勇者3人はショックから寮に引き籠っているにも関わらず、彼だけは堂々と授業に出席し、そして彼を気遣う女生徒達に、赤裸々に自分達に起こった事を彼は語って聞かせていた。
――まあいくつか脚色はあった様だが。
まず第一に、偽のラブレターを送った点。
ここは、正々堂々決闘状を送った事になっている。
勇者が相手を騙して呼び出すなど、褒められた行為ではないからだ。
次に、最初はAランク勇者であるジュデッカとの一騎打ちだったとなっている点。
あくまでも決闘は一対一で有り、墓地側から纏めてかかってこいと強く挑発されたため結果的に四対一の戦いになったと、カイーナは語っている。
強敵とは言え、一人を大人数で襲ったとなると勇者としてのイメージが悪くなるためだ。
そして最後に、鼻糞一発で倒された部分も当然脚色してあった。
勇者が飛ばした鼻糞一発でやられたとなると、その存在意義に罅が入ってしまうので当然だ。
「話によると、ジュデッカ様を含む4人がかりで手も足も出なかったとか」
カイーナの話には多少の脚色こそあったが、彼は自分達が一発で倒された部分に関しては素直に話している。
いい勝負をしたとうそぶいた方が格好はついただろう。
だがゲンブー家との事がある以上、どうせすぐに墓地がSランクである事がバレるのは目に見えていた。
だから隠さずカイーナは話したのだ。
墓地のとんでもない強さを。
因みに――
カイーナは墓地に手も足も出ずやられた事も。
頭を丸刈りにされて、顔に消えない落書きをされた事も。
股間への落書きも。
――まったく気にしていなかった。
何故なら、彼はメンタルが糞強かったからだ。
正に鋼の精神。
そして転べばただでは起きない性格から、被害者として女生徒達にアピールする事で、あわよくば同情や庇護欲を掻き立て様という目論見があったからこそ、昨日の今日で意気揚々と学園に姿を現したという訳だ。
いわゆる不幸自慢である。
「その四人を圧倒したのなら、間違いなくSランク……不味いですわね。家が寄越してくれる戦力では、宝器を考慮しても確実に返り討ちに遭ってしまいますわ」
ゲンブー家が墓地討伐に出した戦力は、所属のAランク勇者が二名。
更にそのサポート兼ビート対策にBランクの勇者が二名と、そこに超戦士十数名と少ない。
これは学園と言う特殊な場所に、大規模な戦力を送る訳にはいかない為である。
因みに超戦士と言うのは、勇者の血を引き厳しい訓練を受けた高い戦闘力を誇る兵士の事を指す称号だ。
その血統次第ではあるが、中にはAランクの勇者に匹敵する者もいると言われている。
もちろん、今回の戦力の中にそこまでの者はいないが。
「くっ……急いで父様に連絡よ!こうなったらSランク勇者を――」
ゲンブー家は4大家門だ。
相手が勇者とは言え、一旦不届き者の制圧に寄越した部隊をひっこめる様な無様な真似は出来ない。
ましてや敗北など論外だった。
――Sランクには、Sランクをぶつける。
それがベヒモスの出した答えだ。
「――お爺様に来ていただくしかないわ!!」




