第24話 ドロップキック
「今度はちゃんと地図付きだな」
昨日机の中に突っ込んだ決闘状が、今朝教室にやって来ると机の上に――俺はいつも同じ席に座っている――に置いてあった。
ラブツリーまでの詳細な地図付きで。
『ごめんなさい!私ったら、自分の勝手な常識で場所を指定しちゃいました。伝説のラブツリーの場所を示した地図を同封しますので、待ってます!』
「こんな文章、どんな顔して書いてるんだろうな?」
勇者がこんな事やってて恥ずかしくないのだろうか?
そんな疑問が浮き上がるが、まあ勇者だって人の子だ。
こういうおちゃめな部分があってもおかしくはないかと、適当に結論付ける。
重要なのは、これを書いた奴が俺にぶん殴られたいドM野郎である事というだ。
新しく調整した結界魔法のテストに丁度いい。
「んじゃ、間抜けの面でも見に行くとするか」
伝説の樹は、校舎の裏手にある例の湖の近くだ。
放課後になってそこへ向かう途中、何人かの女生徒を見かけたが、彼女達は皆一様に、俺の姿を見た瞬間凄い勢いで逃げ出してしまう。
それはもう、ここ数日の恒例行事となっている訳だが……彼女達は俺を魔王か何かだとでも思ってるのだろうか?
俺程全てにおいて公平な勇者などいないというのに。
本当に風評被害とは恐ろしい物だ。
「真っピンクだな」
地図で指定された場所に近づくと、一目でラブツリーを発見する事が出来た。
何せ葉から枝から、それ所か幹までピンク色をしているのだ。
此処まで行くと、もはやちょっとしたミュータントである。
その周囲の風景など知った事かと言わんばかりの、自己主張の塊の様なドピンクの巨木の下では、1人の女生徒が俺に向かって笑顔で手を振っていた。
「ふむ……」
女生徒は、胸は小さいが目の大きい、黒髪ボブの美少女だ。
点数で言うのなら90点って所か。
俺は駆け足気味に、その手を振る女生徒の元へ急いだ。
「墓地さん!来てくれ――」
そして彼女の目の前でジャンプし――
「ほげぇっ」
――その顔面にドロップキックをぶちかます。
「ふ、悪は滅びた」
倒れてぴくぴくしてる女生徒を見下ろし、腕を組んで俺が悦に浸っていると、ラブツリーの背後から野生の勇者が現れた。
「き、貴様!麗しいレディーになんて事を!!」
カイーナだ。
奴は凄い剣幕で女生徒に駆け寄ろうとするが、俺がその動きを殺気を込めた手で制した。
「俺の噂を知ってて決闘状を出したんだ。この子もきっと本望だろうさ」
「ふざけるな!彼女がお前の様な男に恋文など出す訳がないだろうが!」
「だろうな、知ってるよ。それより、他の奴らも出て来たらどうだ?」
「気づいていたか」
俺の呼びかけに、ラブツリーの裏側から野生の勇者BとCが姿を現す。
「分かっててのこのこやって来るとか、お前馬鹿だろ」
勇者B――少し背の低い、少年っぽい奴が挑発気に口の端を歪める。
名前は知らん。
まあどっちが本当に馬鹿なのか。
その答えを。こいつは直ぐに知る事になるだろう。
自らの身をもって。
「ちっ……いくら気づいていたとはいえ、いきなりこんな暴挙に出るとはな。どうやら想像以上にイカレている様だ」
無駄に前髪を伸ばしてセットしている、神経質そうなメガネの男が倒れている女生徒を見て、それから俺を睨みつけた。
どうやらお怒りの様である。
言うまでもないが、当然こいつの事は名前も知らない。
召喚された直後はハーレムへの期待で胸がいっぱいで、他の勇者達とかまったく気にしてなかったからな。
そしてその後はボッチ街道まっしぐらだったし。
「ところで……恥ずかしがり屋さんが一人いるみたいだな」
この場にいる勇者は4人。
俺は後ろに振り向いて、何もない場所に声をかけた。
「まさか……私に気づくとはね」
何もなかった場所に、突如青髪の長身の男が姿を現した。
スキルか魔法で姿を消していたのだろう。
「姿だけではなく、完全に気配も殺していたつもりなんだが……何故気づいたか聞いても?」
不意打ちしようとしておいて、何でバレたか聞いて来るとか厚かましい奴だ。
「ふ……勇者としての勘だ」
もちろん真っ赤な嘘である。
実際は神様から貰ったチート能力のお陰なのだが、それを素直に教えてやる謂れなんてないからな。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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