第11話 面の皮
禿祭りから3日。
理事長辺りが仕事をしてるのかどうか知らないが、ゲンブー家からの報復の様な物は特になかった。
今日も今日とてボッチ。
平和な物である。
「墓地君」
「よう、随分さっぱりしたな」
その日の放課後、ビートが久しぶりに俺の教室に顔を出す。
流石に3日も経つと、彼の荒涼とした砂漠に新たな命が芽吹いていた。
触ったらきっとジョリジョリする事だろう。
「君には良心という物がないのかい?」
「ちゃんとあるぞ?時と場合と相手を死ぬ程選ぶだけで」
厳選に厳選を重ね、難関とも言える審査を乗り越えた者のみに与える栄誉。
それが俺の良心である。
「それにこう言っちゃなんだが……もしビートだけ特別扱いしてたら、ベヒモスはきっと俺とグルだったって考えてたはずだぜ。あそこに俺を連れて行ったのは、お前な訳だしな」
「そうだったのか。僕への疑いを持たせないために……すまない。気遣ってくれたのに、君を責める様な事を言ってしまって」
俺の言葉に、ビートが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
その姿を見て、まだ教室に残っていた女生徒達がぎょっとする。
無能なEランク勇者に、ボウズ頭のBランクが頭下げてりゃ当然か。
「気にしなくていいさ。頭を上げてくれ」
頭を下げるビートに、俺は笑顔で爽やかに対応する。
まあ嘘だしな。
今適当に考えた理由で、実際はなんとなくで一緒に頭を丸めただけである。
「ありがとう、墓地君」
チョロい奴である。
将来絶対詐欺とかに会いそうだな、こいつ。
「で、今日は何しに来たんだ?」
ビートは俺にぶっ飛ばされた上に、頭まで丸められている訳だからな。
余程のアホでもない限り、用も無いのに会いに来たりはしないだろう。
「君に会わせたい人がいる」
「会わせたい人ぉ?宗教の勧誘ならお断りだぞ」
「君は僕を何だと思ってるんだい?」
騙されやすいチョロい奴。
「まあ冗談だ。それで?誰なんだ?」
「ここだと人目があるから、ちょっと――」
そう言ってビートは周囲を見渡す。
普段なら俺の事なんて気にもかけない女子連中だが、他の勇者が俺に頭を下げるショッキングなシーンを目にしたせいか、皆帰り支度を止めて此方の様子を窺っていた。
ビートはそれを気にしている様だ。
どうやら、人にはあまり聞かせたくない話の様だな。
ま、どうせゲンブー家関連の話だろうが。
「ついて来てくれ」
ビートはそういうと教室を出ていく。
が、直ぐに戻ってきてもう一度俺に声をかけた。
「頼むからついて来てくれ」
俺がついて来ていない事に、今度は直ぐに気づいた様だ。
学習して偉いぞ。
「わーったよ」
三顧の礼だ!
とか言って、もう一回無視してやろうかとも思ったが可哀想なので止めて置く。
ビートは良い奴だしな。
え?
だったら1回でついて行ってやれって?
断る!
俺は物事を勝手に進められるのが大っ嫌いだ。
「で、相手は誰なんだ?」
ビートは校舎を離れ、女子寮に向かって歩いて行く。
人気がない所で、俺は誰に会わせるつもりか彼に訪ねた。
「スザーク家の御令嬢で、バハムトさんだ」
「また4大家かよ」
スザーク家は、ゲンブー家と同じ4大家門にあたる家だ。
箸にも棒にもかからないEランク勇者の俺とは、当然面識などない。
「ベヒモスの仇は私が取るとか、そんな感じか?」
「まさか。その逆だよ。君に報復をしようとしていたゲンブー家に、ブレーキをかけてくれたのがバハムトさんのスザーク家だ」
「そりゃまたなんで?」
3日間特に何もないと思ったら、別の家の人間がストップをかけていた様だ。
「僕が助力を頼んだのさ。バハムトさんは同じクラスだからね」
「ああ、ビートのハーレムの一員な訳か」
勇者は全員別々のクラスに配置されている。
そして女子共は、自分の好みに合わせてクラスを選ぶ事が出来た。
当然、選ぶのは自分の狙いの勇者のクラスだ。
まあ俺のクラスにも女子はいるが、俺の所だけは特別だ。
ハーレム戦争に参加する気が無かったり、真面に勉強しようとしてる奴が、空いてるって理由で選んでるだけだからな。
所謂、自身の使命を放棄した不真面目な生徒って奴だな。
「ハーレムって……彼女はそんなんじゃないさ。そもそも、僕はハーレムなんて持つ気はないからね。僕が求めるのはそんな不純な物じゃなく……真実の愛さ!」
何言ってんだこいつ?
ビートのドヤ顔に、ちょっとイラっとする。
ハーレムを作りたくても作れない身からしたら、真実の愛がどうとかウザいだけなんだが。
殴っていいかな?
「ハーレム作る気がないなら、よくこの世界に召喚された事を受け入れられたな?」
急に異世界に呼ばれたら普通は不満爆発だ。
それでも「しょうがないにゃあ」となるのは、ハーレムが作れるからに他ならない。
異世界側が用意した飴に興味がないなら、なんでビートがすんなり受け入れたのか謎である。
「受け入れた理由かい?自分の生まれ育った場所とは別の世界。ロマンにあふれてるだろ。だからさ」
浪漫と来たか。
「頭お花畑みたいな理由だな」
「ま、僕の場合は家族や親しい仲間達が死んでしまっていたからってのも大きいけどね」
ビートはそう言って、寂しそうに空を眺める。
「天涯孤独って奴か。まあ俺も同じ様なもんだ」
もし両親が生きていたら、俺はあらゆる手を使って元の世界に帰ろうとしていただろう。
スマホ片手にWiFiで回線拾って満足なんて絶対していない。
「墓地君もかい?」
「ああ。ひょっとしたら、この世界に呼ばれている勇者は全員同じ様な境遇なのかもな」
以前は何も考えずにスケベェ共めと決めつけていたが、よくよく冷静に考えると、いくら英雄色を好むと言っても、全員が全員ハーレムの権利で納得するなんてありえない。
そう考えると、異世界に呼ばれても元居た世界への未練を直ぐに断ち切れる奴が召喚されていると考えた方が妥当だろう。
「ん?」
女子寮の門の前に人だかりが出来ていた。
人だかりは一人の長髪の男を中心に、十数人の女生徒によって構築されている。
当然その男は勇者だ。
まあ名前は知らんが。
「あれは……勇者カイーナ」
「門の前でいちゃつくとか、迷惑なやつらだな」
カイーナは、女生徒一人一人をゆっくりとハグして周っている。
おそらく全員奴のハーレム要員だろう。
守衛が困った様な表情をして見ているが、奴は気にも留めていない。
良い面の皮である。
「おや、勇者ビートじゃないか」
無視して門を通り抜けようとすると、ビートが呼び止められてしまう。
仕方がないので俺も一緒に止まる。
一人で勝手にスザーク家の宮殿に行く訳にもいかないからな。
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