第30話 覚醒
「ななななな!何ですと!!魔神リリスを復活させてしまったのですか!?そんな恐ろしい事を……あばばばば」
リリスの封印を解いたと話したら、何故か興奮した理事長が白目をむいて泡を吹き出した。
仕方がないので気付け代わりに頬を叩いたら、首が変な方向に曲がって息が止まってしまったので、慌てて回復魔法でなかった事にしておく。
一件落着。
しかし……ちょっと叩いただけで昇天しかかるとか、まったくひ弱な爺だぜ。
一応手駒として使えるので、強化しておいてやるとするか。
あんまり弱すぎると、なんかの手違い――体罰――で死なせてしまうかもしれないからな。
「さて……覚醒、っと」
理事長の頭に手を置き、能力を発動させる。
――覚醒。
覚醒は俺が神から授かった力の一つだ。
効果は対象の潜在能力を引き出すというシンプルな物である。
まあ理事長に潜在能力が無かったら、使っても全く意味はないが。
「ふおおおおお!体から!!体から力が漲ってくるぞおおお!!!」
覚醒させると理事長が意識を取り戻し、感極まった雄叫びを上げる。
余りにも五月蠅いので思わず頭を殴ったら、また気絶してしまった。
「起きたり寝たり。せわしない奴だ」
何となく、起き上りこぼしを思い起こしながら回復してやる。
戦闘能力を確認すると、元々400万しかなかった物が3,000万まで上がっていた。
どうやら理事長は結構な潜在能力を燻らせていた様だな。
「Bランク勇者以上、Aランク勇者以下って所か」
ビートよりは強いが、アレスとアナコンダよりは若干弱いって感じである。
因みに、勇者連中は全員戦闘時に能力が倍以上に膨れ上がっていたため、初期の判定よりも実際は強かった。
「ふおおおお!体から力が!!」
「もうそれはいいっての」
回復させたらまた叫び出したので、今度は気絶しない程度に殴って止める。
数十年ぶりにあそこをおっきさせた枯老人でもあるまいし、感動しすぎだ。
「申し訳ありません。余りの出来事に、ついつい年甲斐もなく興奮してしまいました。しかしこの突如沸き上がって来た力。ひょっとしてこれは墓地様のお力でしょうか」
「ああ、叩く度に死にかけて回復させるのも面倒だからな。潜在能力を引き出しておいてやったぞ。感謝しろ」
「ははあ!有難き幸せ!」
理事長がその場で土下座する。
土下座はこの世界でも、謝罪や感謝の際にする行動だ。
実は異世界ではファック・〇ーのポーズとかではないので、安心して欲しい。
「正に墓地様は神にも等しきお方!齢70にして新たな境地に立てるなど!このご恩は決して忘れません!!」
うざっ。
俺、こういう激しく掌返しする奴って大っ嫌いなんだよな。
大げさに行動すればするほど自分の寿命をゴリゴリ削りかねない事に、この爺さんは気づいているのだろうか?
「このマカレール・ロング!終生貴方様に忠誠を誓う事を宣言致します!」
「別に忠誠とかいらん」
俺は理事長の言葉に素っ気なく返した。
そもそも裏切ったら死ぬんだから、今更忠誠とか意味ないしな。
「そんな事より、リリスの事なんだが」
「はっ!そうでした!墓地様!魔神リリスはどうなったのですか!?」
「今は結界を張って部屋に閉じ込めてる。ぶん殴って粉々にしても、死ななかったからな」
「閉じ込めている!?粉々にした!?」
俺の言葉に、理事長が目を白黒させる。
そして口元に手をやり、考え込む様に――
「し、信じられん……魔神帝の娘であるリリスは、SSSランクの不滅の魔神。そんな化け物を粉砕し、結界で封じるなどと……ひょっとして墓地様は埒外《Extra》の……いや、しかしいくら何でも伝説レベルの力を持つというのは……だがそうでもなければそんな出鱈目が出来る訳も……はっ!そういえば墓地様はEランク……もしや測定時にxが抜けて表示された可能性も……もしそうならば、この学園始まって以来の……そうなればワシの評価も……」
――長々と独り言を始めた。
大丈夫かこの爺?
覚醒の影響で頭おかしくなってないだろうな?
「墓地様!以前の勇者鑑定は間違いだったかと思われます!召喚の間へと向かいましょう!そこで再び鑑定を行えば、今度こそ墓地様の真の力を測定できるかと!」
「面倒臭いしどうでもいい」
急に理事長が再鑑定を意気揚々と進めて来るが、バッサリと断る。
俺が知りたいのはリリスの封印の仕方であって、今更自分のランクなんざどうでもいい事だ。
「あ……そうですか」
興奮気味だった理事長は、俺の言葉にシュンとなった。




