第23話 手紙
「ふぁーあ」
欠伸をしながら体を起こす。
教壇を見るとそこには誰もいない。
どうやら授業はもう終わっている様だ。
「昨日は結界魔法の改良で徹夜だったからなぁ。つい爆睡しちまったぜ」
マンツーマンの授業で、たった一人の生徒が眠る中、授業を淡々と行う。
講師にとっては地獄だった事だろう。
ま、俺の気にする事ではないが。
あいつらはそれで金貰ってる訳だしな。
「まだいるかな?」
机の中から、俺は便せんを取り出した。
便箋はピンク色をしており、封の部分にはハートマークのシールが付いている。
中身は――
『勇者墓地様へ。私、ペーリスといいます。急なお手紙に驚かれたかと思いますが、貴方に伝えたい事があって筆を執りました。実は私、あなたの力強い強さに凄く引かれてしまって……きゃっ、恥ずかしい><この胸の思いを直接貴方に伝えたい。でも会いに行く勇気がわかない。だから、貴方の方から私に会いに来てくださいませんか?偉大な愛の伝説が残るラブツリーの木の下で待ってます。墓地様がくるまでずっと。私ずっと待ってます!』
という内容の、女文字で書かれた俺への挑戦状だ。
今現在の俺にラブレターを渡して来る、クルクルパーがいるのなら見てみたい。
100%、俺をおびき寄せる罠だろう。
こんなのに引っかかる馬鹿がいるのだろうか?
まあ俺は行くけど。
ボコボコにしに。
「たぶん勇者の誰かなんだろうが……昔低能な不良グループが俺を呼び出す時に用意した偽のラブレターと内容がほぼ一緒だぞ。せめてもう少し推敲して、それっぽく見せる努力はしろよな」
取り敢えず行くかと、席を立ってから気づく。
伝説が残るラブツリーってどこだ?
と。
よく考えたらそんな怪しげな場所を俺は知らない。
何故なら、この世界の情報源となる知人友人などいないからだ。
「授業じゃ、伝説の樹とか教えてくれないしな」
一応ビートは知り合いに入るが、あいつとラブツリーなんて怪しげな場所の話などする訳もない。
「どうした物か」
3択だ。
・野生の勘で探し当てる。
・誰かに場所を聞く。
・面倒くさいので、もうどうでもいいや。
野生の勘でってのは、いくら何でも無理がある。
この学園、かなりくそ広いし。
そして「ラブツリーってどこにあるんだ?」なんて他人に聞くのは、絶対に嫌だ。
名前からして恋愛関係の場所だろうしな。
明らかにそういう事から無縁な俺が、それを誰かに聞くのは恥ずかしすぎる。
となると……残る選択肢は一つ。
「面倒くさいので1回パス!」
俺はノートの端を千切り、場所が分からないと書いてラブレターに挟んで机にしまった。
どうしても俺を襲撃したいのなら、これを見て何らかのアクションを起こして来るだろう。
成敗するのはそれからで十分だ。
まあこれで相手が諦める様なら、そんときはそん時だ。
「かーえろっと」
俺は教室を出て、さっさと帰る。
その夜遅く。
周囲の勇者から白い眼を向けられたカイーナが空に向かって「非モテがラブレターを貰ってやって来ないなんてありえない!何故だ!!」と叫んでいた様だが、当然俺には知る由もなかった。




