第20話 悩み事
昼休み。
バハムトさんや他の女生徒と一緒に食事を摂っていると、僕はとんでもない話を聞かされる事になる。
――100人近い女生徒が大けがをさせられ、更に坊主頭にされた、と。
「昨日今日と、休んでいる子が多いと思ったらそんな事が……」
普通に考えれば、そんな事は起こりえる訳がない。
彼を知る前の僕だったなら、きっと彼女達の冗談や他愛ない噂話と流した事だろう。
だが僕は知ってしまっている。
墓地無双と言う男を。
そう、疑う余地はないのだ。
彼ならやる。
それが墓地無双だ。
とは言え、何もないのに100人からの女生徒達を殴り倒し、髪を剃ったりは流石に彼もしないだろう。
あしざまに扱われて、衝動的に人を殴る様な事はあっても。
考えられるのは――
「えっと……バハムトさん。その女生徒達ってのは――」
「ご想像の通りよ。ベヒモス令嬢が音頭を取っていた、例の署名に協力した女生徒達」
「……やっぱりそうか」
彼に署名の話をした時、問題ないと楽しそうに笑っていた事を思い出す。
どうやらあの時点で今回の暴挙は決まっていた様だ。
頭が痛くなってきた……
「学園の彼に対する、処罰はもう決まっているのかい?」
それだけの数の女生徒に狼藉を働いたのだ。
いくら勇者とは言え、かなり重い罰が下る筈である。
「学園側は動かないみたいね。むしろ、今回の件に積極的に関与してたみたいよ」
「学園が!?」
「Aランクに覚醒した勇者を保護する為とは言え、貴族を大量に敵に回すなんて割に合わない行動よ。そう考えると……学園と墓地さんとの間に、私達の知らない何らかの密約があると考えるべきでしょうね」
この学園の生徒の大半は貴族の御令嬢達だ。
それを大勢敵に回す様な真似をするのは、学園側にとってリスクは大きい。
バハムトさんの言う様に、ハッキリ言って割に合わない行動である。
それでも墓地君を守るために動いているという事は……まあそういう事なんだろう。
学園と墓地君との深いつながり。
僕が話をしに行った時、彼の余裕の態度も納得だ。
「取り敢えず、墓地君が強く罰される事はないみたいだね」
まあ酷い目に合わされた女生徒達には同情するけど、彼女達の行動にも問題があったのは確かだ。
この世界の為に呼び出した勇者を、噂だけで――まあほぼ事実ではあるんだけど――追い出そうとしていた訳だしね。
それが無ければ、墓地君だって無為に人を傷つけたりはしなかった筈。
「それはどうかしらね?」
バハムトさんが楽し気に目を細めた。
こういう時の彼女は、大抵腹の中で損得計算をしている。
付き合いはそれ程長くはないが、それぐらいは分かる様になってきたつもりだ。
「学園じゃ、墓地君を庇いきれないって事かい?」
「ベヒモス令嬢が、相当ご立腹の様なのよ。以前の比じゃないわ。たぶん、私から言ってももう聞かないんじゃないかしら」
スザーク家は4大家門筆頭に当たる家門だ。
その発言力は大きい。
とは言え、4大とつく事からも分る様に、圧倒的な差がある訳ではないのだ。
だから相手が本気になってしまったら、ちょっとした圧力程度で止めるのは難しくなる。
「カツラをかぶれない様にしたのは流石に致命的だったわね」
「ん?カツラがかぶれない?どういう事だい?」
カツラをかぶれない。
言っている意味が分からず、僕はバハムトさんに聞き返した。
「墓地さんが何らかの魔法で、頭にかぶり物を出来ない様にしたらしいわよ。どうも、その魔法は1月は消せないみたいね」
「……」
髪を剃られて、しかも隠す事が出来ないとか……
流石にやり過ぎだよ、墓地君。
そんな頭じゃ外に出かける事も出来ないし――ゲンブー家の恥になる為――当然その間学園も休む必要が出て来る。
そりゃベヒモスさんが怒り狂うのも、もっともな話だ。
想像を超える墓地君の酷い行動に、軽くめまいがしてきた。
「ふふ、大義名分もあるし……ゲンブー家が本気で動き出したら、流石に学園でも庇いきれないでしょうね。彼、このままじゃ不味いわよ」
バハムトさんは、揶揄う様にそう言って来る。
だが冗談事ではない。
「……」
4大家はこの国において強い影響力を持つ。
学園側がいくら勇者に関わる重要な機関とは言え、ゲンブー家に本気で動かれたら墓地君を庇い続けるのは難しいだろう。
何とか彼の力になってあげたい所だが、残念ながら事態は僕の力でどうにか出来る範囲を遥かに超えている。
この事態を唯一何とか収める事が出来る人間がいるとしたら……
「それでも……君なら何とかできる。そうなんだろう?」
さっきバハムトさんは、自分が仲裁しても駄目だと言っていた。
だがもし本当に何もできないなら、僕の友人の窮地をあんなに楽し気に話したりはしなかっただろう。
つまり、彼女が本気で動けばまだどうにでもなるという事だ。
「ええ、そうね。私個人では難しくても、お父様の力添えがあれば何とかなると思うわ。ゲンブー家の今の当主様は、家にある宝器の一つを凄く欲しがってたから」
「宝器か……」
宝器と言うのは、強力な力を秘めたマジックアイテムだ。
当然簡単に手に入る様な物ではない。
「とはいえ。流石に《《ただの友人》》の頼みの為に、我が家の宝器を出すというのは……ねぇ?」
バハムトさんは僕を見てそういう。
つまり彼女はこう言いたいのだ。
僕が《《他人》》でなければ墓地君の為に宝器を出してもいい、と。
――要は僕に婿入りしろという事だ。
「……」
バハムトさんは4大家門筆頭の御令嬢である。
話によると、家督を継ぐ事も決まっているらしい。
そんな立場の女性にもかかわらず、彼女は他のAランクの勇者ではなく僕を選んだ。
ああ、言っておくけど……決して彼女は僕が好きという訳じゃないよ。
バハムトさんには、他人の隠された力――潜在能力を見抜く能力があるそうだ。
そして彼女が言うには、この学園に所属する勇者の中で僕のそれがダントツらしい。
そう、彼女は僕の覚醒を見込んで婿に取ろうとしている訳だ。
優秀な血をスザーク家に取り込み、戦力として僕を抱えるために。
「前にも言ったけど、私は愛人を咎めたりしないわ。何人でも取ってくれて構わないのよ。まあ出来れば、スザーク家に連なる家門の令嬢を多くとって欲しくはあるけど」
バハムトさんが周囲の女生徒に目をやる。
彼女達は全員、スザーク家に関連する家の御令嬢達だ。
全員にこやかな笑顔で余計な口を挟まず、静かに僕達の会話に耳を傾けている。
「前にも言ったけど……僕はただ一人の女性と、心から愛し合える関係を望んでいるんだ」
「じゃあ、私以外の一人とそうなればいいわ」
「……」
バハムトさんと結婚しておいて他の女性と真実の愛だなんて、そんなふざけた真似、僕には出来ないしする気もない。
だが、きっと言っても彼女には通じないだろう。
根本的な価値観が違うのだから。
「それで?どうするのかしら」
バハムトさんが答えを求めて来る。
墓地君を助けるという意味でなら、迷う必要はない。
だが、そのために自分の人生を縛り付けろと言われると……
「ま、別に直ぐに答えを出さなくても良いわ。ゲンブー家も直ぐに動き出しはしないでしょうから、ゆっくりと考えて頂戴」
そういうと、彼女は満面の笑みでニッコリと微笑んだ。
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