第10話 禿祭り
「墓地君!?何を!?」
ビートが形容しがたい間抜け面をする。
彼はベヒモスの言葉を聞いていなかったのだろうか?
「ん?喧嘩売られたから」
脅しをかけてきた以上、成敗するしかない。
あの女の自業自得だ。
いや、あの女だけではないな。
「さて、連帯責任て言葉知ってるか?」
他の奴らはベヒモスの様に俺を脅してきた訳ではないが、虎の威を借りている以上こいつらも同罪だ。
全員仲良く顔面粉砕させて貰う。
「ぶぇっ!」
俺は笑顔で一番手近な女の顔面を蹴り飛ばす。
吹き飛んだ女は地面にひっくり返って、死にかけの蛙みたいに手足を痙攣させる。
じゃあ次を――
「よせ!」
「貴様!!」
その横の女にターゲット移した所で、ビートに腕を捕まれ、抜剣した騎士達がその切っ先を俺へと向けてくる。
――が、気にせず固まっている女の顔に俺は蹴りを放つ。
「ぴぎゃっ!」
女が吹っ飛ぶ。
だが地面に落下する前に、それをメイドがナイスキャッチしてしまった。
中々いい動きをするなと思い戦闘力を測ったら、250万もありやがる。
どうやらこのメイドさんは護衛も務めている様だな。
全然役には立ってないけど。
「墓地君!止めるんだ!」
ビートに体を引っ張られ、背後から両肩を押さえられた。
「止めないでくれるか?俺はやると決めたら徹底的にヤル質なんだ」
「やり過ぎだ!君を脅そうとしたベヒモスさんはまだ分かる。けど、他の女生徒達は関係ないじゃないか。やり過ぎだ」
「ビート、一味とか一党って言葉を知ってるか?こういう場合は、全員同罪だ」
一見、俺を脅したのはベヒモスだけの様に見えるだろう。
だが違う。
他の奴らもゲンブー家の威光を笠に着て、俺の謝罪を一緒に引き出そうとしていた。
その時点で脅しは成立しているのだ。
共犯者として。
そして喧嘩を売ってきた奴は、全て拳で示談する。
それが俺の流儀だ。
「言っても無駄か……なら、力づくで止めさせて貰う!」
俺の両肩を掴むビートの手に、力が強く籠められた。
が、100倍近い力の差がある以上、その行動は無意味である。
俺は回転する体の動きだけでその手を外し、ビートの腹部に拳を叩き込んだ。
「面倒くさいから、ちょっと寝ててくれ」
「ぐ……つぅ……」
「あれ?」
悶絶レベルの一撃をくれてやったにも関わらず、ビートは腹を押さえて数歩下がるだけで堪えてしまった。
1000万程度じゃ絶対耐えられない筈の攻撃なのに、なんでだ?
「とてもEランク判定とは思えない力だ……墓地君。悪いけど、君を止めるため本気で行かせて貰う」
そう言って、ビートが拳を構える。
腰の剣は抜いていないので、あくまでも俺を止めるという指針の様だ。
しかし……本気をだす、か。
その言葉が少し気になって、俺はビートの戦闘能力を鑑定で確認してみる。
「――っ!?」
驚くべき事に、彼の戦闘能力は2000万まで跳ね上がっていた。
――覚醒という言葉が、一瞬脳裏を過る。
この世界に召喚された勇者は、稀に覚醒する事があるそうだ。
その際には、力が数倍に跳ね上がるらしい。
授業でそう聞いた。
けど……覚醒は違うか。
たった2倍だし、ビートは本気を出すって言ってたからな。
急に目覚めた力をそんな風には言わないはず。
そう考えると、力を押さえていた。
もしくは何らかの方法、スキルなどで上昇させたと考えるのが妥当か。
まあどちらにしても結果は変わらない。
俺は一瞬でビートの懐に潜り込み、もう一度腹部に拳を叩き込む。
今度はさっきよりも強く。
「がはっ……そん……な……」
今度こそビートはその場で崩れて動かなくなった。
ぐっない。
いい夢見ろよ。
「そんな!?勇者様が!?」
「さて、邪魔者もいなくなったし。続きを――」
「させるかぁ!」
「これ以上の狼藉は許しません!」
剣を手にした女騎士二人と、さっき見事なキャッチを決めたメイドさん――長い針の様な物を何本か手にしている。
それにここまで案内してくれた女執事が、ナイフを片手に同時に襲い掛かって来た。
「無駄だって分かってるだろうに……」
全員戦闘力は200万から300万の間だ。
ビートを瞬殺した時点で、4人がかりだろうと俺に敵わない事は分かる筈。
忠誠心か、それとも逃げ様のないしがらみからか。
どちらにせよ――
「ぎゃっ……」
「がっ……」
「ぶべっ……」
「ひぎゃ……」
全員片腕をへし折り、顔面に一発ずつ入れて鎮める。
善意の塊の様なビートですら殴って黙らせた俺が、自分達の都合で武器を持って襲い掛かってきた奴らに容赦する訳もない。
「ひぃぃ……」
「助けて……」
「安心しろ。しこたま痛いだけで、殺したりはしない」
怯える二人を優しく諭すように笑顔でそう告げ、顔面をぶん殴って寝かしつけてやる。
「さて、2度目だし殴って終わらせるってのはあれだよな」
どうした物かと考えていると、地面でぴくぴくしてるベヒモスの金髪縦ロールが目に入る。
この髪型、明らかにウザいよな……
「よし!俺がサッパリさせてやろう」
手にオーラで刃を纏い、剃刀宜しくショリショリとベヒモスの金髪を根元から丁寧に剃り上げて行く。
「反省する時は坊主頭が基本だよな。けど、この世界って回復魔法があるんだよな」
ベヒモスの見事なつるっぱげに、悦に浸りつつも気づく。
この世界に回復魔法がある事を。
「こういう場合、生えてくんのかな?」
試しにベヒモスのきらめく頭に回復魔法をかけて見た。
だが――
「生えて来ねーな。怪我として判定されないのか……ま、毛がねーんだしな!」
俺は御機嫌に鼻歌を歌いながら、その場の女性陣の髪をそり上げて行く。
途中、何人か異変に気付いたメイドや騎士が襲い掛かって来たが、全員仲良く丸坊主だ。
仲間ハズレは可哀想なので、ついでにビートも。
「用も済んだし、帰ろ」
勿論帰り際、適当に暴れて宮殿を廃墟にしてやったのは言うまでもないだろう。
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