第31話 警告
「で、リリスの封印方法はあるか?」
理事長が大人しくなったので、さっさと本題に入る。
爺さんと世間話をする為に態々ここに来た訳じゃないからな。
「リリスの封印方法ですか……かの魔神は伝説の勇者、カモネギによって封印されたと聞いております。そしてカモネギはその直後の魔神帝との戦いにおいて、命を失っていると。ですので、魔神リリスの封印方法は残念ながら後世には伝わっておりません」
知らねぇのかよ。
賢者の癖に役に立たねぇ爺だ。
しかし、色々とお膳立てしてくれそうな名前の勇者だな。
「他に何か封印出来そうな当てとかはないか?」
「あれほどの化け物を封印するとなると……かつて魔神帝を封じたとされるサクリファイスと呼ばれる結界ならば、可能ではないかと。ですがあれは三大国の至宝器が必要な上に、それらは現在魔神帝の封印に使われておりますので……」
「使用中か……ならその結界に穴をあけて、リリスの奴をそこに放り込んだりできねーかな?」
こう……少し隙間を空けて、そこにあのピンク女を突っ込んで閉じる的な。
「いやいやいや!結界に穴などあけてしまっては魔神帝が復活してしまいます!!」
「ふむ……俺の世界には、やらぬ後悔よりやる後悔という言葉があってだな。後の事はやってから考えるって言葉も」
「ぼぼぼぼ、墓地様!!どうか!どうか!お考え直し下さい!!何卒!!!」
俺の言葉に、理事長が額を床に擦り付ける形で勢いよく土下座する。
ちょっとした冗談だったんだが、まさかこいつ、俺が本気でそんな事すると思ってんのか?
まったく失礼な奴である。
俺だって最低限の常識位は弁えているつもりだ。
……ま、あくまでもつもりでしかないが。
「冗談だよ」
「さ……左様ですか。まあ墓地様なら魔神帝とも渡り合えるかとは思いますが、何せ相手は不死ですので。封印には触らない方向でお願い致します」
理事長が念押しをして来る。
見事なフラグ立てだ。
いやまあ、よほどぶちぎれる事でも無い限り、そんな馬鹿な真似は俺もしないとは思うが。
「まああれだ。何か有効な物が無いか調べておいてくれ」
リリスの事は暫く現状維持するしかない様だ。
本当に面倒くさい話である。
異世界への影響なんざ無視して放り出せれば楽なんだが、流石に勝手に封印を解いて知らぬ存ぜぬをする程俺も非道じゃないからな。
「あ、墓地様お待ちください!」
もう用がないので理事長室から出て行こうとすると、爺さんに呼び止められる。
「なに?」
「実はですな。ゲンブー家に動きがある様です。恐らく、配下や帰属している勇者を使って墓地様に報復するつもりではないかと」
「ふーん」
果てしなくどうでもいい報告である。
喧嘩を売って来るのなら、真正面から叩き潰すだけだからな。
気にする事はないにもない。
「そこで!どうか再び勇者鑑定を受けて頂ければと、具申いたします」
「ん、なんでだ?」
「先ほども言いましたが、墓地様の最初の鑑定は誤りです。恐らくですが、Eとされた判定は……驚かずに聞いてください……」
理事長が、何故か無駄に溜を作る。
その行動がなんかムカついたので、目潰しでも喰らわしてやろうかと思ったが止めておく。
今日は一度殺しかけてしまったからな。
サービスだ。
「EはEでも!埒外のEだったと思われます!!」
理事長が言葉と同時に両目をクワッと見開く。
いい年して顔芸かよ。
「そう!埒外なのです!同じ頭文字だったため、誤認してしまったと思われます!!」
「エクストラってのはなんだ?」
俺が聞いた勇者のランクは、SSSからFまでだ。
そういや爺さん。
さっきの独り言でもエクストラがどうたら言ってたな。
「SSSを超える、神に等しき力をもつランクです。この世界では、魔神帝と勇者カモネギがそうだったと言われておりまして。つまり!墓地様のお力は伝説級という事です!」
「ふーん」
興奮している爺に対し、俺は冷たく返す。
だからなんだって話でしかない。
Aランク勇者の何十倍もの力がある時点で、SSS以上の強さがあるのは最初っから分かり切っていた事だし。
ん、でもおかしいな――
「確か授業だと、召喚された勇者の最高ランクはSSって言ってたはずだけど?」
「それはあくまでも、召喚時点での話です。勇者カモネギはこの世界を魔神帝の魔の手から救うため、神の試練を乗り越える事で限界を遥かに突破した力を得たと言われておりますので」
神の試練を乗り越えて……か。
俺のチートも神から貰った力だ。
入手経路は違えども、どちらも神関係。
そう考えると、埒外ってのは案外冗談抜きで神の力なのかもしれないな。
ま、どうでもいいけど。
「という訳で。再鑑定で墓地様のランクを明らかにすれば、ゲンブー家もきっと大人しくなる事でしょう」
「さっき言わなかったか?面倒くさいって」
何かして来る様なら返り討ちにすればいいだけだ。
まあ確かに、対策をしておけばより少ない労力で済ませる事も出来るだろう。
だが俺は暇人なのだ。
だから対話は全て拳で行わせて貰う。
良い暇つぶしになる。
それに――
「へ?いやしかしですな、今のままですと」
「随分と必死だな。そんなに自分の評価を上げたいのか?」
さっき埒外と、自分の評価云々を理事長が独り言ちた事を俺は聞き逃していない。
耳、超良いから。
つまりこの爺さんは、自分の評価を上げるために俺を利用しようとしている訳だ。
……良い度胸してるぜ。
「ぎゅあぁ!!」
勢いよく蹴り飛ばし、俺は理事長の足の骨を粉々にへし折ってやった。
奴はその場で倒れ込んで悲鳴を上げる。
「お前は何か勘違いしてるみたいだな。俺はお前のした事を許した訳じゃないぞ。あくまでもお情けで、生かしてやってるだけだ」
「ぐえぇぇ……」
更に倒れている理事長の頭を踏みつけた。
俺は別にこいつを許した訳ではない。
本来なら死刑物だ。
だが殺すと面倒な事になりそうだとあの時は思ったから、呪いで済ませてやったに過ぎない。
「言っとくけど……覚醒させたのは、お前をいつでも気兼ねなく殴れる様にするためだぞ」
俺も悪鬼羅刹じゃないからな。
何もしてない人間を、いきなりぶん殴る様な真似は出来ない。
――だが、こいつだけは別だ。
理事長だけはこの世で唯一、俺が問答無用で殴っていい相手と決めている。
だからこそ覚醒させたのだ。
400万程度の人間を死なせず殴るという行為は、脇に止まった蝶を、逃がさず殺さず脇に挟んで捕まえるレベルの妙技と言っていいだろう。
そんな絶妙な力加減を、理事長相手にするのが面倒くさかったからアップデートしたのだ。
――より殴りやすいサンドバッグへと。
「いいか……1秒でも長生きしたいなら、余計な事は考えるな。今回は見逃してやるけど、次は冗談抜きでないぞ」
そう最後通告を爺さんに告げ、俺は理事長室を後にした。




